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黒幕
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男たちが身構えると、林の中から武装した兵が現れた。
5人中2人の賊は馬に飛び乗り逃げ出した。
リーダーの男はリンダに体当たりをして突き飛ばし、私を羽交い絞めにすると首にナイフを突きつけた。
「近寄ると、こいつを殺す」
リーダーの男は私を人質にして周囲を威嚇する。
男の左右ではナイフを構えた賊が兵たちを牽制した。
林から出てきた兵は私が人質になったことで動きを止めている。
「お嬢様を離しなさい。黒幕の名を言えばお前を殺しはしない」
リンダは立ち上がり、リーダーの男に語りかけた。
「笑わせるぜ。計画は変わった。こうなったら俺はこいつと一緒に逃げるぜ。どこかでこいつを売り飛ばせば楽に暮らせるだろうしな」
男の額には汗がにじんでいた。
男は私を人質にしてはいるものの、男ら3人に対して周りを囲む兵は10人以上いる。
明らかに賊の側が不利だった。
男の声を間近で聞いていた私は、この声に聞き覚えがあった。
顔を布で覆っているので、声はくぐもっているけれど、確かに聞いたことが有る。
男に拘束されたまま、記憶と照らし合わせていた私は、ついに思い出した。
「あんたニールじゃない?オーエンの手下だった」
私の言葉に、ニールの力が一瞬弱まった。
隙を逃さず私はニールの腕をひねり上げ、ナイフを取り上げると腹に肘鉄を食らわせた。
私の両手を拘束していた縄は、すでに切れていたのだ。
集まっていた兵たちも私の作った隙を逃さず男たちを制圧していった。
「お前は…アハルティスの悪夢…」
兵に押さえつけられ、体を縛り上げられていたニールは、私を見上げ呟いた。
「恥ずかしいあだ名はやめて」
「…お前は病の床にあるはず…」
「そうだった?」
ニールは兵に連行されていった。
兵と言っても公爵家の兵ではなく、実家・ストラット家の私兵だ。
祖父母に心配をかけたくなかったので、兄に事情を話し兵を借りていた。
御者であるレオンの縄を解くと、私は何事もなかったかのようにリンダと馬車に乗り込んだ。
「リンダ、大丈夫だった?」
「はい。お嬢様、けがはないですね?」
リンダはナイフを突きつけられていた私の首筋を確認すると、ほつれた髪を器用に編みなおしてくれた。
「大丈夫よ」
「賊と何か話してらっしゃいましたが、いったい何を?」
「あぁ、聞こえなかった?私を人質にした賊は顔を隠していたけどニールだったの。オーエンの所にいたでしょ?ひょろっとして猫背気味の。リンダも見たことあるはずよ」
オーエンは下町の愛されキャラ…とでもいうのだろうか、天真爛漫な男の子だ。
「そうでしたか。いずれにせよ相手が小物で助かりました。プロなら馬車に踏み込みお嬢様の顔に傷をつけ、すぐに去っていたでしょう。それにしてもお嬢様の顔に傷をつけるよう命じるなんて。とんでもない子悪党です。おそらくストナン伯爵夫人が黒幕でしょうね」
リンダは断言した。
「え、えぇ?ストナン伯爵夫人?そうかしら?確かに私は夫人にやり返したけど、元はと言えば向こうがひどい言葉をこっちに浴びせてきたわけじゃない?だからあの件はお相子だと思うんだけど?」
ストナン伯爵家でのことを思い出してみる。
あの件は、あの場で収まったはずだ。
「ああいう輩は、そもそも自分の放った言葉がお嬢様に対する言葉の暴力で、それに対してお嬢様がやり返したとは思っておりません。“当然のことを言った私に小賢しく反抗した”とでも思っているんですよ。自分のしたことは正当だと思っています」
「理解できない思考回路ね。でも先週伯爵家でひと悶着あったばかりよ。すぐに私が襲われたら、ストナン伯爵夫人を犯人と連想してしまうわ。普通なら、もう少し時間をおいてからにしない?もっと深く計画を練った方がいいと思うの」
私がストナン伯爵夫人なら、もう少し時間をおいてからにするし、もう少し信頼できる悪党に依頼をする。
“信頼できる悪党”というのがいるのかわからないけれど。
…きっと自分でやった方が早くて正確だわ。
「おそらく、伯爵夫人は考えの浅い方なのでしょう。そもそも考えを広くめぐらせ計画を練ることができる方なら、気に入らない相手に聞こえよがしの暴言は言いません。親切な顔をして近づいて、相手の信頼を勝ち取ってから地獄に落とします」
リンダは微笑んでいる。
「それは…怖いわね。いずれにせよ、逃げた賊の後を追っている者たちが帰ってくれば黒幕が誰か分かるはず」
私はリンダを敵に回さないようにしようと心に決めた。
「そうですね」
リンダはレオンに合図をし、馬車を走らせた。
5人中2人の賊は馬に飛び乗り逃げ出した。
リーダーの男はリンダに体当たりをして突き飛ばし、私を羽交い絞めにすると首にナイフを突きつけた。
「近寄ると、こいつを殺す」
リーダーの男は私を人質にして周囲を威嚇する。
男の左右ではナイフを構えた賊が兵たちを牽制した。
林から出てきた兵は私が人質になったことで動きを止めている。
「お嬢様を離しなさい。黒幕の名を言えばお前を殺しはしない」
リンダは立ち上がり、リーダーの男に語りかけた。
「笑わせるぜ。計画は変わった。こうなったら俺はこいつと一緒に逃げるぜ。どこかでこいつを売り飛ばせば楽に暮らせるだろうしな」
男の額には汗がにじんでいた。
男は私を人質にしてはいるものの、男ら3人に対して周りを囲む兵は10人以上いる。
明らかに賊の側が不利だった。
男の声を間近で聞いていた私は、この声に聞き覚えがあった。
顔を布で覆っているので、声はくぐもっているけれど、確かに聞いたことが有る。
男に拘束されたまま、記憶と照らし合わせていた私は、ついに思い出した。
「あんたニールじゃない?オーエンの手下だった」
私の言葉に、ニールの力が一瞬弱まった。
隙を逃さず私はニールの腕をひねり上げ、ナイフを取り上げると腹に肘鉄を食らわせた。
私の両手を拘束していた縄は、すでに切れていたのだ。
集まっていた兵たちも私の作った隙を逃さず男たちを制圧していった。
「お前は…アハルティスの悪夢…」
兵に押さえつけられ、体を縛り上げられていたニールは、私を見上げ呟いた。
「恥ずかしいあだ名はやめて」
「…お前は病の床にあるはず…」
「そうだった?」
ニールは兵に連行されていった。
兵と言っても公爵家の兵ではなく、実家・ストラット家の私兵だ。
祖父母に心配をかけたくなかったので、兄に事情を話し兵を借りていた。
御者であるレオンの縄を解くと、私は何事もなかったかのようにリンダと馬車に乗り込んだ。
「リンダ、大丈夫だった?」
「はい。お嬢様、けがはないですね?」
リンダはナイフを突きつけられていた私の首筋を確認すると、ほつれた髪を器用に編みなおしてくれた。
「大丈夫よ」
「賊と何か話してらっしゃいましたが、いったい何を?」
「あぁ、聞こえなかった?私を人質にした賊は顔を隠していたけどニールだったの。オーエンの所にいたでしょ?ひょろっとして猫背気味の。リンダも見たことあるはずよ」
オーエンは下町の愛されキャラ…とでもいうのだろうか、天真爛漫な男の子だ。
「そうでしたか。いずれにせよ相手が小物で助かりました。プロなら馬車に踏み込みお嬢様の顔に傷をつけ、すぐに去っていたでしょう。それにしてもお嬢様の顔に傷をつけるよう命じるなんて。とんでもない子悪党です。おそらくストナン伯爵夫人が黒幕でしょうね」
リンダは断言した。
「え、えぇ?ストナン伯爵夫人?そうかしら?確かに私は夫人にやり返したけど、元はと言えば向こうがひどい言葉をこっちに浴びせてきたわけじゃない?だからあの件はお相子だと思うんだけど?」
ストナン伯爵家でのことを思い出してみる。
あの件は、あの場で収まったはずだ。
「ああいう輩は、そもそも自分の放った言葉がお嬢様に対する言葉の暴力で、それに対してお嬢様がやり返したとは思っておりません。“当然のことを言った私に小賢しく反抗した”とでも思っているんですよ。自分のしたことは正当だと思っています」
「理解できない思考回路ね。でも先週伯爵家でひと悶着あったばかりよ。すぐに私が襲われたら、ストナン伯爵夫人を犯人と連想してしまうわ。普通なら、もう少し時間をおいてからにしない?もっと深く計画を練った方がいいと思うの」
私がストナン伯爵夫人なら、もう少し時間をおいてからにするし、もう少し信頼できる悪党に依頼をする。
“信頼できる悪党”というのがいるのかわからないけれど。
…きっと自分でやった方が早くて正確だわ。
「おそらく、伯爵夫人は考えの浅い方なのでしょう。そもそも考えを広くめぐらせ計画を練ることができる方なら、気に入らない相手に聞こえよがしの暴言は言いません。親切な顔をして近づいて、相手の信頼を勝ち取ってから地獄に落とします」
リンダは微笑んでいる。
「それは…怖いわね。いずれにせよ、逃げた賊の後を追っている者たちが帰ってくれば黒幕が誰か分かるはず」
私はリンダを敵に回さないようにしようと心に決めた。
「そうですね」
リンダはレオンに合図をし、馬車を走らせた。
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