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【真実の輪郭】
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僕は唇を噛んですっと医師の視線をかわすと、
僕と“同じ心境”であろう、永倉という男へ目を向けた。
彼もじっと僕を見つめている。
病室にしばし沈黙が流れた。
ちょうどふたりの男の間に立ち、その様子を
見ていた医師が、さて、と言って沈黙を破った。
口調はゆっくりで、重い。
「杉村さん。本来、医師である私には守秘義務という
ものがあるのですが……こういった状況下ではそうも
言っていられません。このまま、何も知らずにお二人が
弓月さんと関わっていくことは、不可能に等しいでしょう。
患者の病状にも関わりますし、ここは、私からお二人に
お話するという形でどうでしょう?」
医師の提案に、父親は少し辛そうに顔を歪めた。
けれどまもなく、目を閉じて首を縦に振った。
「この子の為にも……
そうしていただくのが、一番かと」
「わかりました。では、すぐに部屋を用意しましょう」
父親から承諾を得た医師は、奥の部屋は空いてるかね?
と、隣に立つ看護師に耳打ちをすると、僕の横を
すり抜けるようにして病室を出て行った。
------小林喜一郎。
それが、精神科医であり、弓月の担当医である
彼の名だった。
通された部屋は落ち着いた雰囲気のある
カウンセリングルームで、丸い木製のテーブルを
囲むように、白い革張りのチェアーが並んでいる。
僕は永倉恭介と肩を並べ、緊張した面持ちで、
小林医師の言葉を待っていた。
「さて。まず、お二人にはこちらをご覧いただき
ましょう。彼女の状況を理解するには、これが
一番わかりやすいでしょうから」
「何ですか?これは」
一冊の本を僕たちの前に差し出した小林医師に、
永倉恭介が訊いた。
「交換日記です。弓月さんと、ゆづるさんのね」
「ゆづるも、この病院の患者なんですか?」
「はい。私の患者です」
「ふたりは知り合いなのか……」
小林医師は複雑な顔をして口を噤む。
永倉恭介は愕きを隠せない様子で目を見開くと、
差し出された日記に手を伸ばした。
そして、ページをめくった。
僕は横から覗き込むようにして彼に身を寄せた。
彼の良く知る“ゆづる”という女性は、
弓月と日記を交換するほどの間柄らしい。
けれど、弓月の口から彼女の名を聞いたことは、
一度もなかった。どうやらそれは彼も同じようで、
僕たちは黙って日記に目を走らせた。
20××.6.20(月)
今日は、ちょっと嬉しいことがありました。
白い花束を買ってくれた彼が、
またお店に来てくれました。
とても優しい目をした、誠実そうな人です。
また明日来ますと言っていたけれど、もしかしたら、
お花を贈りたい女性がいるのかもしれません。
トルコキキョウの花言葉は知らないようでした。
永遠の愛、っていう素敵な花言葉があるお花を
彼から貰える女性は、きっと幸せでしょうね。
507、511、520、563、570、619
了解しました。水曜の夜までに用意します。
僕と“同じ心境”であろう、永倉という男へ目を向けた。
彼もじっと僕を見つめている。
病室にしばし沈黙が流れた。
ちょうどふたりの男の間に立ち、その様子を
見ていた医師が、さて、と言って沈黙を破った。
口調はゆっくりで、重い。
「杉村さん。本来、医師である私には守秘義務という
ものがあるのですが……こういった状況下ではそうも
言っていられません。このまま、何も知らずにお二人が
弓月さんと関わっていくことは、不可能に等しいでしょう。
患者の病状にも関わりますし、ここは、私からお二人に
お話するという形でどうでしょう?」
医師の提案に、父親は少し辛そうに顔を歪めた。
けれどまもなく、目を閉じて首を縦に振った。
「この子の為にも……
そうしていただくのが、一番かと」
「わかりました。では、すぐに部屋を用意しましょう」
父親から承諾を得た医師は、奥の部屋は空いてるかね?
と、隣に立つ看護師に耳打ちをすると、僕の横を
すり抜けるようにして病室を出て行った。
------小林喜一郎。
それが、精神科医であり、弓月の担当医である
彼の名だった。
通された部屋は落ち着いた雰囲気のある
カウンセリングルームで、丸い木製のテーブルを
囲むように、白い革張りのチェアーが並んでいる。
僕は永倉恭介と肩を並べ、緊張した面持ちで、
小林医師の言葉を待っていた。
「さて。まず、お二人にはこちらをご覧いただき
ましょう。彼女の状況を理解するには、これが
一番わかりやすいでしょうから」
「何ですか?これは」
一冊の本を僕たちの前に差し出した小林医師に、
永倉恭介が訊いた。
「交換日記です。弓月さんと、ゆづるさんのね」
「ゆづるも、この病院の患者なんですか?」
「はい。私の患者です」
「ふたりは知り合いなのか……」
小林医師は複雑な顔をして口を噤む。
永倉恭介は愕きを隠せない様子で目を見開くと、
差し出された日記に手を伸ばした。
そして、ページをめくった。
僕は横から覗き込むようにして彼に身を寄せた。
彼の良く知る“ゆづる”という女性は、
弓月と日記を交換するほどの間柄らしい。
けれど、弓月の口から彼女の名を聞いたことは、
一度もなかった。どうやらそれは彼も同じようで、
僕たちは黙って日記に目を走らせた。
20××.6.20(月)
今日は、ちょっと嬉しいことがありました。
白い花束を買ってくれた彼が、
またお店に来てくれました。
とても優しい目をした、誠実そうな人です。
また明日来ますと言っていたけれど、もしかしたら、
お花を贈りたい女性がいるのかもしれません。
トルコキキョウの花言葉は知らないようでした。
永遠の愛、っていう素敵な花言葉があるお花を
彼から貰える女性は、きっと幸せでしょうね。
507、511、520、563、570、619
了解しました。水曜の夜までに用意します。
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