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8.(ゼルーグ視点)
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女性の容体が落ち着いたということで、僕は王族として彼女を激励するためにその近くまで来ていた。
事情を聞くつもりではあるが、彼女の容体が悪くなるようなら、それも諦めなければならない。あくまでも人命優先が第一だ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい、お陰様でよくなりました。本当にありがとうございます」
女性は、少し緊張しているように見える。もちろん、僕は王族なので、緊張する当然のことだ。
しかし、僕は逆に違和感を覚えていた。王族や貴族と初めて会話するにしては、緊張の度合いが低いように思えてしまったのだ。
ただ、それには個人差もあるはずなので、とやかく言うつもりはない。そもそも、今僕がやるべきことは、彼女を激励するというパフォーマンスであるべきだ。
「災難でしたね。どうか、お体に気を付けてください」
「はい……」
僕の言葉に、女性は震えたような声で返事をした。
ここまで会話してわかったが、彼女からは敵意のようなものをまったく感じない。とても穏やかな人だとそう思う。
先程までとは随分と印象が異なる。だが、あの視線が気のせいだったとはとても思えない。それは僕だけではなく、ローガスが証明できることだ。
「もしもよろしかったら、少しお話を聞かせていただけませんか?」
「お話、ですか?」
「失礼ながら、あなたは倒れる前に僕の方を見ていたような気がします。何か言いたいことなどがあったのではないでしょうか?」
「そ、そうだったのですか? それは、失礼しました。ただ、その時のことはよく覚えていないのです。意識が朦朧としていて……」
「そうですよね……」
女性の言葉は、納得できるものだった。
倒れる直前に何をしたかなんて、覚えているはずはない。つまりあれは、ほぼ無意識の行動であったと考えるべきだ。
例えば、僕と似た人物に恨みを持っていて、それが倒れる間際に向けられたというなら、筋も通るのではないだろうか。朦朧とする意識の中で、恨みある人物を見つければ、そういった視線を向ける可能性もあるはずだ。
「王族……いえ、貴族と何かがありましたか?」
「え?」
「いえ、すみません。なんとなく、そのような雰囲気を感じてしまって……」
「……」
「忘れてください。そんなことよりも、今は体を休めないと……」
僕の質問に、女性は驚いたような顔をした。その反応は、図星であるように思える。
とはいえ、それを話したいと思ってはいないかもしれない。それなら、無理に話してもらう必要はないだろう。
今までの話から、そう思えるようになった。少なくとも彼女は、僕に対して思う所があったという訳ではない。それなら、僕が踏み込むべきではないはずだ。
僕は、自分が浅はかだったと理解した。今の質問は、口に出すべきではなかった。それが判断できなかったのは、未熟としか言いようがない。
「……ゼルーグ殿下、少し待ってください」
「……はい、なんですか?」
「殿下にこんなことを話していいのかどうか、それは私には判断できません。ただ聞いていただけるなら、聞いてもらいたいとそう思っています」
そんな僕を女性は呼び止めてきた。
彼女が話を聞いてもらいたいと思っているなら、聞くべきではあるだろう。それが今の僕にできる償いである。
事情を聞くつもりではあるが、彼女の容体が悪くなるようなら、それも諦めなければならない。あくまでも人命優先が第一だ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい、お陰様でよくなりました。本当にありがとうございます」
女性は、少し緊張しているように見える。もちろん、僕は王族なので、緊張する当然のことだ。
しかし、僕は逆に違和感を覚えていた。王族や貴族と初めて会話するにしては、緊張の度合いが低いように思えてしまったのだ。
ただ、それには個人差もあるはずなので、とやかく言うつもりはない。そもそも、今僕がやるべきことは、彼女を激励するというパフォーマンスであるべきだ。
「災難でしたね。どうか、お体に気を付けてください」
「はい……」
僕の言葉に、女性は震えたような声で返事をした。
ここまで会話してわかったが、彼女からは敵意のようなものをまったく感じない。とても穏やかな人だとそう思う。
先程までとは随分と印象が異なる。だが、あの視線が気のせいだったとはとても思えない。それは僕だけではなく、ローガスが証明できることだ。
「もしもよろしかったら、少しお話を聞かせていただけませんか?」
「お話、ですか?」
「失礼ながら、あなたは倒れる前に僕の方を見ていたような気がします。何か言いたいことなどがあったのではないでしょうか?」
「そ、そうだったのですか? それは、失礼しました。ただ、その時のことはよく覚えていないのです。意識が朦朧としていて……」
「そうですよね……」
女性の言葉は、納得できるものだった。
倒れる直前に何をしたかなんて、覚えているはずはない。つまりあれは、ほぼ無意識の行動であったと考えるべきだ。
例えば、僕と似た人物に恨みを持っていて、それが倒れる間際に向けられたというなら、筋も通るのではないだろうか。朦朧とする意識の中で、恨みある人物を見つければ、そういった視線を向ける可能性もあるはずだ。
「王族……いえ、貴族と何かがありましたか?」
「え?」
「いえ、すみません。なんとなく、そのような雰囲気を感じてしまって……」
「……」
「忘れてください。そんなことよりも、今は体を休めないと……」
僕の質問に、女性は驚いたような顔をした。その反応は、図星であるように思える。
とはいえ、それを話したいと思ってはいないかもしれない。それなら、無理に話してもらう必要はないだろう。
今までの話から、そう思えるようになった。少なくとも彼女は、僕に対して思う所があったという訳ではない。それなら、僕が踏み込むべきではないはずだ。
僕は、自分が浅はかだったと理解した。今の質問は、口に出すべきではなかった。それが判断できなかったのは、未熟としか言いようがない。
「……ゼルーグ殿下、少し待ってください」
「……はい、なんですか?」
「殿下にこんなことを話していいのかどうか、それは私には判断できません。ただ聞いていただけるなら、聞いてもらいたいとそう思っています」
そんな僕を女性は呼び止めてきた。
彼女が話を聞いてもらいたいと思っているなら、聞くべきではあるだろう。それが今の僕にできる償いである。
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