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第三章:見えない送り主
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「さてと、そろそろ署に戻るか」
そう言うとマサはパンツのポケットから財
布を取り出し、テーブルに五千円札を置いた。
「あら、誠道さん。戻るには少し早いんじ
ゃない?しかもお会計多過ぎ」
立ち上がってベージュのトレンチコートを
羽織るマサに、岬さんが小首を傾げる。
するとマサは僕を指差し、にぃ、と笑った。
「吾都のホットサンド、俺が半分食っちま
ったからな。悪いが、それで代わりのものを
食わせてやってくれ。署に戻るにはまだ早い
が、戻って三十分でも仮眠を取らないと体が
持たないんだ。まったく、もう少しこの店が
署に近けりゃ助かるんだが」
最後の方は独り言のようにそう言ったマサ
に、僕は透かさず突っ込みを入れる。
「署から離れていて安全だから、この店で
会ってるんだろ。ホットサンドは気にすんな。
マサの体躯じゃ、それでも足りないくらいだ」
洞窟のように丸く削られた入り口をくぐっ
て出ようとする、キリンのような長身の親友
に言葉を投げかける。
百八十を少し超える僕も長身の部類に入る
が、百九十に二センチ足りないマサは、体躯
もがっしりとしていて皿ごとホットサンドを
食べても足りなそうだった。
「いいからそれで食っとけ。おまえだって
忙しくてろくなもん食ってないだろ。働くだ
け働いて使う暇がないから金だけはあるんだ。
もっとも、最近はキャッシュレスで払うこと
が多いから、財布の中は寂しいがな」
そう言うと、ひらりと手を振ってマサが帰
ってゆく。その背中を、隠れ家の入り口まで
見送り、「気を付けてね、誠道さん」と、声
を掛けると岬さんはくるりと僕を振り返った。
「というワケで、ホットサンドお代わり出
来るけど、どうする?吾都くん」
メニューを開き、岬さんが見せてくれる。
僕は文字だけのそれを眺めて少し迷うと、
じゃあこれにしようかな、と、さっきと違う
ものを指差した。
「ポテサラホットサンドね。ついでにドリ
ンクも付けちゃいましょうか。誠道さん多め
に置いてってくれたし」
「うーん、何だかマサに悪い気がするな」
「いいんじゃないかしら?彼キャリアだし、
今日くらいご馳走されても」
何で『今日くらい』なのかよくわからなか
ったが、花が綻ぶように笑って岬さんがそう
言うので、僕はカフェ・トロピカーナをもう
一杯飲むことになったのだった。
「どう?実はそれ、今日初めて作ったんだ
けど、お口に合うかしら?」
菜乃子さんの自信作だという『鶏肉のマス
タード焼き』をもぐもぐと咀嚼していた僕は、
口元を手で隠しながら「すごく美味しいです」
と感想を述べる。すると彼女は、ほっとした
ように胸に両手をあて、「良かった」と普段
は見せることのない朗らかな笑みを向けた。
そう言うとマサはパンツのポケットから財
布を取り出し、テーブルに五千円札を置いた。
「あら、誠道さん。戻るには少し早いんじ
ゃない?しかもお会計多過ぎ」
立ち上がってベージュのトレンチコートを
羽織るマサに、岬さんが小首を傾げる。
するとマサは僕を指差し、にぃ、と笑った。
「吾都のホットサンド、俺が半分食っちま
ったからな。悪いが、それで代わりのものを
食わせてやってくれ。署に戻るにはまだ早い
が、戻って三十分でも仮眠を取らないと体が
持たないんだ。まったく、もう少しこの店が
署に近けりゃ助かるんだが」
最後の方は独り言のようにそう言ったマサ
に、僕は透かさず突っ込みを入れる。
「署から離れていて安全だから、この店で
会ってるんだろ。ホットサンドは気にすんな。
マサの体躯じゃ、それでも足りないくらいだ」
洞窟のように丸く削られた入り口をくぐっ
て出ようとする、キリンのような長身の親友
に言葉を投げかける。
百八十を少し超える僕も長身の部類に入る
が、百九十に二センチ足りないマサは、体躯
もがっしりとしていて皿ごとホットサンドを
食べても足りなそうだった。
「いいからそれで食っとけ。おまえだって
忙しくてろくなもん食ってないだろ。働くだ
け働いて使う暇がないから金だけはあるんだ。
もっとも、最近はキャッシュレスで払うこと
が多いから、財布の中は寂しいがな」
そう言うと、ひらりと手を振ってマサが帰
ってゆく。その背中を、隠れ家の入り口まで
見送り、「気を付けてね、誠道さん」と、声
を掛けると岬さんはくるりと僕を振り返った。
「というワケで、ホットサンドお代わり出
来るけど、どうする?吾都くん」
メニューを開き、岬さんが見せてくれる。
僕は文字だけのそれを眺めて少し迷うと、
じゃあこれにしようかな、と、さっきと違う
ものを指差した。
「ポテサラホットサンドね。ついでにドリ
ンクも付けちゃいましょうか。誠道さん多め
に置いてってくれたし」
「うーん、何だかマサに悪い気がするな」
「いいんじゃないかしら?彼キャリアだし、
今日くらいご馳走されても」
何で『今日くらい』なのかよくわからなか
ったが、花が綻ぶように笑って岬さんがそう
言うので、僕はカフェ・トロピカーナをもう
一杯飲むことになったのだった。
「どう?実はそれ、今日初めて作ったんだ
けど、お口に合うかしら?」
菜乃子さんの自信作だという『鶏肉のマス
タード焼き』をもぐもぐと咀嚼していた僕は、
口元を手で隠しながら「すごく美味しいです」
と感想を述べる。すると彼女は、ほっとした
ように胸に両手をあて、「良かった」と普段
は見せることのない朗らかな笑みを向けた。
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