彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode1 私、みえるんです

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「じゃあ、それだけだから。お休み」

つばさの顔が、また赤く染まったことに気付いたのか?

斗哉はそれだけ言うと、部屋に入っていった。

そしてその晩も、つばさは恐怖からではなく、

まったく別の理由で、一睡もできなかった……



その日は、

朝から冷たい雨が降っていた。授業が終わり、

帰宅する時間になっても、空はどんよりと暗い。

つばさは、まだしっとり湿っている傘を広げ、ひとり

バス停に向かった。交差点の信号で立ち止まる。

横断歩道の向こう側にも、帰宅途中らしき生徒が数人、

楽しそうにお喋りをしながら信号待ちをしている。

ふと、つばさは、その生徒たちから少し離れた場所に、

傘もささずに立っている女性を見つけた。遠巻きで

顔はよくわからないが、髪の長い、若い女性だ。

あれ?今日は朝からずっと雨だと、天気予報もそう

言っていたのに、あの人はどうして傘を持っていない

んだろう?つばさは、不思議に思いながら、じっと、

その女性を眺めた。やがて、信号が青に変わった。

きゃはは、と楽しそうな笑い声を交えながら、他校の

生徒がこちらに歩いてくる。つばさは、何となく、その

女性から目を逸らし、歩き出した。色とりどりの傘を連ね、

歩いてくる生徒たちの隙間から、その女性が歩いてくる

のが見えた。ずいぶん綺麗な人だな。つばさがそう

思った瞬間、本来なら通過できる筈のない生徒たちの

間を、その女性はスカッ、と通り抜けて、つばさの

目の前に立った。

「あなた、私が見えるのね!?」

びっくりして立ち止まったつばさの顔を、女性が

嬉しそうに覗き込む。すぐ横を通り過ぎた生徒のひとりが、

怪訝な顔をしてつばさを見たのがわかった。

要は、そういうことだ。

つばさは、内心、深いため息をついて、力なく頷いた。

「それで。お願いってなに?」

不覚にも、生身の人間と霊体とを見間違え、

またもや幽霊相談に巻き込まれたつばさは、自宅に

彼女を連れ帰り、部屋に招き入れた。


「お邪魔しまーす」

礼儀よく部屋に足を踏み入れた女性は、つばさの

質問には答えず、きょろきょろと部屋の中を見回して

言った。

「なんか、女の子の部屋って感じ、しないわね」

大きなお世話だ、と言いたいところだが、本当に

その通りなので、つばさは「まあね」で済ませる。

少年マンガやプラモデルが棚に並ぶ女子部屋は、

あまりないだろう。

「それで?」

少々苛立ちを交えながら、ドン!と机に鞄を置くと、

胡坐をかいて床に座った。すると、その女性は

途端に顔を顰めた。

「もう!女の子がそんな座り方しちゃダメでしょう?

パンツが見えちゃうじゃない」

まるで姉のような口調で怒られて、つばさは

たじろいでしまう。月子もこんな風に言うのだ。

「あ、はい。ごめんなさい」

つばさは、彼女の叱責を素直に受け止め、

座りなおした。
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