貧乏伯爵家の妾腹の子として生まれましたが、何故か王子殿下の妻に選ばれました。

木山楽斗

文字の大きさ
3 / 15

3.

しおりを挟む
 私は、荷造りを始めていた。
 一応、この屋敷にも私の私物といえるものはある。それを持ち出すくらいは、許してもらえたのだ。
 それは、お父様が進言してくれたからなのかもしれない。だが、その辺りは私にとってはどうでもいいことである。もう私は、彼らと関わることもないのだから。

「……あら、まだいたんですね?」
「……ふん、薄汚い格好だ」

 そんなことを考えながら作業をしている私の元に、よく知っている者達が現れた。
 彼らは、私のお姉様とお兄様である。もっとも、彼女らは私のことを妹と思っていないだろうし、私も彼らのことを姉や兄とは思っていない訳ではあるが。

「何かご用でしょうか?」
「用なんてありませんわ。少なくとも、あなたがここから出て行くまでは」
「ここにあるものは、全てがアルフェンド伯爵家の資産だ。お前が出て行った後、僕達はそれを選定しなければならない」
「……ああ」

 二人の言葉に、私は理解した。
 現在、アルフェンド伯爵家は財政的に苦しいらしい。そのために、売れるものは売るつもりなのだろう。
 貴族としての誇りがあったのか、この部屋にもそれなりの家具などが置かれている。そういったものは、確かに大切な資産であるだろう。

「そんなに厳しいのですね、アルフェンド伯爵家は……」
「あなたに、そんなことを言われる筋合いはありませんわね」
「その通りだ。お前のような余分な存在に、アルファンド伯爵家について語られたくはない。お前はさっさと出て行けばいいのだ」

 私が思わず口にしてしまった言葉に、お姉様もお兄様も表情を変えた。敵意に満ちたその顔を見ても、今はそれ程怯むことはない。
 この二人の悪態を聞くのも、今日で終わりだ。そう思うと、心もいくらか軽くなる。

「言われなくても、すぐに出て行くつもりです。荷造りが終わったら」
「荷造りする程、あなたにものが与えられていたという事実に、私は驚いていますわ。あなたなんかにお金をかけていたなんて、馬鹿らしいことこの上ありませんわね」
「本当だ。母上は、本当に寛大な方だな。お前も感謝するべきだ」
「ええ、ありがとうございましたと伝えておいてください」
「なっ……!」

 心が軽くなったからか、私の口はいつもよりも回っていた。
 考えてみれば、お父様と先程話をするまで、私は誰とも会話を交わしていなかった。そのため今までの分、言葉が出てきているのだろうか。
 例え、相手が誰であっても会話というものは大切なものであるらしい。嫌味な反応が返ってくるにしても、言葉を交わすことを体が望むくらいなのだから、そうなのだろう。

「生意気な奴だ。忌々しい、お前の存在が……!」
「その顔をもう見なくて済むと思うと、清々しますわね」
「早く出て行け! この愚物が!」

 お兄様もお姉様も、私に対して怒っているようだった。
 確かに煽るような言葉を言った自覚はある。だが、この程度でそんな風に反応するのは、少々気が短すぎるのではないだろうか。
 余裕のない性格というのは、お母様に非常に似ている。この二人とも、貴族として大成できないのではないだろうか。私は、ぼんやりとそんなことを思うのだった。

「……お二人とも、こちらにいらっしゃったのですね」
「む?」
「あら、どうかしましたか?」

 私の荷造りが丁度終わりかけていた時、部屋に一人の女性がやって来た。
 その女性のことを私はまったく知らない。ただ、メイド服を着ていることから使用人ではあるのだろう。
 なんだか彼女は、焦ったような顔をしている。何か問題でも発生したのだろうか。

「……エノフィア様」
「え?」

 そのメイドさんは、私に声をかけてきた。
 使用人が私に話しかけてくるなんて、滅多にないことである。だが、この状況ならそれもあり得るのかもしれない。出て行く身である私に何か用があるなら声をかけることもあるだろう。

「お客様がいらっしゃっています」
「お客様?」

 しかし、私はメイドさんの言葉に驚くことになった。
 私にお客様が来ている。それは私が出て行くことに関係なく、非常事態であったからだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

聖女は神の力を借りて病を治しますので、神の教えに背いた病でいまさら泣きついてきても、私は知りませんから!

甘い秋空
恋愛
神の教えに背いた病が広まり始めている中、私は聖女から外され、婚約も破棄されました。 唯一の理解者である王妃の指示によって、幽閉生活に入りましたが、そこには……

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

政略でも愛は生まれるのです

瀬織董李
恋愛
渋々参加した夜会で男爵令嬢のミレーナは、高位貴族の令嬢達に囲まれて婚約にケチを付けられた。 令嬢達は知らない。自分が喧嘩を売った相手がどういう立場なのかを。 全三話。

処理中です...