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第一部:恋の終わりは
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その姿が、“安永の令嬢”という枠組みの中で
つつましく生きてきた紫月には、眩しかった。
-----不思議な人。
紫月は笑い合う二人を眺めながら、ふと、
一久を思い出した。彼もまた、サカキグループ
の跡取りとして、さまざまなものを背負いなが
らも、その重圧を噯にも出さない、鷹揚とした
人だった。
けれど、レイとはまるでタイプが違う。
自分の隣に立つ彼はいつも毅然としていて、
こんな風においそれと素顔を晒したりはしな
かった。もしかしたら、自分以外の“誰か”に
は見せていたのかも知れないけれど……
ひとり、そんなことを思って口を噤んでいた
紫月の顔を、突然レイが覗き込んだ。
はっとして、紫月は思わず身を引いてしま
う。思ったよりも彼の顔が近くて、驚いて
しまった。
「どうした?紫月。酔いが回った?」
気遣うように、レイが紫月の背中を擦って
いる。紫月は「ごめんなさい。大丈夫よ」と
言おうとして、やはり、やめた。レイと一緒
に、二杯目の冷酒を半分飲んだ辺りから、
身体がふわふわしている。
かなり、酔いが回っているらしい。
「ごめんなさい。ちょっと飲み過ぎてし
まったみたい。おじさん、お冷をいただける
かしら?」
頬に手をあてながらそう言うと、店主は
「はいよ」と返事をし、すぐに紫月の前に
お冷を置いた。
紫月はそれを一気に飲み干す。酔って舌の
感覚が鈍くなっているのか、お水を飲んでい
るというのに、お水を飲んだ気がしない。
「冷え込んで来たし、そろそろ行こうか。
オッちゃん、勘定お願いできる?」
「はいよ。サラダはサービスにしとくけぇ、
また来てな」
少し名残惜しそうにそう言って、店主が
電卓を叩く。紫月は空っぽになったコップを
台の上に置くと、「ご馳走さま。また来ます
ね」と、頬を赤く染めたまま、笑みを返した
のだった。
店を出て園内を歩き始めると、思いのほか
足元がふらついた。足元のおぼつかない紫月
の肩を、抱きかかえるようにしてレイが支え
ている。
紫月は申し訳ないと思いながらも、彼に
身体を預け、夜空の下を歩いた。
「ごめん。二杯目は止めるべきだったね」
頭の上からそう声がして、紫月は首を振る。
「ううん。すごく楽しかったから、つい飲み
過ぎてしまったの。おでんも美味しかったし、
おじさんとのお喋りも楽しかった。こんな
デート初めてよ。ほんとうに」
素直に思ったままを口にすると、自分を支え
るレイの肩が小刻みに揺れた。
笑ったのだと……身体越しに紫月に伝わる。
つつましく生きてきた紫月には、眩しかった。
-----不思議な人。
紫月は笑い合う二人を眺めながら、ふと、
一久を思い出した。彼もまた、サカキグループ
の跡取りとして、さまざまなものを背負いなが
らも、その重圧を噯にも出さない、鷹揚とした
人だった。
けれど、レイとはまるでタイプが違う。
自分の隣に立つ彼はいつも毅然としていて、
こんな風においそれと素顔を晒したりはしな
かった。もしかしたら、自分以外の“誰か”に
は見せていたのかも知れないけれど……
ひとり、そんなことを思って口を噤んでいた
紫月の顔を、突然レイが覗き込んだ。
はっとして、紫月は思わず身を引いてしま
う。思ったよりも彼の顔が近くて、驚いて
しまった。
「どうした?紫月。酔いが回った?」
気遣うように、レイが紫月の背中を擦って
いる。紫月は「ごめんなさい。大丈夫よ」と
言おうとして、やはり、やめた。レイと一緒
に、二杯目の冷酒を半分飲んだ辺りから、
身体がふわふわしている。
かなり、酔いが回っているらしい。
「ごめんなさい。ちょっと飲み過ぎてし
まったみたい。おじさん、お冷をいただける
かしら?」
頬に手をあてながらそう言うと、店主は
「はいよ」と返事をし、すぐに紫月の前に
お冷を置いた。
紫月はそれを一気に飲み干す。酔って舌の
感覚が鈍くなっているのか、お水を飲んでい
るというのに、お水を飲んだ気がしない。
「冷え込んで来たし、そろそろ行こうか。
オッちゃん、勘定お願いできる?」
「はいよ。サラダはサービスにしとくけぇ、
また来てな」
少し名残惜しそうにそう言って、店主が
電卓を叩く。紫月は空っぽになったコップを
台の上に置くと、「ご馳走さま。また来ます
ね」と、頬を赤く染めたまま、笑みを返した
のだった。
店を出て園内を歩き始めると、思いのほか
足元がふらついた。足元のおぼつかない紫月
の肩を、抱きかかえるようにしてレイが支え
ている。
紫月は申し訳ないと思いながらも、彼に
身体を預け、夜空の下を歩いた。
「ごめん。二杯目は止めるべきだったね」
頭の上からそう声がして、紫月は首を振る。
「ううん。すごく楽しかったから、つい飲み
過ぎてしまったの。おでんも美味しかったし、
おじさんとのお喋りも楽しかった。こんな
デート初めてよ。ほんとうに」
素直に思ったままを口にすると、自分を支え
るレイの肩が小刻みに揺れた。
笑ったのだと……身体越しに紫月に伝わる。
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