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第四章:絡みつく真実の糸
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『嘘をついてはいないが本当のことも口に
していない』
もしかして彼女もそうなのだろうか?
早川永輝の改姓を知る術はなかっただろう
と訊ねたとき、彼女の返事には不自然な間が
あった。けれど僕は、彼女を信じたい思いも
あって違和感に気付かないフリをしたのだ。
「あの防犯カメラさえダミーじゃなければ」
見えない犯人に苛立ちを隠せないまま言う
と、彼女は力なく言った。
「犯人は兄なんです。あのカメラがダミー
じゃなければ、きっと、兄が映ってた。兄が
わたしを罰しようと思ってしていることなら
わたしは逃げも隠れもしない。兄を追い詰め
た罰を受けます」
まるで死をも覚悟しているような口ぶりに、
僕は彼女の顔を両手で包む。そして虚ろな目
をしている彼女を見つめた。
「なに馬鹿なこと言ってるんだ。君が受け
なきゃならない罰なんてどこにもないだろう?
お願いだから、そんな顔しないで。僕は君の
笑顔を守りたいからここにいるんだ」
「……卜部さん」
虚ろだった瞳に光が宿る。
そしてその光が瞳から溢れ、零れ落ちた。
僕は両手の親指で温かな滴を拭ってやる。
ひび割れた指にチクと彼女の涙が染みた。
こんな傷ついた手で守れるのなら、すべて
の苦しみから彼女を守りたかった。彼女の心
に降り積もる罪も罰も、この腕の中でぜんぶ
溶かしてやりたい。
僕は瞳に光を湛えたまま、じっと自分を見
つめている彼女に言った。
「佐奈が好きだ」
彼女の瞳に映る自分が滲んで揺れる。
僕はまた滴が零れ落ちる前に想いを告げた。
「世界中の誰よりも、僕は佐奈が好きだ。
だから何があっても、佐奈のことは僕が守る」
口にした想いは神聖な誓いのようで、彼女
の頬が幸せに綻べばこんなにも愛していたの
だと思い知る。ぽろぽろと雨粒のように零れ
落ちる滴が指を伝い、僕の手の甲を濡らした。
「わたしも好き……」
彼女の唇が想いを伝えた瞬間、僕は恋する
ままにその唇を塞いだ。ふっくらとした小さ
な唇が、僕を受け止めてくれる。僕は彼女の
頭を掻き抱き、その胸にある不安も苦しみも
吸い取るように深く、深く唇を重ね合わせた。
誰もいない古書店の奥で二人の心が重なる。
――何があっても、僕が佐奈を守る。
その誓いにいっそう彼女への思いが溢れ、
僕たちは息が切れてもまだ、唇を離すことが
出来なかった。
していない』
もしかして彼女もそうなのだろうか?
早川永輝の改姓を知る術はなかっただろう
と訊ねたとき、彼女の返事には不自然な間が
あった。けれど僕は、彼女を信じたい思いも
あって違和感に気付かないフリをしたのだ。
「あの防犯カメラさえダミーじゃなければ」
見えない犯人に苛立ちを隠せないまま言う
と、彼女は力なく言った。
「犯人は兄なんです。あのカメラがダミー
じゃなければ、きっと、兄が映ってた。兄が
わたしを罰しようと思ってしていることなら
わたしは逃げも隠れもしない。兄を追い詰め
た罰を受けます」
まるで死をも覚悟しているような口ぶりに、
僕は彼女の顔を両手で包む。そして虚ろな目
をしている彼女を見つめた。
「なに馬鹿なこと言ってるんだ。君が受け
なきゃならない罰なんてどこにもないだろう?
お願いだから、そんな顔しないで。僕は君の
笑顔を守りたいからここにいるんだ」
「……卜部さん」
虚ろだった瞳に光が宿る。
そしてその光が瞳から溢れ、零れ落ちた。
僕は両手の親指で温かな滴を拭ってやる。
ひび割れた指にチクと彼女の涙が染みた。
こんな傷ついた手で守れるのなら、すべて
の苦しみから彼女を守りたかった。彼女の心
に降り積もる罪も罰も、この腕の中でぜんぶ
溶かしてやりたい。
僕は瞳に光を湛えたまま、じっと自分を見
つめている彼女に言った。
「佐奈が好きだ」
彼女の瞳に映る自分が滲んで揺れる。
僕はまた滴が零れ落ちる前に想いを告げた。
「世界中の誰よりも、僕は佐奈が好きだ。
だから何があっても、佐奈のことは僕が守る」
口にした想いは神聖な誓いのようで、彼女
の頬が幸せに綻べばこんなにも愛していたの
だと思い知る。ぽろぽろと雨粒のように零れ
落ちる滴が指を伝い、僕の手の甲を濡らした。
「わたしも好き……」
彼女の唇が想いを伝えた瞬間、僕は恋する
ままにその唇を塞いだ。ふっくらとした小さ
な唇が、僕を受け止めてくれる。僕は彼女の
頭を掻き抱き、その胸にある不安も苦しみも
吸い取るように深く、深く唇を重ね合わせた。
誰もいない古書店の奥で二人の心が重なる。
――何があっても、僕が佐奈を守る。
その誓いにいっそう彼女への思いが溢れ、
僕たちは息が切れてもまだ、唇を離すことが
出来なかった。
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