新米公爵令嬢の日常

国湖奈津

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馬車がゲリュック校に到着したのは、ちょうど子供たちの授業が終わったころだった。

家に帰る子もいれば、孤児院に帰り孤児院での仕事をする子もいる。
それぞれの帰路に就く子供たちを見送りながら、私たちはリリー先生の部屋に向かった。

リリー先生は私たちを快く出迎えてくれた。

たわいもない話をしてから、折を見て本題を切り出す。

「リリー先生はバーバラやストナン伯爵に会いたいと思いますか?」

朗らかに話していたリリー先生だったけれど、私の言葉を聞くと表情が固まり、視線が泳いだ。
リリー先生の表情から話しの切り出し方が下手だったことに気づいたけれど、後の祭りだ。反省しながら言葉を待った。

「それは…。ええ、もちろん。でも、もう私のことは覚えていないんじゃないか、バーバラは私を恨んでいるんじゃないかと怖く思う気持ちもあるんです。バーバラが私の存在を知っているのどうかも知りませんし。会いたいと思う気持ちはある、けれど…。というのが正直な気持ちです。どうやら臆病になっているようですね」

リリー先生の言葉にはいつもの明瞭さがなく、考えながら話しているのが伝わってくる。

「そうですよね、ごめんなさい急に。バーバラはリリーという名の女性が母親だと知っていました。先日ストナン伯爵家をお訪ねして話したんです。その時、バーバラは母親の愛情を欲しているんじゃないかと思って、それで…」

話を聞いていたリリー先生は血相を変えた。

「もしかしてバーバラは伯爵家で辛い思いをしているのでしょうか?」

「心配しないでください。バーバラは幸せに暮らしています。私にはまだ分からないのですが、例え自分の子でも全員を平等の愛情で育てるのは難しいと聞きました。ストナン伯爵夫人とバーバラは血がつながっていません。ふとした時に妹のネリーに向ける目と自分に向ける目が違うと感じてしまうことがある、というようなことをバーバラが話していました。それで…。私は幸いリリー先生とバーバラが親子だと知っているので何か橋渡しができないかと考えたのです」

嘘をついてしまったのは、リリー先生を悲しませたくなかったから。

なるべくリリー先生が心配しないよう、バーバラが伯爵夫人と妹に迫害されていることは隠して話した。

「そうでしたか。私はバーバラに会いたいと思っています。でも母の愛情を注ぐことができるかどうかは正直分かりません。私はほんの少しの間しか母として過ごしませんでした。別荘を出てからはひたすら仕事に打ち込んできました。ある日突然バーバラを目の前にして、母として接することができるのか分からないのです」

リリー先生の瞳は不安そうに揺れている。

「身構えないでください。まだバーバラと会うと決まったわけではありません。バーバラは私がバーバラの母親であるリリー先生と親しいということは知りません。まだバーバラには話していないのです。でも、もしバーバラが会いたいと言ったら、連れてきてもいいですか?」

「それは…、はい」

リリーの返事を聞き、私はほっと胸をなでおろした。

「では時を見てバーバラに話してみますね。訪ねる際は、ご連絡いたします」
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