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【一輪の恋】
しおりを挟む「……っつ」
僕は一度体を離して目を閉じると、ゆっくり
息を吐いた。達してしまいそうになった、
自身を静める。僕の腕の下で、弓月が不安そうな
顔をした。
「だいじょうぶ?」
伺うように、弓月が僕を見る。
僕は、情けなさに自嘲の笑みを浮かべると、
小さな声で彼女に言った。
「ごめん。実は、女性とこういう行為をするの、
初めてで……上手く、その、コントロール
出来なくて……」
大好きな人の前で、僕は、どうしようもなく
恥ずかしい告白をした。
きっと、弓月は経験があるのだろう。
彼女の口からそうと聞いた訳ではないけれど、
僕には何となくわかった。それに比べ、僕は
何もかもが、初めてだ。正直、上手くできる
自信がなかった。バツが悪くて目を逸らして
しまった僕の頬に、弓月の手が触れた。
「わたしは、和臣さんに触れてもらえるだけで、
幸せだから……だから、あなたの思うままに、
してくれればそれで……」
どこまでも優しい彼女の声に導かれて
視線を戻せば、弓月の眼差しが“愛おしい”
と言ってくれている。
僕はもう、泣き出してしまいたかった。
ツンと痛む鼻先を気にしながら、頷く。
弓月が目を細めて、僕の背に腕を回した。
彼女に引き寄せられた僕の体は、
再び熱を取り戻していて、熱かった。
「弓月…大好きだ」
擦れた声でそう言うと「私も」と、
彼女は静かに瞳を閉じた。
まだ、気だるい体をベッドに預けていた僕は、
手を伸ばしてテーブルの上のリモコンを押した。
エアコンを消していた部屋は、二人の熱と
湿気を含んで重い。すーっ、と冷えた風が
汗ばんだ体を心地よく撫でながら通り過ぎ、
僕は腕の中に眠る弓月を、眺めた。
艶のある長いまつ毛が、白い肌に影を
落として、ふっくらと、柔らかな唇は僅かに
開いて白い歯を覗かせている。まるで、
おとぎ話に出て来る、お姫様のようだ。
「飽きないな」
もう1時間も前からずっと、彼女の寝顔を
見つめている。出来ることなら、このまま
ずっと眺めていたかったが、不意に、
弓月の瞼が痙攣した。弓月がゆっくりと、
目を開ける。
「おはよう。よく眠っていたね」
弓月がぼんやりと僕を見つめる。
まだ寝ぼけているのだろうか?
僕は笑って彼女の前髪を掻き上げた。
「ごめん。疲れさせちゃった?」
弓月が首を振る。
そして、照れたように笑った。
「いま……何時?」
「もうすぐ1時半だよ」
「もうそんな時間?大変。
オムライス作らなきゃ」
「大丈夫だよ。そんなに急がなくても」
しぱしぱと瞬きをしながら、慌てて躰を
起こす弓月を、やんわりと引き留める。
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