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【恋色スケッチ】
しおりを挟む「悪いけど、そういう理由なら引けないな。
その彼が嫌いなら、似ているのは酷かも
しれないけど、そうじゃないなら……
俺はその人の代わりでも構わない。
この先、キミの気持ちがどう変わるかも
わからないし…まずはお試しにどう?」
冷えた手をポケットに突っ込むと、
俺は悪戯っ子のような目を彼女に向けた。
彼女にとって俺が誰かの代わりだとしても、
まったく構わなかった。
俺だって、自分気持ちが決まっている
わけじゃない。
今はただ、ゆづるに会いたい。
わかるのは、それだけだ。
「お試し、って……」
予想とは違う答えだったのだろう。
ゆづるはどんな顔をすればいいかわからない、
といった様子で目を丸くしている。
「それにコレ。あんまり上手だから、
額に入れて飾ろうかと思っててさ」
ジャケットのポケットに小さく畳んで
忍ばせていた、一枚の紙を広げる。
いつかの夜の俺の寝顔が、十字型のシワに
顔を凹ませてそこにいた。
「でも、どうせなら寝顔じゃない方が
嬉しいんだ。できればもう一度、俺を
描いて欲しいんだけど、それもダメ?」
耳を澄ませば、寝息が聞こえてきそうなほど
鮮明なその画を見た彼女の瞳が、少し揺れた。
その画の向こうに、違う誰かを見ていることは、
わかる。俺はもう、何も言わずにゆづるの
返事を待った。目の前に差し出された紙を、
ゆづるが受け取る。
冷えた風が彼女の髪とその紙を同時に揺らして、
このままでは二人とも風邪を引いてしまいそうだ、
と、思った時、背後からコツコツと、階段を下りて
来る足音がした。
ふたつの長い影が、すぐ後ろに迫まる。
「邪魔になるわ。入りましょ」
突然、ゆづるが俺の腕を掴んで、重い扉を開けた。
「空いてるよ」
再び、店に戻るとマスターが頬を緩めて
奥を指差した。
「どうも」
飲みかけのグラスを手に、奥へと進む。
あの夜、ゆづると座った席に腰掛けると、
彼女はバッグから小さめのスケッチブックと、
色鉛筆を取り出した。さっそく、俺を描いて
くれるらしい。
「いつも、持ち歩いてるの?」
狭いテーブルに60色はありそうな
色鉛筆が並ぶ。カッターで削られた芯は先が
少し丸く、色鉛筆の長さもまちまちだった。
アルミのケースの中から二段重ねの上の段を
取り出すと、テーブルは鮮やかな色彩で埋まった。
「色鉛筆はね。これはたまたま。
ほら、描いて欲しいんでしょう?顔上げて」
突如、店の一角でスケッチが始まり、
酒を飲んでいた他の客が、ちらちらと好奇な
眼差しを向ける。俺はその視線を遮るように、
躰を傾け、脚を組んだ。
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