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第三章:嘘をつく理由
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聞き覚えのある声にゆっくりと振り返れば、そこには
黒いビジネスバッグを手にした、滝田が立っていた。
外回りから戻ったところだろうか?滝田がビニール袋
を拾い上げて、はい、と蛍里に渡してくれる。
「……あ、ありがと」
蛍里はぎこちなく笑みを見せながら、それを受け取った。
何となく、滝田に顔を覗き込まれ、視線を逸らす。
その蛍里に、滝田はいつもとは少し違う声の
トーンで訊いた。
「何処行ってたの?」
「何処って……お昼だよ。あ、それとね、榊専務に
頼まれてた本を買いに、ちょっと本屋まで。だから、
戻りが遅くなっちゃって。いま、急いで着替えたとこ」
早口でそう答えると、専務から借りたビニール袋に
ちら、と目をやる。人は嘘をつこうとすると多弁に
なってしまうらしい。蛍里は不自然に思われやしない
か、どきどきしながら滝田の顔を見上げた。
滝田が小さく息をつく。何だか、嫌な予感がする。
「俺さ、緑道公園の前に車停めて休んでたんだ。
そうしたら偶然、榊専務が運転する車を見かけて。
それで……待ってた。あの人と一緒だったんだろう?
もしかして、俺にまで嘘つかなきゃならない関係?」
----壁に耳あり障子に目あり、とはまさにこの事だ。
蛍里は、始めから嘘がバレていたという衝撃的な
事実に表情を硬くしながら、それでも何か言おうと
口を開きかけた。その時だった。
突然、滝田がぐいと蛍里の腕を掴んで廊下からは
人目につきにくい、階段の影に引っ張りこんだ。
そうして、「しぃ」と口元に人差し指をあてた。
訳がわからないまま、うん、と頷いて、蛍里は息を
潜める。すると、コツコツ、と足音が近づいてきて、
2人がいた場所を榊専務が通った。その姿に、
どきりとした瞬間、また、別の足音が聴こえてくる。
カツカツ、という女性のヒールの音。専務の後を追う
ような、そんな足音だった。
「一久さん」
その声に、榊専務が振り返った気配がした。
声の主の姿は見えない。けれど、榊専務のことを
名前で呼ぶ人など、社内には社長くらいしかいない。
「秋元さん。どうされたんですか?」
少し動揺が入り交じった声で、榊専務が言う。
秋元と呼ばれたその女性は、ふふ、と声を漏らして
から、甘えるような声で続けた。
「あら、社長から聞いてませんか?今日は近くまで
来る用があるから、社の方に顔を出しますと伝えて
おいたんですけど……」
「いえ、父からは何も。ですが、そういうことなら直接、
僕に連絡をくだされば迎えの車を出しますよ。
僕もずっと社内にいるわけではないので、その方が
すれ違わずに済むと思いますし」
黒いビジネスバッグを手にした、滝田が立っていた。
外回りから戻ったところだろうか?滝田がビニール袋
を拾い上げて、はい、と蛍里に渡してくれる。
「……あ、ありがと」
蛍里はぎこちなく笑みを見せながら、それを受け取った。
何となく、滝田に顔を覗き込まれ、視線を逸らす。
その蛍里に、滝田はいつもとは少し違う声の
トーンで訊いた。
「何処行ってたの?」
「何処って……お昼だよ。あ、それとね、榊専務に
頼まれてた本を買いに、ちょっと本屋まで。だから、
戻りが遅くなっちゃって。いま、急いで着替えたとこ」
早口でそう答えると、専務から借りたビニール袋に
ちら、と目をやる。人は嘘をつこうとすると多弁に
なってしまうらしい。蛍里は不自然に思われやしない
か、どきどきしながら滝田の顔を見上げた。
滝田が小さく息をつく。何だか、嫌な予感がする。
「俺さ、緑道公園の前に車停めて休んでたんだ。
そうしたら偶然、榊専務が運転する車を見かけて。
それで……待ってた。あの人と一緒だったんだろう?
もしかして、俺にまで嘘つかなきゃならない関係?」
----壁に耳あり障子に目あり、とはまさにこの事だ。
蛍里は、始めから嘘がバレていたという衝撃的な
事実に表情を硬くしながら、それでも何か言おうと
口を開きかけた。その時だった。
突然、滝田がぐいと蛍里の腕を掴んで廊下からは
人目につきにくい、階段の影に引っ張りこんだ。
そうして、「しぃ」と口元に人差し指をあてた。
訳がわからないまま、うん、と頷いて、蛍里は息を
潜める。すると、コツコツ、と足音が近づいてきて、
2人がいた場所を榊専務が通った。その姿に、
どきりとした瞬間、また、別の足音が聴こえてくる。
カツカツ、という女性のヒールの音。専務の後を追う
ような、そんな足音だった。
「一久さん」
その声に、榊専務が振り返った気配がした。
声の主の姿は見えない。けれど、榊専務のことを
名前で呼ぶ人など、社内には社長くらいしかいない。
「秋元さん。どうされたんですか?」
少し動揺が入り交じった声で、榊専務が言う。
秋元と呼ばれたその女性は、ふふ、と声を漏らして
から、甘えるような声で続けた。
「あら、社長から聞いてませんか?今日は近くまで
来る用があるから、社の方に顔を出しますと伝えて
おいたんですけど……」
「いえ、父からは何も。ですが、そういうことなら直接、
僕に連絡をくだされば迎えの車を出しますよ。
僕もずっと社内にいるわけではないので、その方が
すれ違わずに済むと思いますし」
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