罪の在り処

橘 弥久莉

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第三章:見えない送り主

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 「救えなかったアイツの代わり、か」

 僕の言葉に眉間のシワを深め、マサが目を
伏せる。天空に散った武弘の命が、無念が、
僕たちの記憶から消える日は永遠にないだろ
う。あの事件があったからこそ、マサは警察
という職につき、『トロイの木馬』となって
中から冤罪被害を無くそうとしているのだ。

 そして僕は心理士の資格を活かし、加害者
家族を支援する団体に身を投じた。

 どちらも決して楽な仕事ではない。
 だからこそ、僕たちは別々の道を歩いてい
ても同志のような関係でいられるのかも知れ
ない。

 「わかったよ」

 突然、そう言ったかと思うとマサは残って
いた『僕』のホットサンドを手に取り、かぶ
りついた。

 「吾都にそこまで言われちゃな。『小さな
出来事の影に、大きな事件が潜んでいること
もある』。克さんの受け売りだが、そのシグ
ナルを見落として誰かを救えなかったら俺も
刑事やってる意味がなくなる。うちの署に、
連続幼女誘拐殺人事件の帳場が立つことが
決まってるんだ。だから、そっち方面に聞き
込みに行く機会があると思う。その時、つい
でに遺族の元に立ち寄って話を聞いてくるよ。
確認程度に話を聞くだけになるが、それでい
いだろう?」

 「もちろん。ありがとうマサ、恩に着るよ」

 「大袈裟だな。これくらいのこと、お互い
さまだろ」

 「それと、迷惑ついでにもうひとつ頼みが
あるんだけど、いいかな?」

 僕のホットサンドを、ぽいっ、と口の中に
放り込んだマサに身を乗り出す。

 すると彼は、「なんだなんだ」と顰めっ面
をし、口の中のサンドをごくりと飲み込んだ。

 「まさか、無言電話を逆探知しろとか言い
出すんじゃないだろうな?」

 「いや、そうじゃなくて。遺族の元を訪ね
る時は僕も同行させて欲しいんだ。出来れば
会って話しを聞きたい。加害者家族を恨んで
いるかどうか、直接そう聞けなくても言葉の
端々から何かわかるかも知れないだろ。僕の
身分は隠すよ。加害者家族を支援する者だと
は明かさない。だから何とかならないかな?」

 頼む、最後にそう付け加えるとマサは怠そ
うにゴリゴリと首を回し、深く息をついた。

 「わかった、連れてってやるよ。だがおま
えの言う通り、身分は明かすな。『犯罪に巻
き込まれた人を支援する仕事』とか言って、
上手くボカしてくれ。それと捜査車両を私用
には使えないから現地で落ち合うことになる
が、それでも構わないか?」

 「もちろん、僕は電車で行くよ。悪いな、
ただでさえ疲れてるのに、面倒なこと頼んで」

 サボテンのように生えている無精ヒゲと、
落ち窪んだ目元を見れば、どうしたってそん
な言葉が口を衝いて出てしまう。

 けれどマサは、にやり、と口元を歪めると、
懐から何やら紙切れらしきものを取り出した。
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