私に悪役令嬢は荷が重い。

８．彼への頼み事

「正直な所、驚いています。フレーナ嬢があのようなことをするとは思えませんでしたが、作戦というのは私の中にはなかった発想です」
「まあ、そうですよね……」

　シルヴァール伯爵令息は、私に対して少し困惑しながら言葉をかけてきた。
　彼にとって、ここ最近は困惑の連続であるだろう。教室でノルヴァル男爵令息の一件を見てから、彼には問題続きだ。

「しかし、私に話とは一体なんでしょうか？」
「ああ、メアリのことなのですが……」
「メアリさんのこと……なるほど、道理で二人きりで話を所望した訳ですか」

　私は、シルヴァール伯爵令息を呼び出していた。彼に頼みたいことがあったからだ。
　それはイージス殿下とも相談したことではある。ただ、あまり私と彼がともに行動するのも良くないため、関わりがある私の方がシルヴァール伯爵令息を呼び出した形だ。

「彼女のことをシルヴァール伯爵令息は心配していましたよね？」
「……ええ、失礼かもしれませんが、王家が立てた作戦は彼女にそれなりの負担があるものだと思いましたから」
「当然のことだと思います。だからこそ彼女のことを気に掛けていただけませんか？」
「私が、ですか？」

　シルヴァール伯爵令息は、少し驚いたような表情をした。
　それは私達の作戦において、彼女を助けるのがイージス殿下だからだろう。
　私達としては、彼の兄であるアルファン殿下とともに、メアリを王家と結びつけようとしている。

　ただ、アルファン殿下は上の学年で、イージス殿下は現在マナセリア嬢のことを警戒しているため、二人はメアリを十全に気遣える状況ではない。
　そこでシルヴァール伯爵令息の手を借りることにした。彼の性格上、その頼みを恐らく断らないだろうという打算も含めて。

「こちらも色々とあって……まあ私は、立場上彼女には寄り添えないのはご存知でしょうが」
「私としては、別に構いませんよ。メアリさんのことは、元々気になっていましたから。ただ……」
「何かありますか？」
「フレーナ嬢は大丈夫なのですか？」
「え？」

　シルヴァール伯爵令息の言葉に、私は思わず気が抜けた反応を返してしまった。
　しかし考えてみれば、事情を知っているならば私や取り巻き役の二人も、辛い立場にある。シルヴァール伯爵令息は、そういった観点も気にしているようだ。

「お優しいのですね。しかし私は、大丈夫です。この役目は、成すべきものですから」
「王家の命令とはいえ、どうしてそこまで……」
「親友との約束だからです。本来なら私の役目は、その親友が背負うものでした。だけど彼女は事情があってここに来られず……そんな彼女に託されたのです。その信頼に、私は応えたいと思っているんです」
「約束ですか……フレーナ嬢は、律儀な人ですね。中々できることではないと思います」

　シルヴァール伯爵令息は、笑顔を浮かべていた。
　それは私のことを評価してくれたと、捉えても良いものだろうか。
　ともあれ彼の協力は取り付けられた。これは大きなものだ。彼ならばきっと、メアリのこともしっかりと見守ってくれるだろう。