Diary ~あなたに会いたい~ 

橘 弥久莉

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【真実の輪郭】

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これは、弓月が書いたものだろう。

僕と出会った頃のことが綴られている。

少し丸みのある柔らかな文字は見慣れた筆跡で、

文章の最後にいくつか記されている暗号のような

数字は、何の事だかわからなかった。

「こっちは、ゆづるが書いたものだ」

やや固い声がして僕は隣のページに目を移した。



                  20××.7.3(日)


トルコキキョウの彼、上手くいって良かったね。

別に、悩むことは何もないよ。好きなら好きで、

自分の気持ちに素直に生きればいいと思う。

私はもう、誰も愛さないって決めているけど、

それは、あんたには関係のないことだから。

大丈夫。私はいつだって、あんたの味方だよ。

D-3089 宜しく。



弓月のものに比べると文章は短く、

綴られた文字は少々癖のある印象を受ける。

けれど、細く繊細な字のその人は、弓月を

温かく見守ってくれているようだった。

「あの、この日記から何がわかるんでしょうか?

 暗号のような数字以外は、普通の交換日記

 のように見えますが……」

僕は小林医師に訊ねた。早く答えが知りたい。

それは隣にいる永倉恭介も同じはずだ。

そう思ってちら、と彼の顔を覗いた僕は眉を顰めた。

永倉恭介はきつく唇を結んで、じっと日記を

睨みつけていた。そうして浅く息を吐き出すと、

鞄から何かを取り出した。カサと音をさせて

取り出されたそれは、文房具の紙袋のようだ。

「日記にある3ケタの数字は、これだろう」

彼は袋から数本の色鉛筆を取り出し、僕に見せた。

見れば、真新しい色鉛筆の端に3ケタの数字が

並んでいる。日記に記してあるものと同類のものだ。


「色鉛筆の品番か。じゃあ、この日記の内容は、

 彼女…ゆづるさんに頼まれて弓月が色鉛筆を

 買っていた、ということになりますね」

弓月が画を描いているという話を、僕は聞いた

ことがない。なぜ、ゆづるという女性がそんなことを

弓月に頼んでいたのか理由はわからないが、

ふたりの親しい間柄はやり取りから伝わってきた。

「残念ながら、それは少し違います。

 正確には、弓月さんが“自分に色鉛筆を依頼して、

 自分で色鉛筆を買っていた”という事になります」

「あの、それは、いったいどういう……」

僕は小林医師が何を言おうとしているのかわからず、

首を傾げた。小林医師が大きく息をつく。


「では、率直に言いましょう。この交換日記は、

 どちらも弓月さん自身が書いたものだということです。

 あなた方はDID、解離性同一性障害という病を

 ご存知でしょうか?多重人格障害、という名の方が

 わかりやすいかもしれません。信じられないかも

 しれませんが、弓月さんはその当事者なのです」

一瞬、室内が静まり返った。

けれど数秒の後、僕は「は?」と声を漏らした。

耳から入った言葉を頭が理解した瞬間に、

冷たい汗がどっと額に浮かぶ。

心臓は痛いほどに早鐘を打っていて、急激に渇いて

しまった喉から、僕は声を絞り出した。
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