貧乏伯爵家の妾腹の子として生まれましたが、何故か王子殿下の妻に選ばれました。

木山楽斗

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「そこで僕は聞いたのです。彼女とアルフェンド伯爵家の間に何があったのかということを……」
「……」

 ゼルーグ殿下が語ったことに、私は震えていた。
 彼が出会った人物が誰であるか、それは考えるまでもない。間違いなくその人物は私の母親である。
 それを理解した結果、震えが止まらなくなってしまった。この震えを止めるためには、さらに話を聞く必要があるのだろう。

「……失礼します」
「え?」

 次の瞬間、私の手に温もりが伝わってきた。
 それが、ゼルーグ殿下の手であるということは、すぐに理解できた。彼はいつの間にか私の隣に移動しており、私の手を握っていたのだ。

「少し顔色が悪かったものですから……」
「あ、えっと……」

 私は、自分の震えが収まっていることに気付いた。いつの間にか私は、安心していたようである。
 人の温もりがこんなにも安心感を与えてくれるものだったとは知らなかった。これは、彼に感謝するべきなのかもしれない。

「……ありがとうございました。もう大丈夫です」
「いえ、急に手を握ったりして申し訳ありませんでした」
「お気になさらないでください」

 私の言葉に、ゼルーグ殿下は再び向かいの椅子に座った。
 なんだか少し寂しいような気もする。とはいえ、隣にいて欲しいなんて言える訳もないので、これは仕方ない。
 思えば、人に触れられるのも随分と久し振りなことだ。最後に触れ合ったのはいつだっただろうか。それすらも思い出すことができない。

「さて、話に戻っても構いませんか?」
「はい、お願いします」
「……ところで、あなたはどこまで知っているのでしょうか? あなたのお母上とアルファンド伯爵家との間にあったことについて……」

 そこで、ゼルーグ殿下はそのように問いかけてきた。
 私の本当の母親と伯爵家にあったこと。そこに関して私が知っていることは、恐らくとても少ない。

「誰も教えてくれなかったので、ほとんど知りません。知っていることといえば、私は妾の子であるということくらいです。母がどのような人だったのか、私がどうしてアルファンド伯爵家の屋敷にいるのか。その辺りすら、わかっていないのです」
「そうでしたか……」

 私は、本当にほとんど知らなかった。
 母親が父の浮気相手であり、自分が妾の子であるという以上のことを、私は知らされていないのだ。
 私の本当の母は、一体私のことをどう思っていたのだろうか。それが今は、とても知りたかった。

「知られて困るような事実が、何かあったのでしょうか?」
「どうなのでしょうね……困る事実があったかどうかは、僕にも判断ができません。単に嫌がらせであったという可能性もあります。もしくは、アルファンド伯爵家にとっては口に出したくない事実だったということなのかもしれません」
「まあ、わざわざ私に教える利益もなかった、ということでしょうか……」

 アルファンド伯爵家は、私となるべく関わらないようにしていた。
 事実を教えていいかどうかということは関係なく、ただ単に私と関わる機会を増やしたくなかったのかもしれない。
 何か理由があるというよりも、そちらの方がしっくりくる。考えてみればこの屋敷の人々は、そういう人達だ。
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