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第五話 罪
しおりを挟む「この、この、この……リリネット王太子妃様は騎士と逢引しております!」
賑やかな舞踏会場が彼女の一言で静まり返った。
私のほうを指さし、顔を引きつらせる女――アンジュレアは、さらに言葉を続ける。
「私、見ましたの! ええ、見たのですっ! リリネット王太子妃様が護衛の近衛騎士と抱き合っているところを!」
「確かに、私の自室前には万が一の時のため近衛騎士が四六時中見張っておりますが、交代制なので特定の人物と逢引するなどありえません」
アンジュレアの唐突な罠。
彼女の情報収集のため舞踏会に参加したが、あまり良い成果は得られなかった。
相変わらずいろいろな人に話しかけられたものの、ほとんどがどうでもよい私の機嫌取りのための話題。
「……本当に真実を言わないのですね? リリネット王太子妃様」
「私は真実を言っております」
冷静に言葉を終えた私に、アンジュレアが叫んだ。
「証拠があります! それは、リリネット王太子妃様と逢引した騎士の証言でございます!」
私たちの会話を見物していた王侯貴族らが騒めいた。
アンジュレアが手で合図を送ると、私たちの周りを囲んでいる人々の中から男性が出てくる。
櫛どおりがよさそうなサラサラの白髪をなびかせた青年は、私を見るなり口を大きく広げ目を見開いた。
「わ、わ、わ、わ、わ、私は! リリネット王太子妃様に抱き着かれ『今宵はともに過ごそう』と言われたのです!」
「どういうことです?! 私は貴方と会ったことすらありませんよ?!」
近衛騎士は確認している限り3名、朝昼夜で8時間私を守っていてくれる。
皆、頑丈そうな体つきで頼もしかったが、彼らと夜を過ごそうなどと考えたこともない。
そもそも、本当に私は青年に見覚えが無い。
青年は貧弱そうなやせ細った体で、とても護衛の騎士には見えないのだ。
「う、う、う、う、嘘をつかないでください! 『ヒトリ王太子などどうでも良いのです、私は貴方を愛しております』と言ったではありませんか!」
「――そんな言葉は吐いておりません! 私は無実です。貴方と逢引などしておりません」
青年は体をわなわなと震わせ、どもりながら妄言を口走る。
ヒトリ王太子などどうでもいい、それは本心であるが、誰にも言っていない。
アンジュレアとヒトリに復讐をするため、心の奥にしまっておこうと離婚宣告の後決めたのだ。
「なにを言っているのですっっ?! この青年は、リリネット王太子妃様に無理やり口づけさせられたとも言っているのですよ?」
「ふざけないで! そんな妄言を吐き散らかさないで。私は逢引などしていないわ――」
しまった、つい頭に血が上ってしまった。
このままだと周りからは私が戯言を口走っているように見えてしまう。
そうなれば、アンジュレアが優位に立つ。
復讐のチャンスを発見するつもりが、逆にアンジュレアの手玉にとられてしまった。
『暴れているようだな、たぶらかし女』
後ろから声がする。
振り返ってみれば、顎をあげながら私を強い眼差しで見つめる――ヒトリ王太子がいた。
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