罪の在り処

橘 弥久莉

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 久々に訪れた墓地は広く、その場所を探す
のに腐心した。俺はようやく見つけた親友の
墓の前に立つと、霊園の入り口で買ったばか
りの花を手向けた。そして線香に火をつけ、
線香皿にそれを寝かせる。

 白い煙が辺りを揺蕩い、凍てつく風が空へ
と消してゆく。静かに手を合わせると俺は顔
を上げ、ひとり呟いた。

 「ずっと、傍にいてくれたんだな」


――あの時も、あの時も。


 目に見えた武弘は、幻じゃなかった。

 武弘にはわかっていたのだ。
 吾都に危険が迫っていることを。
 だから、助けに来てくれた。
 親友の命を守るために。

 記憶の中で武弘が笑う。その笑みは変わら
ず、いまも俺たちを見守っているに違いない。

 俺は口を引き結ぶと、武弘に誓った。

 「俺が組織を変えてみせる。二度と謂われ
のない罪に傷つくものが現れないよう、俺が
見張るんだ。そのためにも、上を目指すよ。
だから見ててくれ、武弘。これからもずっと」

 『頑張れよな、キリン』

 そんな武弘の声が聞こえた気がして、俺は
破願する。新調したコートに両手を突っ込ん
で空を見上げれば、夕陽に染まり始めた雲が
薄く、細く流れている。

 その空に白い息を吐き出すと、俺は新たな
決意を胸に一歩踏み出した。



◇◇◇



 「……いっ、っ!」

 駅を降り、商店街の入り口に差し掛かった
僕は、引き攣るような傷の痛みに立ち止まる。

 昨日退院したばかりの体は鉛のように重く、
完治したとは言い難い背中の傷は歩を進める
度に、ツキン、と痛んだ。

 それでも顔を上げ、のろのろと歩き始める。
 額に滲む汗を晩冬の風がひんやりと撫でて
くれる。僕は商店街の奥を見据え、ひたすら
その場所を目指した。


――廃工場で刺されたあの日から、二カ月が
過ぎていた。


 体当たりの刃に深手を負った僕は、一度は
心停止に陥ったものの二人の懸命な救命処置
に息を吹き返し、危篤状態のまま病院に担ぎ
込まれた。それから五日間ものあいだ死線を
彷徨い、「助かる確率は一割に満たない」と
医師に告げられた両親は、息子の死を覚悟し
ていたのだという。その後、なんとか一命を
取りとめたが深刻な肝損傷を負っていた僕は、
完治までに相当な時間を要したのだった。

 意識が戻りICUから一般病棟に移されると、
二人の女性が僕の元を訪れた。

 その一人が菜乃子さんだ。

 彼女は花束を手に僕のところへ来ると、涙
を零した。

 「ごめんなさい、あの時、わたしが本当の
ことを伝えていれば。死んだはずの恋人の字
に似てるって口にしていれば……卜部さんが
こんな目に合うことはなかったのに」

 そう言って涙する彼女に僕は笑みを向ける。

 「そんなこと、菜乃子さんは何も悪くない。
むしろ、あなたも事件に巻き込まれた被害者
じゃないですか。心春さんの事件がなければ、
いまもあなたの隣には彼がいたかも知れない。
そうでしょう?」

 彼女は涙を拭いながら、寂しげに首を振る。
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