6 / 9
第六話
しおりを挟む
「貴様はまだ己の罪を認めないのか?! 騎士と逢引をしておいて、その騎士が証言をしているのだぞ?!」
「私は本当に何もしておりません!」
ヒトリ王太子の怒り狂った声が、宮廷大ホールに響いた。
私たちを囲む王侯貴族たちは、王太子の怒りに震え上がり誰も言葉を発さない。
「ほほ、ほ、本当です! 私は! リリネット王太子妃様に抱きつかれ……」
「――黙れっっ!」
私の思っていたことを代わりにヒトリ王太子が叫んだ。
だがその言葉は私を庇うためではなく、自分の叱責の邪魔をされたくなかったからだろう。
「はははははは、子を奪われた腹いせにアンジュレアを恨み、挙句の果てに騎士と逢引か! 最低最悪な糞女だな!!! これは時代に残る悪女になる……!」
何を言っているのか。
歴史に名を残す悪女はアンジュレアであろう。
他人の夫を寝取り、母親の責任感無しに子を奪い、何ら努力を重ねていないのに王太子妃になる。
そして子の泣き声一つにも我慢できない女が、いずれ王妃になるのだ。
「そうですよ! わ、私はリリネット王太子妃様に部屋を追い出されましたの!」
「貴女が不適切な行動をとったからよ!」
「だまらっしゃい、もう貴女は――王太子妃ではないの! あははははははは、馬鹿なのかしら?
そうやって我が物顔になれるのも今のうちよ!」
けたたましいアンジュレアの笑い声。
笑みを浮かべ勝ち誇った顔をしたアンジュレアが、悪魔のようにも見えた。
『リリネット・ド・アルガン! 貴様は議会で話し合う対象ではない、特別に僕の命令により王太子妃の身分を剥奪する! ――そして、夫がいる身で騎士と逢引した罪で投獄する! ――近衛騎士!』
ヒトリ王太子が耳が痛くなるような声で大きく、強く張り叫んだ。
王侯貴族らがどよめき、ざわついた。
唐突かつ非論理的な王太子の判断に、皆が驚愕する。
投獄、それは死の宣告のようにも聞こえた。
私の両腕はどこからともなくやってきた近衛騎士に引っ張られる。
体は乱暴に引きづられ、ドレスが床と擦れた。
もう抗っても無駄である、私はそう悟った。
「ヒトリ王太子様、御明断ございます」
アンジュレアは今かとばかりにヒトリ王太子の意見をほめたたえた。
彼女は人間の本性を表したような醜い顔で笑いをつくり、私のほうを一瞥する。
ふざけるな。
王太子妃の座を奪ったのはお前。
私の子を略奪したのもお前。
愛してくれていた夫を寝取ったのもお前。
人々の信頼を失わせたのもお前。
すべてを奪い、それでもなお笑顔を見せるお前が――憎い!
今すぐにでも消えてほしい。
今すぐにでも死んでほしい。
今すぐにでも殺されてほしい。
近衛騎士たちに乱暴に連行され、私の身体は宮廷大ホールが遠ざかっていく。
だが、どれだけ皮膚が床と擦れようと、私はヒトリとアンジュレアを見続けた。
「アンジュレア、大丈夫だ。もうあの女は投獄される」
「そうですね……けど、私、本当に、怖いっ、ううぅ、うぅぅぅぅ……」
ヒトリが寄り添うようにアンジュレアの両肩を持ち、私を睨み付ける。
汚いドレスに涙を零しながらウソ泣きをするアンジュレア。
そして彼女を愛し、私を捨てたヒトリ。
私からレオンを奪ったアンジュレアの行動に、ヒトリは何も言わなかった。
それどころか賛同したのだ。
アンジュレアがねつ造した【騎士との逢引】という罪を信じ、私を投獄した。
どうせ私はヒトリに【物わかりの悪いたぶらかし悪女】とでも思われているのだろう。
それが、ヒトリの瞳からじわじわと感じ取れることだった。
「私は本当に何もしておりません!」
ヒトリ王太子の怒り狂った声が、宮廷大ホールに響いた。
私たちを囲む王侯貴族たちは、王太子の怒りに震え上がり誰も言葉を発さない。
「ほほ、ほ、本当です! 私は! リリネット王太子妃様に抱きつかれ……」
「――黙れっっ!」
私の思っていたことを代わりにヒトリ王太子が叫んだ。
だがその言葉は私を庇うためではなく、自分の叱責の邪魔をされたくなかったからだろう。
「はははははは、子を奪われた腹いせにアンジュレアを恨み、挙句の果てに騎士と逢引か! 最低最悪な糞女だな!!! これは時代に残る悪女になる……!」
何を言っているのか。
歴史に名を残す悪女はアンジュレアであろう。
他人の夫を寝取り、母親の責任感無しに子を奪い、何ら努力を重ねていないのに王太子妃になる。
そして子の泣き声一つにも我慢できない女が、いずれ王妃になるのだ。
「そうですよ! わ、私はリリネット王太子妃様に部屋を追い出されましたの!」
「貴女が不適切な行動をとったからよ!」
「だまらっしゃい、もう貴女は――王太子妃ではないの! あははははははは、馬鹿なのかしら?
そうやって我が物顔になれるのも今のうちよ!」
けたたましいアンジュレアの笑い声。
笑みを浮かべ勝ち誇った顔をしたアンジュレアが、悪魔のようにも見えた。
『リリネット・ド・アルガン! 貴様は議会で話し合う対象ではない、特別に僕の命令により王太子妃の身分を剥奪する! ――そして、夫がいる身で騎士と逢引した罪で投獄する! ――近衛騎士!』
ヒトリ王太子が耳が痛くなるような声で大きく、強く張り叫んだ。
王侯貴族らがどよめき、ざわついた。
唐突かつ非論理的な王太子の判断に、皆が驚愕する。
投獄、それは死の宣告のようにも聞こえた。
私の両腕はどこからともなくやってきた近衛騎士に引っ張られる。
体は乱暴に引きづられ、ドレスが床と擦れた。
もう抗っても無駄である、私はそう悟った。
「ヒトリ王太子様、御明断ございます」
アンジュレアは今かとばかりにヒトリ王太子の意見をほめたたえた。
彼女は人間の本性を表したような醜い顔で笑いをつくり、私のほうを一瞥する。
ふざけるな。
王太子妃の座を奪ったのはお前。
私の子を略奪したのもお前。
愛してくれていた夫を寝取ったのもお前。
人々の信頼を失わせたのもお前。
すべてを奪い、それでもなお笑顔を見せるお前が――憎い!
今すぐにでも消えてほしい。
今すぐにでも死んでほしい。
今すぐにでも殺されてほしい。
近衛騎士たちに乱暴に連行され、私の身体は宮廷大ホールが遠ざかっていく。
だが、どれだけ皮膚が床と擦れようと、私はヒトリとアンジュレアを見続けた。
「アンジュレア、大丈夫だ。もうあの女は投獄される」
「そうですね……けど、私、本当に、怖いっ、ううぅ、うぅぅぅぅ……」
ヒトリが寄り添うようにアンジュレアの両肩を持ち、私を睨み付ける。
汚いドレスに涙を零しながらウソ泣きをするアンジュレア。
そして彼女を愛し、私を捨てたヒトリ。
私からレオンを奪ったアンジュレアの行動に、ヒトリは何も言わなかった。
それどころか賛同したのだ。
アンジュレアがねつ造した【騎士との逢引】という罪を信じ、私を投獄した。
どうせ私はヒトリに【物わかりの悪いたぶらかし悪女】とでも思われているのだろう。
それが、ヒトリの瞳からじわじわと感じ取れることだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる