恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

橘 弥久莉

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第一部:恋の終わりは

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 要するに、その一点のみを紫月に確認し
たいがために、レイは最後のデートプラン
をこの場で知らせたのだ。

 そうして、“彼の家に二人きり”という
シチュエーションが、まったく気にならな
いと言えば、それは嘘になってしまう。

 彼も自分も、とうに成人を迎えた大人だ。

 もし、そうなっても構わない。という
覚悟がなければ、仮初めとは言え、婚約者
の部屋にのこのこと行ってはいけないよう
な気がする。が……

 紫月はまじまじとレイの顔を見つめ、
また数秒考えた。

 そうして、ゆっくりと頷く。



-----嫌ではない。



 万が一、彼とそうなったとしても、自分
はきっと後悔しない。そう思い至った紫月
は、はっきりと口にした。

 「行くわ。レイの家がどんな感じか、
見てみたいし」

 その返事を彼がどう捉えたかはわからな
いが、紫月の答えに僅かに目を見開くと、
レイは「良かった」と息を吐くように言っ
た。どちらともなく、恥じらうような笑み
が零れる。照れ臭いのに、嬉しいような、
そんな温かな想いが、胸の奥に広がり始め
ている。

 「じゃあ、今日と同じ時間に迎えに行く
よ。服装はご自由に」

 冗談交じりにそう言うと、レイは何も
付けていない大根をかじり、美味しそうに
食べたのだった。











-----どれを着ていこうか?



 あと1時間もしないうちにレイが迎えに
来るというのに、紫月はベッドの上に並べた
色とりどりの服を眺めながら、まだ、思い
悩んでいた。

 今日が最後のデートだ、なんて思えば何や
ら落ち着かない心地で、今朝はずいぶん早く
に目が覚めてしまった。だから、メイクは
念入りに施すことが出来たし、彼の家に持っ
ていく手土産の人参ケーキも、それなりに
美味しそうに焼けている。




 「まあまあまあ、立派なお野菜がたくさん」

 あの日、段ボールいっぱいの野菜を持ち
帰った紫月に玄関先でそう言った母は、まだ
泥のついたそれらを眺めながら「人参ケーキ
でも作りましょうか」と微笑んだ。その母に、
手作りのケーキを持っていきたいと相談する
と、母は二つ返事で引き受けてくれたのだった。

 「任せなさい。ミキサーがあれば1時間で
出来るわ。当日の朝に焼きましょう」

 至極嬉しそうにそう言った母に、紫月は
安堵したような心持ちで頷いた。



-----そうして迎えた、当日。



 早くに目が覚めてしまった紫月がキッチン
へ行くと、すでに人参をみじん切りにし、
ミキサーにかけようしている母を見つけ、
慌ててケーキ作りに参加した。というのが
数時間前のことで………
 
 実際のところ、紫月は小麦粉とベーキング
パウダーを合わせてふるった記憶しかない。
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