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ここはリナレイに本社のある貿易会社のタモハン支社だった。
普段は支社長と事務員2人、営業員4人の計7人いるらしいのだけれど、今支社長は1年に1度の会議でリナレイ本社に戻っているそうだ。
営業員のうち1人は外に交渉に行っている。
私は事務所に残っていた3人に指示されながら、書類を作成した。
形式が分からないものは、過去に書いた文書が残っていたので、それを参考にしてまとめると、ちゃんとしたビジネス文書っぽいものを書くことができた。
その日は無事初仕事を終え、アクラムが夕食を部屋に運び込むまでに帰りつくことができた。
翌日、私が出勤すると昨日いなかった男性が机に座っていた。
昨日休んでいた事務員の方だろう。
「初めまして。昨日急きょ事務員に雇っていただきました。アラン・スミシーです」
私は用意しておいた偽名を名乗った。
「やぁ。君がきのう書類を書いてくれたのか。初めてだろう?よくできてるよ。実は父が危篤と報告が入ってね。今日の船便をとれたから、午後の便でリナレイに出発することになっている。どうしても仕事が気になって顔を出したんだ。でも君がいるなら安心かな」
てっきり、今日でお払い箱になるかと思ったけど、もう少し働けそうだ。
「あの、もう1人の事務員の方は?風邪だと聞いたのですが」
「あぁ。彼は少し体が弱くて、月に1週間くらい休むんだ。でも優秀な男だから、出てきたら色々教えてもらうと良い。じゃあ、私がいない間、頼んだよ」
男性は私に仕事を引き継ぐと、午後リナレイに向けて出発した。
今日は営業の人たちは4人とも外に出ていて、午後の事務所には私1人。
与えられた仕事を黙々とこなしていると、営業のジョンが乱暴にドアを開け入って来た。
「何かありました?」
ジョンは殺気立っていて、ちょっと怖かったけど、私は声をかけた。
「聞いてくれよ。まったくあいつらときたら、リナレイを舐め腐ってやがる…」
ジョンが言うには、3日後に納品する予定の品物を積んだリナレイの船が、2日前港に到着した。
それなのに港を仕切っている人たちがタモハンの船を優先させていて、ジョンお目当てのリナレイ船は沖に2日間停泊させられているそうだ。
荷下ろしするには船を港に停泊させ、人夫を雇って荷下ろししてもらう必要がある。
リナレイの船は到着しているのに荷下しをさせてもらえないらしく、ジョンは納品に間に合わないとイライラしていた。
どの船を港に入れるか、どの人夫を働かせるかといったことは、港を取り仕切るナシュド家が決めているらしい。
ジョンはナシュド家のボスの悪口を言い続けていた。
私はふと思った。
「でも、最近リナレイの姫がタモハンに嫁いで、その時結んだ条約には、確かリナレイの船をタモハンの船と同一に扱うという項目があったはずです。税も待遇もタモハン船と同一にするという項目が、確かにあったような…」
私は当事者として一度全部読んだので、覚えている。
「そんなもん、ナシュド家が読んでるわけないだろ。条約なんてあったって、あるだけじゃ何の役にも立たねぇよ。お偉い方はそこんとこを分かってねぇ。姫様なんてあれだろ?綺麗な服着て部屋で菓子食ってオホホって笑ってりゃいいんだろ?どうせ。いいよなぁ。俺もそんな生活してみたいぜ」
あなたが初日から坊主呼ばわりしてる、目の前の人物がその姫だよ。
なるほどなぁ。
やっぱり働いてよかった。
私の結婚が人々の役に立つって言われて政略結婚をすることを決めたけど、実際どうなのか知ることができた。
「じゃあ、嘆願しましょ。ナシュド家の悪行を訴え出るんです。幸いアルラシード宮殿はすぐそこです。私が書類を書いて、届けます」
せっかくの取り決めも守られないんじゃもったいない。
条約を結ぶため奔走した人たちの努力が水の泡になる。
「お偉い方が動くには時間かかりそうだけどな。まぁ、やらねぇよりやる方がいいか。じゃあ、頼むわ」
ジョンは同意し、少し休んで再び港に交渉しに出かけた。
普段は支社長と事務員2人、営業員4人の計7人いるらしいのだけれど、今支社長は1年に1度の会議でリナレイ本社に戻っているそうだ。
営業員のうち1人は外に交渉に行っている。
私は事務所に残っていた3人に指示されながら、書類を作成した。
形式が分からないものは、過去に書いた文書が残っていたので、それを参考にしてまとめると、ちゃんとしたビジネス文書っぽいものを書くことができた。
その日は無事初仕事を終え、アクラムが夕食を部屋に運び込むまでに帰りつくことができた。
翌日、私が出勤すると昨日いなかった男性が机に座っていた。
昨日休んでいた事務員の方だろう。
「初めまして。昨日急きょ事務員に雇っていただきました。アラン・スミシーです」
私は用意しておいた偽名を名乗った。
「やぁ。君がきのう書類を書いてくれたのか。初めてだろう?よくできてるよ。実は父が危篤と報告が入ってね。今日の船便をとれたから、午後の便でリナレイに出発することになっている。どうしても仕事が気になって顔を出したんだ。でも君がいるなら安心かな」
てっきり、今日でお払い箱になるかと思ったけど、もう少し働けそうだ。
「あの、もう1人の事務員の方は?風邪だと聞いたのですが」
「あぁ。彼は少し体が弱くて、月に1週間くらい休むんだ。でも優秀な男だから、出てきたら色々教えてもらうと良い。じゃあ、私がいない間、頼んだよ」
男性は私に仕事を引き継ぐと、午後リナレイに向けて出発した。
今日は営業の人たちは4人とも外に出ていて、午後の事務所には私1人。
与えられた仕事を黙々とこなしていると、営業のジョンが乱暴にドアを開け入って来た。
「何かありました?」
ジョンは殺気立っていて、ちょっと怖かったけど、私は声をかけた。
「聞いてくれよ。まったくあいつらときたら、リナレイを舐め腐ってやがる…」
ジョンが言うには、3日後に納品する予定の品物を積んだリナレイの船が、2日前港に到着した。
それなのに港を仕切っている人たちがタモハンの船を優先させていて、ジョンお目当てのリナレイ船は沖に2日間停泊させられているそうだ。
荷下ろしするには船を港に停泊させ、人夫を雇って荷下ろししてもらう必要がある。
リナレイの船は到着しているのに荷下しをさせてもらえないらしく、ジョンは納品に間に合わないとイライラしていた。
どの船を港に入れるか、どの人夫を働かせるかといったことは、港を取り仕切るナシュド家が決めているらしい。
ジョンはナシュド家のボスの悪口を言い続けていた。
私はふと思った。
「でも、最近リナレイの姫がタモハンに嫁いで、その時結んだ条約には、確かリナレイの船をタモハンの船と同一に扱うという項目があったはずです。税も待遇もタモハン船と同一にするという項目が、確かにあったような…」
私は当事者として一度全部読んだので、覚えている。
「そんなもん、ナシュド家が読んでるわけないだろ。条約なんてあったって、あるだけじゃ何の役にも立たねぇよ。お偉い方はそこんとこを分かってねぇ。姫様なんてあれだろ?綺麗な服着て部屋で菓子食ってオホホって笑ってりゃいいんだろ?どうせ。いいよなぁ。俺もそんな生活してみたいぜ」
あなたが初日から坊主呼ばわりしてる、目の前の人物がその姫だよ。
なるほどなぁ。
やっぱり働いてよかった。
私の結婚が人々の役に立つって言われて政略結婚をすることを決めたけど、実際どうなのか知ることができた。
「じゃあ、嘆願しましょ。ナシュド家の悪行を訴え出るんです。幸いアルラシード宮殿はすぐそこです。私が書類を書いて、届けます」
せっかくの取り決めも守られないんじゃもったいない。
条約を結ぶため奔走した人たちの努力が水の泡になる。
「お偉い方が動くには時間かかりそうだけどな。まぁ、やらねぇよりやる方がいいか。じゃあ、頼むわ」
ジョンは同意し、少し休んで再び港に交渉しに出かけた。
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