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episodeFinal 永遠のワンスモア
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実は澄子の住むこの屋敷は、「お化けが出るよ」と近隣住民に噂されるほど、
奇妙な現象が起こるのだ。霊視に訪れた客が、壁に吸い込まれる黒い人影を
目撃したり、誰もいないはずの洗面所の鏡に人の姿が映ったり、二階に上がる
階段は、数える度に一段増えたり減ったりする。つばさも、ここに来てから何度も
数えてみたが、数が合ったことは一度もなかった。中でも、もっとも不可思議で
不気味なのはあの灯篭付近だ。幸い、自分はその現象に出くわしたことはないが、
ある日突然、いつの時代かもわからない人間が現れたり、庭に迷い込んだ猫が
目の前で消えたりもする。「あの付近はね、時空が歪んでいるのよ」と、神妙な
面持ちでそう言った澄子の顔を思い出せば……おいそれとは近づけなかった。
そうして、そのことは長年、この屋敷に住んでいるトメも知っているはずだった。
なのに、トメはにんまり笑ってつばさを手招きする。
「ああ、そのことなら心配要りませんよ。奥様が危なくないようにと、結界を
張りましたから。もう庭のどこを歩いても大丈夫」
「えっ……ほんとに?」
つばさは半信半疑で首を傾げながらも、トメに導かれるまま縁側から庭へと
足を下した。澄子が大丈夫だと言うなら、危なくないのかもしれない。
1、 2枚写真を撮るくらいなら……つばさは、白と緑のコントラストが美しい
アナベルの花の前に立った。すぐ斜め後ろには、あの灯篭がある。
「もうちょっと左に寄って。そうそう……日陰に入る感じで」
カメラのファインダーを覗きながら、トメがひらひらと手の平で指示をする。
カメラを縦にしたり、横にしたり、案外、構図にうるさいようだ。
「こっ、このくらい?」
つばさは指示に従って、おずおずと灯篭に近づいた。
「はい、その辺で。じゃあ撮りますよ。はい、チー……」
トメの言葉に満面の笑みを浮かべた、その瞬間だった。フッ、と視界が暗転
して、躰がふわりと浮くような感覚に襲われる。ヤバイ、この感じは……
そう思ったのも束の間だった。つばさは風に消えるように、異次元へと
飛ばされていった。
「いっ…たぁーい……」
足をもつれさせてつばさが尻餅をついた場所は、硬いコンクリートの上だった。
のろのろと起き上がりながら辺りを見渡す。当然、目の前にトメの姿はなく、
つばさの前には何やら立派な建物がそびえ立っている。自分がどこか別の
場所に飛ばされてしまったことは、間違いない。やはり、あの灯篭に近づいては
いけなかったのだと……今さら後悔しても遅かった。飛ばされてしまったのなら、
何とかして帰るしかない。つばさは、パンパンと汚れてしまった浴衣を叩くと、
建物の石碑に目をやった。大理石で出来ている建物の石碑には、金箔で
「検察庁」と刻まれている。
「けっ、けんさつちょう???なんで!?」
つばさは、思いきり顔を顰めながら庁舎を見上げた。ここは、どこかの街の
検察庁の前、らしい。どうして、こんな所に自分は飛ばされたのだろう?
春樹君の時もそうだったが、その場所に導かれるには、それなりの理由が
あるはずなのだ。まずは、ここが何処で、今はいつなのか?何とかして
知らなければ、と、つばさは腕を組んで考えた。その時だった。
「キミ」
と横から声を掛けられて、つばさは飛び上らんばかりに驚いた。
「こんな所で、そんな恰好で、何しとるんだね?」
その声に隣を向けば、警備服に身を包んだ初老の男性が、怪訝な顔をして
自分を覗き込んでいる。つばさは、ああ、えっと、としどろもどろになりながら、
肩を竦めた。冷たい風が、ひやりと首筋を撫でる。どうやら、季節は真冬らしい。
奇妙な現象が起こるのだ。霊視に訪れた客が、壁に吸い込まれる黒い人影を
目撃したり、誰もいないはずの洗面所の鏡に人の姿が映ったり、二階に上がる
階段は、数える度に一段増えたり減ったりする。つばさも、ここに来てから何度も
数えてみたが、数が合ったことは一度もなかった。中でも、もっとも不可思議で
不気味なのはあの灯篭付近だ。幸い、自分はその現象に出くわしたことはないが、
ある日突然、いつの時代かもわからない人間が現れたり、庭に迷い込んだ猫が
目の前で消えたりもする。「あの付近はね、時空が歪んでいるのよ」と、神妙な
面持ちでそう言った澄子の顔を思い出せば……おいそれとは近づけなかった。
そうして、そのことは長年、この屋敷に住んでいるトメも知っているはずだった。
なのに、トメはにんまり笑ってつばさを手招きする。
「ああ、そのことなら心配要りませんよ。奥様が危なくないようにと、結界を
張りましたから。もう庭のどこを歩いても大丈夫」
「えっ……ほんとに?」
つばさは半信半疑で首を傾げながらも、トメに導かれるまま縁側から庭へと
足を下した。澄子が大丈夫だと言うなら、危なくないのかもしれない。
1、 2枚写真を撮るくらいなら……つばさは、白と緑のコントラストが美しい
アナベルの花の前に立った。すぐ斜め後ろには、あの灯篭がある。
「もうちょっと左に寄って。そうそう……日陰に入る感じで」
カメラのファインダーを覗きながら、トメがひらひらと手の平で指示をする。
カメラを縦にしたり、横にしたり、案外、構図にうるさいようだ。
「こっ、このくらい?」
つばさは指示に従って、おずおずと灯篭に近づいた。
「はい、その辺で。じゃあ撮りますよ。はい、チー……」
トメの言葉に満面の笑みを浮かべた、その瞬間だった。フッ、と視界が暗転
して、躰がふわりと浮くような感覚に襲われる。ヤバイ、この感じは……
そう思ったのも束の間だった。つばさは風に消えるように、異次元へと
飛ばされていった。
「いっ…たぁーい……」
足をもつれさせてつばさが尻餅をついた場所は、硬いコンクリートの上だった。
のろのろと起き上がりながら辺りを見渡す。当然、目の前にトメの姿はなく、
つばさの前には何やら立派な建物がそびえ立っている。自分がどこか別の
場所に飛ばされてしまったことは、間違いない。やはり、あの灯篭に近づいては
いけなかったのだと……今さら後悔しても遅かった。飛ばされてしまったのなら、
何とかして帰るしかない。つばさは、パンパンと汚れてしまった浴衣を叩くと、
建物の石碑に目をやった。大理石で出来ている建物の石碑には、金箔で
「検察庁」と刻まれている。
「けっ、けんさつちょう???なんで!?」
つばさは、思いきり顔を顰めながら庁舎を見上げた。ここは、どこかの街の
検察庁の前、らしい。どうして、こんな所に自分は飛ばされたのだろう?
春樹君の時もそうだったが、その場所に導かれるには、それなりの理由が
あるはずなのだ。まずは、ここが何処で、今はいつなのか?何とかして
知らなければ、と、つばさは腕を組んで考えた。その時だった。
「キミ」
と横から声を掛けられて、つばさは飛び上らんばかりに驚いた。
「こんな所で、そんな恰好で、何しとるんだね?」
その声に隣を向けば、警備服に身を包んだ初老の男性が、怪訝な顔をして
自分を覗き込んでいる。つばさは、ああ、えっと、としどろもどろになりながら、
肩を竦めた。冷たい風が、ひやりと首筋を撫でる。どうやら、季節は真冬らしい。
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