Diary ~あなたに会いたい~ 

橘 弥久莉

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【真実の輪郭】

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どんなやり取りがあったにせよ、義母に首を

絞められた弓月は被害者の立場のはずで……

それでも、2人の転落死に弓月が関与していないと、

誰も断言できない。そんな真実は、想像するのも

恐ろしいけど……

「結局、真相は彼女の闇のなか、ということか」

永倉恭介が頬杖をつき、遠ざかっていく足音に

耳を傾けながら言った。僕は何げなく窓の外に

目を向ける。すっかり、陽の落ちた西の空には、

まっ黒な雲が広がっていた。

「こんなこと……父親の私が言うのも何ですが、

 弓月がこうなって……辛いことを全部忘れて

 くれているのは、それはそれで幸せなことだと、

 思っているんです。もし、覚えていたら……

 この病気になっていなかったら、あの子はもっと、

 苦しむことになっていたかもしれない。妻や弓弦

 には申し訳ないですが、真実がわかったところで、

 2人が生き返るわけでもありませんしね」

父親は僕たちに同意を求めるように、

微笑を向けた。微笑を、向けた。

その瞬間、僕の中で何かが弾けた。

この人は……この人のせいで、弓月がこんなことに

なってしまったのに、なのに、それを“幸せなこと”

だと、言っている。人が、家族が、2人も死んで

いるのに、真実など要らないと、笑って……!!


ガタ、と大きな音を立てて椅子がひっくり返った。

立ち上がって、僕は目の前に座る父親の胸ぐらを掴んだ。

躰に触れた紙コップが倒れ、テーブルに珈琲が広がった。

「あなたはっ……いったい何をしてたんだ!!

 弓月がこんなことになるまで!!家族がこんな

 目にあってるのに、幸せなわけないでしょう!?」

父親が青ざめた顔をして僕を見上げる。

こんな風に、誰かに怒りをぶつけるのは

生まれて初めてで、キッ、と睨みつけた父親の

顔が歪んで見えても、泪がそうさせているのだと

気付く余裕もなかった。不意に、強い力が僕の腕を

掴んで父親から剥がしとった。

「よせって!!ここは病院だぞ!!」

永倉恭介の声とともに引き剥がされた躰がよろける。

僕は倒れた椅子に足を取られて、その場に

尻もちをついた。


手の平からひんやりとした床の感触が伝わり、

熱くなった頭を冷やしていく。それでも、

視界は歪んだままで、息が苦しかった。

あまりにも、たくさんの想いが一度に押し寄せて、

心の中を、散らかして、散らかして……

もう、胸が張り裂けてしまいそうだ。

「おい、大丈夫か?」

倒れた椅子を起こしながら、永倉恭介が

僕に声をかける。父親がシャツの襟をしわくちゃに

したまま、僕の傍らに膝をついた。

「あなたには本当に、申し訳ないことを……」

苦渋の色を浮かべながら、父親が僕を見る。

------謝って欲しいわけじゃない。

そう思うのに、また、父親が口を開きかけたので、

僕は「すみません」と、言葉を遮った。

「僕、帰ります」

父親が手を差し伸べたがその手は取らずに、

のそりと躰を起こすと、僕は頭を下げた。

泪が零れ落ちる前に、顔を背ける。

足早にラウンジを出てクリニックを飛び出すと、

空から冷たい雨が頬に落ちた。
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