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【恋色スケッチ】
しおりを挟む「素晴らしい画をありがとう。やっぱり、
君は天才だな。感動したよ。本当に」
賛辞の言葉を並べても、ゆづるの不機嫌な
それは変わらない。
「で?」
もう用は済んだだろう?と言いたげに横目で
俺を睨むと、手を挙げてマスターを呼んだ。
呼ぼうと、した。
その手を掴んで止める。
怪訝な顔をしてゆづるが俺を向いた。
「悪いけど、ちょっと付き合って欲しい
ところがあるんだ。今日はこのまま店を
出ないか?酒は今度ご馳走するからさ」
「店を出るって……いったいどこ行くの?」
ゆづるが思い切り顔を顰める。俺は構わず、
彼女の手を引いて席を立った。
いま腰掛けたばかりの椅子を下ろされても、
彼女は手を振り払おうとはしない。
それでも、彼女が逃げてしまわないように、
俺はしっかり手を握った。
「ごめん。これで宜しく」
さっと諭吉を一枚テーブルに置いて、
カウンター奥のマスターに片手で詫びる。
彼は肩を竦めて、2度頷いた。
「急ごうか。外に車停めてあるんだ」
「車って…あなた、お酒飲んでるでしょう!?」
店の戸を開けて階段を登る背中越しに、
ゆづるが声を上げる。
はは、と笑いながら俺は振り返った。
「大丈夫。あれウーロン茶だから」
「ウーロン茶!?」
「そう」
あきれたように目を見開いた彼女の瞳には、
楽し気な俺が映り込んでいる。
“どこへ行くの?”という問いかけが
無意味であることを察したのか、
ゆづるは一度開きかけた唇を閉じた。
「わかった。付き合うから、手を離して。
そんなに強く握ったら、痺れちゃう。
もう、逃げたりしないから」
繋いだ左手を解くように持ち上げる。
俺は少し考えて、手を緩めた。
「そう?じゃあ、これで」
繋いだ手を離さずに階段を登りきると、
隣に並んで立ったゆづるが横目で睨む。
そしてボソリと呟いた。
「そういうところ、そっくり」
俺は聞こえないふりをしたまま、
薄い雲に隠れるように浮かぶ有明月を
見上げた。
------キッ。
夜のハイウェイを走り抜け、目的の場所で
車を停める。と、フロントガラスの向こうに
広がる景色を目の当たりにして、ゆづるは
驚いた顔をして俺を向いた。
そして、ずっと噤んでいた口を開いた。
「付き合って欲しい場所って、ここ?」
「そう。降りてみる?」
にっ、と笑ってドアを開ける。
すると、冷たい夜風と共にゴウという低い
地鳴りのような音が聴こえてきた。
「きれいだな」
ボンネットの前に立って、俺は目を細めた。
暗い海の向こう側に広がる工場風景が、
幾重もの光と白い煙で夜空を削っている。
人気のない暗闇に浮かぶ金属の巨大建築物は、
普通の街並みでは決して見ることのできない
幻想的な夜景を目の前に創り出していた。
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