後宮に入りましたが、旦那さんが来ないので恋人を探します

国湖奈津

文字の大きさ
21 / 43

20

しおりを挟む
ここはリナレイに本社のある貿易会社のタモハン支社だった。
普段は支社長と事務員2人、営業員4人の計7人いるらしいのだけれど、今支社長は1年に1度の会議でリナレイ本社に戻っているそうだ。

営業員のうち1人は外に交渉に行っている。
私は事務所に残っていた3人に指示されながら、書類を作成した。

形式が分からないものは、過去に書いた文書が残っていたので、それを参考にしてまとめると、ちゃんとしたビジネス文書っぽいものを書くことができた。

その日は無事初仕事を終え、アクラムが夕食を部屋に運び込むまでに帰りつくことができた。


翌日、私が出勤すると昨日いなかった男性が机に座っていた。
昨日休んでいた事務員の方だろう。

「初めまして。昨日急きょ事務員に雇っていただきました。アラン・スミシーです」
私は用意しておいた偽名を名乗った。

「やぁ。君がきのう書類を書いてくれたのか。初めてだろう?よくできてるよ。実は父が危篤と報告が入ってね。今日の船便をとれたから、午後の便でリナレイに出発することになっている。どうしても仕事が気になって顔を出したんだ。でも君がいるなら安心かな」

てっきり、今日でお払い箱になるかと思ったけど、もう少し働けそうだ。

「あの、もう1人の事務員の方は?風邪だと聞いたのですが」
「あぁ。彼は少し体が弱くて、月に1週間くらい休むんだ。でも優秀な男だから、出てきたら色々教えてもらうと良い。じゃあ、私がいない間、頼んだよ」

男性は私に仕事を引き継ぐと、午後リナレイに向けて出発した。


今日は営業の人たちは4人とも外に出ていて、午後の事務所には私1人。
与えられた仕事を黙々とこなしていると、営業のジョンが乱暴にドアを開け入って来た。

「何かありました?」
ジョンは殺気立っていて、ちょっと怖かったけど、私は声をかけた。

「聞いてくれよ。まったくあいつらときたら、リナレイを舐め腐ってやがる…」

ジョンが言うには、3日後に納品する予定の品物を積んだリナレイの船が、2日前港に到着した。
それなのに港を仕切っている人たちがタモハンの船を優先させていて、ジョンお目当てのリナレイ船は沖に2日間停泊させられているそうだ。

荷下ろしするには船を港に停泊させ、人夫を雇って荷下ろししてもらう必要がある。
リナレイの船は到着しているのに荷下しをさせてもらえないらしく、ジョンは納品に間に合わないとイライラしていた。

どの船を港に入れるか、どの人夫を働かせるかといったことは、港を取り仕切るナシュド家が決めているらしい。
ジョンはナシュド家のボスの悪口を言い続けていた。


私はふと思った。

「でも、最近リナレイの姫がタモハンに嫁いで、その時結んだ条約には、確かリナレイの船をタモハンの船と同一に扱うという項目があったはずです。税も待遇もタモハン船と同一にするという項目が、確かにあったような…」

私は当事者として一度全部読んだので、覚えている。

「そんなもん、ナシュド家が読んでるわけないだろ。条約なんてあったって、あるだけじゃ何の役にも立たねぇよ。お偉い方はそこんとこを分かってねぇ。姫様なんてあれだろ?綺麗な服着て部屋で菓子食ってオホホって笑ってりゃいいんだろ?どうせ。いいよなぁ。俺もそんな生活してみたいぜ」

あなたが初日から坊主呼ばわりしてる、目の前の人物がその姫だよ。

なるほどなぁ。
やっぱり働いてよかった。

私の結婚が人々の役に立つって言われて政略結婚をすることを決めたけど、実際どうなのか知ることができた。

「じゃあ、嘆願しましょ。ナシュド家の悪行を訴え出るんです。幸いアルラシード宮殿はすぐそこです。私が書類を書いて、届けます」

せっかくの取り決めも守られないんじゃもったいない。
条約を結ぶため奔走した人たちの努力が水の泡になる。

「お偉い方が動くには時間かかりそうだけどな。まぁ、やらねぇよりやる方がいいか。じゃあ、頼むわ」

ジョンは同意し、少し休んで再び港に交渉しに出かけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

処理中です...