せっかくの婚約ですが、王太子様には想い人がいらっしゃるそうなので身を引きます。

木山楽斗

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47.わかっていたこと

「……まあ、何があったかは大体わかる」

 私の言葉を受けたイルドラ殿下は、ゆっくりと天を仰いだ。
 その動作に、私は息を呑む。彼の表情が、なんというか少し寂しそうだったからだ。

「ウォーランのことだ。今回の件を気に病んで、王位を辞退したんだろう?」
「え? ええ、それはそうですね」
「エルヴァンは、本が読めなくなるとか言ったか」
「あ、はい。言いました」
「オルテッドは王位なんて、そもそも興味がないだろうな」
「そうですね。そんな感じでした」

 イルドラ殿下は、弟達のことをよくわかっているようだった。
 流石は兄といった所だろうか。弟達のことをよく見ている。

「すまなかったな、リルティア嬢。こうなることは、薄々わかっていたんだ」
「……そうなのですか?」
「ああ、まあ、やっぱりこういったことは兄が優先されるものだからな。ウォーランはともかくとして、俺以外に選択肢がなくなるのではないかと思っていた」

 イルドラ殿下は、ゆっくりとため息をついた。
 その呆れたような表情は、多分父親である国王様に向けられたものだろう。彼もあの判断には思う所があったようだ。いやそもそも、玉座の間で既にそれは口にしていた。

「ただ、せっかくこのようなことになったのだから、皆王位を志してもらいたかった所だな。正直な所、兄弟の中で俺が一番王の資質があるかはわからない。エルヴァンやオルテッドはこれから成長もするだろうし、微妙な所だ」
「まあ、国王様はまだしばらくの間は健在でしょうから、その間にお二人は大いに成長しますよね……」
「とはいえ、その辺りのことはリルティア嬢にはわからないことだ。当然俺にも、だ。ということは、選択肢が限られてくる。いや、俺しかいないか」

 イルドラ殿下の表情は、明るいものだとは言えなかった。
 王位を心から欲しているとか、そういうことではやはりないのだろう。渋々といった感じが、伝わってくる。

 この王子達は、野心というものがないのだろう。アヴェルド殿下の悪行が露わにならなかったのも、そういう所が関係しているのかもしれない。
 敵対者がいれば、あの悪行はすぐに判明したことだろう。あれ程までに、付きやすい弱点はないからだ。

「ただ、リルティア嬢には確認しておきたいことがある」
「え? なんですか?」
「……本当に俺でいいのか?」
「それは……」

 私は、思わず言葉を詰まらせていた。
 こちらを真っ直ぐに見つめてくるイルドラ殿下の視線は、少し弱々しい。その視線は、何を意味しているのだろうか。
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