Diary ~あなたに会いたい~ 

橘 弥久莉

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【恋色スケッチ】

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俺は瞬きも出来なかった。

絡み合う視線を逸らしてしまえば、

逃げられてしまう。そう直感する。

互いが固まったまま、数秒の沈黙が

流れた。けれどドアの隙間から入り

込んだ風が彼女の髪を揺らした瞬間、

俺は手にしていたグラスを置いて

立ち上がっていた。

はっ、と、ゆづるが身を翻す。

俺はドアの向こうに消えた彼女を

追いかけた。

まさかこんな風に、逃げられるとは

思っていなかった。

だから、奥の席に身を隠すことなく、

ずっとカウンター席に座っていたのだ。

重い扉を開けて、階段を掛け上がる。

手を伸ばしてガシリと腕を掴むと、

バランスを崩したゆづるが声を上げて

腕の中に倒れこんできた。

「きゃ…っ」

軽い衝撃と共に、彼女の頭が鎖骨にあたる。

痛みに顔をしかめながら、それでも俺は

腕に力を込めて抱きしめた。

「会いたかった」

苦しげに吐き出した言葉が、

暗く狭い階段に消える。

彼女の肩が小さく震えたのを確かめて、

俺は擦れた声で続けた。

「でも、嫌われてるなら、

もう、待ったりしないから」

自分で言った言葉が、胸を締め付ける。

返ってくるであろう彼女の答えを想像すれば、

なお胸が痛んだ。

「別に……」

大きく息を吐いて、ゆづるが口を開く。

俺はその先の言葉を待って、じっと

耳を澄ました。

「嫌ってなんか、ない。けど、

できれば、会いたくなかっただけ」

やはり、彼女の答えは苦しかった。

ため息とも、笑いともとれない息が漏れて、

ゆづるの肩を離す。

一段上から振り返ったゆづるを、

俺はもう、見ることが出来なかった。

「嫌いじゃないけど、会いたくないか。

諦めが悪くて我ながら見苦しいけど、

もし、理由があるなら聞かせてくれない?」

本当に見苦しかった。

それでも、このまま諦めることなんか、

出来そうもない。俺は夜空を背に、

自分を見つめる彼女の顔をまっすぐ見上げた。

ゆづるは、目を逸らさなかった。

「似ているのよ。とても。だけど、

あなたは、あの人じゃない。だから……」

「だから?」

最後の方は、酷く消え入りそうな声だった。

けれど、その言葉から彼女の胸の内が、

透けて見える。

彼女は“俺”が嫌いなわけではない。

けれど、俺は彼女が忘れられない“誰か”に

似ているのだ。だから、会いたくなかった。
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