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31.顔を見れば
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「えっと……とりあえず、自己紹介からしますね。私は、ルルメアです」
「あ、はい……」
場を仕切り直すために、私は自己紹介することにした。
トゥーリンさんは、先程までに比べてかなり落ち着いている。やっと興奮が冷めてきたようだ。
「スライグ君から、色々と聞いているけど、あなたはズウェール王国出身なのよね?」
「あ、はい。そうです」
「それで、このアルヴェルド王国に移住してきて、仕事を探している。そんな感じだと聞いたのだけど、間違いない?」
「はい、間違いありません」
トゥーリンさんは、私の身の上を聞いてきた。スライグさんは、私が聖女であるという部分は伏せていると言っていた。逆に言えば、それ以外はほとんど真実を伝えたということである。
「あちらでは、とある商会の管理職をしていたけど、仕事が忙しくて体を壊してしまったからそれをやめた。あなたのそんな経歴を聞いた時、私よりも年下なのに大変な人もいるんだなあと思っていたけど、顔を見て改めて思ったわ。あなた、とても苦労してきたのね?」
「え? そんなにわかるものですか?」
「ええ、そういう顔をしていると思うわ」
私の顔を見て、トゥーリンさんはそんな感想を抱いたようだ。
ナーゼスさんといい、この姉弟は人の苦労を見抜く力でもあるのだろうか。顔を見ただけでそれがわかるなんて、すごいことである。
「姉貴、適当なことを言っていないか?」
「別に、そんなことはないわよ?」
「顔を見ただけでわかるか? 俺は、しばらく接してわかったんだが……」
「え、えっと……」
ナーゼスさんの言葉に、トゥーリンさんは動揺していた。
ということは、彼女の今の評価は適当ということだろうか。なんというか、私の感心した時間を返して欲しい。
「本当にわかっているのよ? ほら、彼女の顔にはなんというか苦労してきたんだろうなあ、という感じが滲み出ているじゃない」
「おい、姉貴、それは多分失礼だぞ?」
「え? ああ、その違うのよ。別に変な意味ではなくて……」
トゥーリンさんの言葉に、私は微妙な気持ちになった。なんというか、それがあまりいいことだとは思えなかったからである。
ただ、彼女が見抜いていたというのは本当であるようだ。もしかしたら、私が顔に出やすいというだけなのかもしれないが。
「とりあえず、店の裏に来てもらおうかしら? ほら、一応、面接ということにしているじゃない? ここで話を聞くのは、なんだと思うのよ? ルルメアさん、いいかしら?」
「はい」
「よし……それじゃあ、ついて来て」
トゥーリンさんは、小さくガッツポーズしてから店の奥の方に向かって行った。だんだんと彼女がわかってきた。確かに、一緒にいると少し疲れそうな人である。
ただ、悪い人でないことは確かだ。そのことに、私は少しだけ安心するのだった。
「あ、はい……」
場を仕切り直すために、私は自己紹介することにした。
トゥーリンさんは、先程までに比べてかなり落ち着いている。やっと興奮が冷めてきたようだ。
「スライグ君から、色々と聞いているけど、あなたはズウェール王国出身なのよね?」
「あ、はい。そうです」
「それで、このアルヴェルド王国に移住してきて、仕事を探している。そんな感じだと聞いたのだけど、間違いない?」
「はい、間違いありません」
トゥーリンさんは、私の身の上を聞いてきた。スライグさんは、私が聖女であるという部分は伏せていると言っていた。逆に言えば、それ以外はほとんど真実を伝えたということである。
「あちらでは、とある商会の管理職をしていたけど、仕事が忙しくて体を壊してしまったからそれをやめた。あなたのそんな経歴を聞いた時、私よりも年下なのに大変な人もいるんだなあと思っていたけど、顔を見て改めて思ったわ。あなた、とても苦労してきたのね?」
「え? そんなにわかるものですか?」
「ええ、そういう顔をしていると思うわ」
私の顔を見て、トゥーリンさんはそんな感想を抱いたようだ。
ナーゼスさんといい、この姉弟は人の苦労を見抜く力でもあるのだろうか。顔を見ただけでそれがわかるなんて、すごいことである。
「姉貴、適当なことを言っていないか?」
「別に、そんなことはないわよ?」
「顔を見ただけでわかるか? 俺は、しばらく接してわかったんだが……」
「え、えっと……」
ナーゼスさんの言葉に、トゥーリンさんは動揺していた。
ということは、彼女の今の評価は適当ということだろうか。なんというか、私の感心した時間を返して欲しい。
「本当にわかっているのよ? ほら、彼女の顔にはなんというか苦労してきたんだろうなあ、という感じが滲み出ているじゃない」
「おい、姉貴、それは多分失礼だぞ?」
「え? ああ、その違うのよ。別に変な意味ではなくて……」
トゥーリンさんの言葉に、私は微妙な気持ちになった。なんというか、それがあまりいいことだとは思えなかったからである。
ただ、彼女が見抜いていたというのは本当であるようだ。もしかしたら、私が顔に出やすいというだけなのかもしれないが。
「とりあえず、店の裏に来てもらおうかしら? ほら、一応、面接ということにしているじゃない? ここで話を聞くのは、なんだと思うのよ? ルルメアさん、いいかしら?」
「はい」
「よし……それじゃあ、ついて来て」
トゥーリンさんは、小さくガッツポーズしてから店の奥の方に向かって行った。だんだんと彼女がわかってきた。確かに、一緒にいると少し疲れそうな人である。
ただ、悪い人でないことは確かだ。そのことに、私は少しだけ安心するのだった。
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