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episode1 私、みえるんです
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それでよし、と言うように、にっこり笑って女性も
テーブルを挟んで反対側に正座する。そして、
じゃあ、さっそく、と話し始めた。
「私、舘林 梨花っていうの。音大に通う4年生」
「へぇ……音大」
つばさには、およそ縁のない芸術分野の人間と
知り、納得する。何となく品があるのだ。綺麗な
顔立ちもそうだが、きっと、育ちもいいのだろう。
柔らかそうな素材の、水色のワンピースがよく
似合っている。
「それでね、お願いって言うのは、どうしたら私が
自分の体に戻れるか、一緒に考えて欲しいってことなの」
「えっ?自分の体って???」
「私、死んでないのよ。まだ生きてるの。
私の体は、いまも南台協立病院で眠ってるのよ」
「そっか!だから私、生身の人間と見分けが
つかなかったんだ」
つばさは、得心してポンと手を叩いた。
「じゃあ、梨花さんは生霊ってことだね」
「うーん。生霊って言われると、ちょっと違う気が
するのよね。こう、すぅっ、と体から抜けちゃったというか。
幽体離脱って言うのかしら?」
腕を組み、人差し指を立てて首を傾げる。確かに、
幽体離脱という観念の方が正しいかもしれない。
生霊とは、本人の自覚なく、執着している相手に
向かって魂の一部を飛ばしてしまうようなことを
言うのだろう。梨花の場合は、抜け出してしまった
霊体が体に戻れず彷徨っている状態なのだ。
「じゃあ、病院に行って、体に戻るしかないよね」
「それができないから、困っているのよ!
何度も自分の体に戻ろうとしたけど、出来ないの。
だからこうして相談してるんじゃない」
もう、頼りにならないなぁ、とでも言いたげに、
梨花が口を尖らせる。つばさは、なるほど、と
頷いて腕を組んだ。が、いい案は浮かばない。
仕方ない。つばさは、顔を上げて梨花に言った。
「とりあえず、どうして梨花さんの体が病院に
いるのか、そこから話してみてよ。あ、でも
詳しい話は向こうでね」
「向こう?」
首を傾げて反芻する梨花に、にいっ、と笑って
親指で窓の方向を指す。薄いカーテンから漏れる
灯りを見て、つばさは立ち上がった。
「って、訳なんだ。どうすればいいと思う?」
学園祭の打ち合わせを終え、疲れた顔をして
帰ってきた斗哉の部屋に、つばさは梨花を連れて
押しかけていた。と言っても、斗哉には梨花の
姿が見えていないから、斗哉にしてみれば、
いつも通り、つばさが入り浸っているだけにすぎない。
「どうすればいい、って聞かれてもな……」
帰って来るなり、事の一部始終を聞かされ、
斗哉はげんなりとした顔でつばさの隣を見た。
無論、斗哉には何も見えない。目を凝らしたところで、
自室のドアが見えるばかりだ。当の梨花は斗哉を見るなり、
「きゃ~っ、カッコいい!!モデルさんみたい。
つばさちゃんの彼氏?二人は付き合ってるの!?」
と、騒ぎ立てているのだが………実際、斗哉の部屋に
梨花の黄色い声が響き渡ることはない。
「違うってば。ただの幼馴染。ちょっと静かにしてよ。
斗哉と話しができないでしょ」
ぺろっ、と舌を出しながらも、梨花は意味深な笑みを
つばさに向ける。その向かい側で、斗哉がムッとした
表情をさせたことに、つばさは気付かなかった。
「とりあえず、もう一度話を整理しようか」
腕を組んでそう言った斗哉に頷くと、つばさは、
テーブルに身を乗り出した。
梨花の話によると、彼女には付き合って2年に
なる彼氏がいたそうだ。名前は早川 圭吾。
花屋でアルバイトをしながら、ミステリー作家を
目指している、いわゆる、アマチュア作家だ。
二人の仲は順調そのものだったのだけど、
ある日突然、雲行きが変わってしまった。
テーブルを挟んで反対側に正座する。そして、
じゃあ、さっそく、と話し始めた。
「私、舘林 梨花っていうの。音大に通う4年生」
「へぇ……音大」
つばさには、およそ縁のない芸術分野の人間と
知り、納得する。何となく品があるのだ。綺麗な
顔立ちもそうだが、きっと、育ちもいいのだろう。
柔らかそうな素材の、水色のワンピースがよく
似合っている。
「それでね、お願いって言うのは、どうしたら私が
自分の体に戻れるか、一緒に考えて欲しいってことなの」
「えっ?自分の体って???」
「私、死んでないのよ。まだ生きてるの。
私の体は、いまも南台協立病院で眠ってるのよ」
「そっか!だから私、生身の人間と見分けが
つかなかったんだ」
つばさは、得心してポンと手を叩いた。
「じゃあ、梨花さんは生霊ってことだね」
「うーん。生霊って言われると、ちょっと違う気が
するのよね。こう、すぅっ、と体から抜けちゃったというか。
幽体離脱って言うのかしら?」
腕を組み、人差し指を立てて首を傾げる。確かに、
幽体離脱という観念の方が正しいかもしれない。
生霊とは、本人の自覚なく、執着している相手に
向かって魂の一部を飛ばしてしまうようなことを
言うのだろう。梨花の場合は、抜け出してしまった
霊体が体に戻れず彷徨っている状態なのだ。
「じゃあ、病院に行って、体に戻るしかないよね」
「それができないから、困っているのよ!
何度も自分の体に戻ろうとしたけど、出来ないの。
だからこうして相談してるんじゃない」
もう、頼りにならないなぁ、とでも言いたげに、
梨花が口を尖らせる。つばさは、なるほど、と
頷いて腕を組んだ。が、いい案は浮かばない。
仕方ない。つばさは、顔を上げて梨花に言った。
「とりあえず、どうして梨花さんの体が病院に
いるのか、そこから話してみてよ。あ、でも
詳しい話は向こうでね」
「向こう?」
首を傾げて反芻する梨花に、にいっ、と笑って
親指で窓の方向を指す。薄いカーテンから漏れる
灯りを見て、つばさは立ち上がった。
「って、訳なんだ。どうすればいいと思う?」
学園祭の打ち合わせを終え、疲れた顔をして
帰ってきた斗哉の部屋に、つばさは梨花を連れて
押しかけていた。と言っても、斗哉には梨花の
姿が見えていないから、斗哉にしてみれば、
いつも通り、つばさが入り浸っているだけにすぎない。
「どうすればいい、って聞かれてもな……」
帰って来るなり、事の一部始終を聞かされ、
斗哉はげんなりとした顔でつばさの隣を見た。
無論、斗哉には何も見えない。目を凝らしたところで、
自室のドアが見えるばかりだ。当の梨花は斗哉を見るなり、
「きゃ~っ、カッコいい!!モデルさんみたい。
つばさちゃんの彼氏?二人は付き合ってるの!?」
と、騒ぎ立てているのだが………実際、斗哉の部屋に
梨花の黄色い声が響き渡ることはない。
「違うってば。ただの幼馴染。ちょっと静かにしてよ。
斗哉と話しができないでしょ」
ぺろっ、と舌を出しながらも、梨花は意味深な笑みを
つばさに向ける。その向かい側で、斗哉がムッとした
表情をさせたことに、つばさは気付かなかった。
「とりあえず、もう一度話を整理しようか」
腕を組んでそう言った斗哉に頷くと、つばさは、
テーブルに身を乗り出した。
梨花の話によると、彼女には付き合って2年に
なる彼氏がいたそうだ。名前は早川 圭吾。
花屋でアルバイトをしながら、ミステリー作家を
目指している、いわゆる、アマチュア作家だ。
二人の仲は順調そのものだったのだけど、
ある日突然、雲行きが変わってしまった。
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