罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 「川に飛び込んで助けてくれたっていう、
あの彼だよ。確か『卜部』とかいったっけ?
ネットの記事を読ませてもらったけど、無我
夢中で暗い川に飛び込んでくれたんだってね。
そりゃ恋も生まれるってもんだ。非日常下で
生まれた恋は長続きしないって聞くけど、彼
なら大丈夫そうだね。この間会った時も誠実
そうに見えたし、『みちくさ』を気に入って
くれてるところもいい」

 頷きながらそう言った浅利さんに、わたし
はどう答えていいかわからず戸惑ってしまう。

 わたしが川に身を投げたことを、卜部さん
から聞いたようだ。しかも卜部さんとたった
二度顔を合わせただけの彼は、どうやらわた
したちの仲まで察しているらしい。店の前で
彼と鉢合わせた時、彼から何か聞いたのかも
知れない。そう思い至ると、わたしは自分の
想いを口にした。

 「確かに、彼に助けてもらった時は運命的
なものを感じたんですけど、そのことがなく
ても、きっと彼には惹かれたと思うんです。
ずっと恋なんてしてこなかったから、自分に
こんな出会いが待っているとは思わなくて、
だからいまは現実感がなくて。ごめんなさい、
わたしったら、いきなり何言ってるんだろう」

 彼のことを想いながらついしゃべり過ぎて
しまったわたしは、羞恥心から俯いてしまう。

 すると浅利さんは、ふっ、と鼻で笑った。

 「いいねぇ、相思相愛か。嬉しいよ本当に。
君が幸せを感じれば感じるほど、フィナーレ
が盛り上がるからね」

 「えっ?」

 いったい何を言っているのだろう?
 言葉の意味がわからず顔を上げたわたしは、
ふと、右折しなければならない交差点を彼が
直進してしまったことに気付いた。

 「浅利さん。いまのところを右折しないと、
遠回りすることになるかも」

 彼に言うが、窓から見える風景はどんどん
後ろに流れていってしまう。わたしはそのこ
とに眉を顰めると、もう一度彼の名を呼んだ。



◇◇◇



 ブックフェスティバルが開催されるという
休日は快晴だった。僕はいつもより早く起床
すると、アイボリーのニットに黒のトレンチ
コートを羽織り、家を出た。

 そして足早に駅に向かいホームに滑り込ん
だ電車に乗り込む。ドアと座席の隙間に体を
預け、最寄駅からの道筋をチェックしている
と、まもなく名都大学駅に着いた。学生らし
き若者を人波に見つけながら、改札をくぐる。

 霄漢しょうかんに輝く太陽を見上げれば、冬とは思え
ないほど暖かな陽射しが心地よかった。
 僕は陽光を浴びながら竹林に囲まれた緑地
公園内にあるという、古民家を目指す。彼女
が僕を待ってくれていると思えば胸は弾み、
今夜はどう二人で過ごそうかと勝手な想像を
巡らせてしまった。

 そうこうしているうちに、青々とした竹林
が生い茂る緑地公園に辿り着く。園内はそれ
ほど広くはないが、竹の葉の隙間から放射状
に射す光が美しく、辺り一面竹林に覆われた
空間は癒しのひと時を与えてくれた。

 僕は人気のない園内をのんびりと散策しな
がら、区の指定有形文化財である古民家の入
り口に立った。
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