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6.謝罪の場にて
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私はお父様とラウエル様とともに、フェルディス伯爵家の屋敷を訪ねていた。
ラスタール公爵家の介入によって、マートン子爵家に対する風評は概ね覆ったといえる。婚約破棄した身勝手な令嬢を有する家ではなく、被害者とみなされるようになったのだ。
そして今、私達の目の前には加害者であるバルクルがいる。彼はフェルディス伯爵とともに、私達に謝罪することになったのだ。
「この度は、本当に申し訳ない。バルクルの行動は、マートン子爵家の名誉を著しく傷つけるものだった。マルティア嬢が仕方ないから妥協するなどと言われて、怒るのは当然のことだ。にもかかわらず、バルクルはそれを逆恨みして悪評を流した。それは許されることではない」
フェルディス伯爵は、今回の件についてはかなり遅くに知ったようである。
魔物の大量発生という非常事態の対応に追われて、気付いた時には既に取り返しのつかない状況になっていたらしい。
そんな伯爵の謝罪には、少し心が痛む。とはいえ、それは仕方ないことである。家長である彼は、息子の不始末も背負わなければならない立場なのだ。
「……バルクル、お前も謝るのだ」
「……」
「おや……」
フェルディス伯爵は、隣にいるバルクルに謝罪を促した。
しかし彼は、それに応えない。その視線は、ラウエル様の方に向いている。
「バルクル伯爵令息、どうかしましたか?」
「お前は何者だ?」
「はい?」
「何故お前のような奴が、マートン子爵家に……マルティアに味方する?」
バルクルは、その表情を歪めてラウエル様に問いかけた。
彼からすれば、この場にラスタール公爵家の令息がいるということ――そもそもラウエル様が何故私達の味方をしているのか、意味がわからないということだろう。
しかしそれにしても、バルクルはラウエル様にひどく敵意を向けているような気がする。彼の性質からすれば、怒りは私に向けるものだと思うのだが。
「……なるほど、そういうことですか」
ラウエル様は、ゆっくりとため息をついた。
彼は少し、冷めた目をしている。バルクルに絡まられても、冷静でいられるのは流石だ。
ただ彼は、何を納得しているのだろうか。バルクルの怒りは、なんとも理不尽なものであるというのに。
「バルクル伯爵令息、あなたは色々と勘違いされているようですね」
「勘違いだと?」
「バルクル、やめないか」
ラウエル様の言葉に、バルクルは表情をさらに歪ませた。
どうやら彼にとって、今の言葉は余程気に食わないものだったらしい。フェルディス伯爵の言葉に耳を貸さず、バルクルはラウエル様を睨みつけている。
「お前はマルティアのなんなのだ? この僕を見下して……」
「僕はマルティア嬢の友人ですよ。あなただって、かつてはそうだったはずです。マルティア嬢を思いやる心を持っていたのではありませんか?」
「な、なんだと……」
「いつからかあなたは、独りよがりになったのかもしれませんね。その気持ちの欠片は、理解できない訳ではありません。しかしそれは、大きな間違いです。あなたはマルティア嬢をひどく傷つけたのですから」
ラウエル様は、ゆっくりと首を横に振った。
バルクルの方は、目を丸めている。彼は何も言葉を発さない。しかしその呼吸は、刻々と荒くなっている。
「ぼ、僕はただ……」
「もう終わりにしましょう、全てを……せめてもの潔さを、あなたは見せるべきです」
「くそっ、くそうっ……」
バルクルの目からは、涙が流れていた。
よくわからないが、悔しがっているようだ。彼は先程までの勢いを失い、震えていた。
それに私は驚く。ラウエル様は確かに芯を持って発言をしたが、それがバルクルにここまで響くなんて予想外である。
それ程に刺さるものがあったということなのだろうか。バルクルは大粒の涙を流しながら、項垂れていた。
ただこの場にいる私以外の人達は、特に驚いていない。お父様やフェルディス伯爵は、バルクルの気持ちがわかるということなのだろうか。
何はともあれ、バルクルには最早気力はなさそうだった。結局謝罪の言葉はなかったが、これ以上彼を責めようとは思わない。その屈辱に塗れた涙を見てこちらの胸は少しすっきりしたし、私としてはバルクルのことはこれで終わりということにしよう。
ラスタール公爵家の介入によって、マートン子爵家に対する風評は概ね覆ったといえる。婚約破棄した身勝手な令嬢を有する家ではなく、被害者とみなされるようになったのだ。
そして今、私達の目の前には加害者であるバルクルがいる。彼はフェルディス伯爵とともに、私達に謝罪することになったのだ。
「この度は、本当に申し訳ない。バルクルの行動は、マートン子爵家の名誉を著しく傷つけるものだった。マルティア嬢が仕方ないから妥協するなどと言われて、怒るのは当然のことだ。にもかかわらず、バルクルはそれを逆恨みして悪評を流した。それは許されることではない」
フェルディス伯爵は、今回の件についてはかなり遅くに知ったようである。
魔物の大量発生という非常事態の対応に追われて、気付いた時には既に取り返しのつかない状況になっていたらしい。
そんな伯爵の謝罪には、少し心が痛む。とはいえ、それは仕方ないことである。家長である彼は、息子の不始末も背負わなければならない立場なのだ。
「……バルクル、お前も謝るのだ」
「……」
「おや……」
フェルディス伯爵は、隣にいるバルクルに謝罪を促した。
しかし彼は、それに応えない。その視線は、ラウエル様の方に向いている。
「バルクル伯爵令息、どうかしましたか?」
「お前は何者だ?」
「はい?」
「何故お前のような奴が、マートン子爵家に……マルティアに味方する?」
バルクルは、その表情を歪めてラウエル様に問いかけた。
彼からすれば、この場にラスタール公爵家の令息がいるということ――そもそもラウエル様が何故私達の味方をしているのか、意味がわからないということだろう。
しかしそれにしても、バルクルはラウエル様にひどく敵意を向けているような気がする。彼の性質からすれば、怒りは私に向けるものだと思うのだが。
「……なるほど、そういうことですか」
ラウエル様は、ゆっくりとため息をついた。
彼は少し、冷めた目をしている。バルクルに絡まられても、冷静でいられるのは流石だ。
ただ彼は、何を納得しているのだろうか。バルクルの怒りは、なんとも理不尽なものであるというのに。
「バルクル伯爵令息、あなたは色々と勘違いされているようですね」
「勘違いだと?」
「バルクル、やめないか」
ラウエル様の言葉に、バルクルは表情をさらに歪ませた。
どうやら彼にとって、今の言葉は余程気に食わないものだったらしい。フェルディス伯爵の言葉に耳を貸さず、バルクルはラウエル様を睨みつけている。
「お前はマルティアのなんなのだ? この僕を見下して……」
「僕はマルティア嬢の友人ですよ。あなただって、かつてはそうだったはずです。マルティア嬢を思いやる心を持っていたのではありませんか?」
「な、なんだと……」
「いつからかあなたは、独りよがりになったのかもしれませんね。その気持ちの欠片は、理解できない訳ではありません。しかしそれは、大きな間違いです。あなたはマルティア嬢をひどく傷つけたのですから」
ラウエル様は、ゆっくりと首を横に振った。
バルクルの方は、目を丸めている。彼は何も言葉を発さない。しかしその呼吸は、刻々と荒くなっている。
「ぼ、僕はただ……」
「もう終わりにしましょう、全てを……せめてもの潔さを、あなたは見せるべきです」
「くそっ、くそうっ……」
バルクルの目からは、涙が流れていた。
よくわからないが、悔しがっているようだ。彼は先程までの勢いを失い、震えていた。
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それ程に刺さるものがあったということなのだろうか。バルクルは大粒の涙を流しながら、項垂れていた。
ただこの場にいる私以外の人達は、特に驚いていない。お父様やフェルディス伯爵は、バルクルの気持ちがわかるということなのだろうか。
何はともあれ、バルクルには最早気力はなさそうだった。結局謝罪の言葉はなかったが、これ以上彼を責めようとは思わない。その屈辱に塗れた涙を見てこちらの胸は少しすっきりしたし、私としてはバルクルのことはこれで終わりということにしよう。
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