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第七章:絡みつく孤独
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「……おばさん?」
満留の声だと気付いてくれたのだろうか?
息を呑む気配がしてすぐに声が返ってくる。
『……満留ちゃん?満留ちゃんなの???』
信じられないといった様子でそう繰り返した
中谷のおばさんに、満留は破願した。十年とい
う長い月日を、一瞬で飛び越えた瞬間だった。
「はい、満留です。桜井です」
そう答えると、電話の向こうで、ほぅ、と
息をつくのが聴こえる。顔は見えなくても、
おばさんがどんな顔をしているか、想像できる。
『本当に久しぶりねぇ。元気にしてた?』
「はい、お陰さまで。おばさんは?」
『お陰さまで。ぴんぴんしているわ』
「良かった。……あの、私、ずっと会い
たかったのに、おばさんに会いに行けなくて。
長い間顔も見せないままで、ごめんなさい」
『いいのよ、そんなこと。おばさんも満留
ちゃんに会えなくて寂しかったけど、部活と
お勉強で忙しいってわかっていたし、芳子さ
んから時々話を聞かせてもらってたから。
きっと、素敵なお嬢さんに成長してるだろう
ね、って主人といつも話していたのよ』
そう言って、ふふ、と声を漏らしたおばさ
んに、満留は口を引き結ぶ。
母はきっと、社宅を出ても細々と縁を繋い
でいたのだろう。夜勤や休日出勤で満留との
生活がすれ違ってしまっても、中谷さんご夫
婦との交流を一人で続けていたのだ。
満留は携帯を持つ手に力を込めると、呟く
ように「おばさん」と言った。
『なあに?』
何も知らない声が、やさしく問い掛ける。
満留はその声に口元を震わせながら、言葉
を吐き出した。
「……あのね。お母さん、死んじゃった」
口にした瞬間、せっかく止まっていた涙が、
ぶわっ、と溢れてしまう。
電話の向こうでまた息を呑む気配がしたか
と思うと、すん、と洟をすする音が聴こえた。
『……そう、芳子さんが。満留ちゃん……
一人でよく頑張ったね。本当に、偉かったね』
その言葉を聴いた瞬間、満留はようやく悟る
ことが出来る。中谷のおばさんは、すべてを
知っているのだということを。満留は泣きなが
ら頷くと、はぁ、と肩で息をついた。
「おばさん、お母さんのこと知ってたのね」
『ええ。実はね、ひと月ほど前に芳子さん
が会いに来てくれたのよ。いまは社宅を出て、
葉山で暮らしているのだけどね。『自分に何か
あったら、満留をお願いします』なんて……
そんな言葉を遺して帰って』
満留は、ああ、と胸に手をあてる。
――やはり、母はどこまでも『母』なのだ。
最後まで強く、やさしく。
娘を一人この世に遺すことを案じた母は、
病魔に侵された身体を引きずって、葉山まで
行っていた。浮腫んでしまった足で歩くのは
おそらく、辛かったろうに……。満留は掌で、
ぐい、と涙を拭った。
満留の声だと気付いてくれたのだろうか?
息を呑む気配がしてすぐに声が返ってくる。
『……満留ちゃん?満留ちゃんなの???』
信じられないといった様子でそう繰り返した
中谷のおばさんに、満留は破願した。十年とい
う長い月日を、一瞬で飛び越えた瞬間だった。
「はい、満留です。桜井です」
そう答えると、電話の向こうで、ほぅ、と
息をつくのが聴こえる。顔は見えなくても、
おばさんがどんな顔をしているか、想像できる。
『本当に久しぶりねぇ。元気にしてた?』
「はい、お陰さまで。おばさんは?」
『お陰さまで。ぴんぴんしているわ』
「良かった。……あの、私、ずっと会い
たかったのに、おばさんに会いに行けなくて。
長い間顔も見せないままで、ごめんなさい」
『いいのよ、そんなこと。おばさんも満留
ちゃんに会えなくて寂しかったけど、部活と
お勉強で忙しいってわかっていたし、芳子さ
んから時々話を聞かせてもらってたから。
きっと、素敵なお嬢さんに成長してるだろう
ね、って主人といつも話していたのよ』
そう言って、ふふ、と声を漏らしたおばさ
んに、満留は口を引き結ぶ。
母はきっと、社宅を出ても細々と縁を繋い
でいたのだろう。夜勤や休日出勤で満留との
生活がすれ違ってしまっても、中谷さんご夫
婦との交流を一人で続けていたのだ。
満留は携帯を持つ手に力を込めると、呟く
ように「おばさん」と言った。
『なあに?』
何も知らない声が、やさしく問い掛ける。
満留はその声に口元を震わせながら、言葉
を吐き出した。
「……あのね。お母さん、死んじゃった」
口にした瞬間、せっかく止まっていた涙が、
ぶわっ、と溢れてしまう。
電話の向こうでまた息を呑む気配がしたか
と思うと、すん、と洟をすする音が聴こえた。
『……そう、芳子さんが。満留ちゃん……
一人でよく頑張ったね。本当に、偉かったね』
その言葉を聴いた瞬間、満留はようやく悟る
ことが出来る。中谷のおばさんは、すべてを
知っているのだということを。満留は泣きなが
ら頷くと、はぁ、と肩で息をついた。
「おばさん、お母さんのこと知ってたのね」
『ええ。実はね、ひと月ほど前に芳子さん
が会いに来てくれたのよ。いまは社宅を出て、
葉山で暮らしているのだけどね。『自分に何か
あったら、満留をお願いします』なんて……
そんな言葉を遺して帰って』
満留は、ああ、と胸に手をあてる。
――やはり、母はどこまでも『母』なのだ。
最後まで強く、やさしく。
娘を一人この世に遺すことを案じた母は、
病魔に侵された身体を引きずって、葉山まで
行っていた。浮腫んでしまった足で歩くのは
おそらく、辛かったろうに……。満留は掌で、
ぐい、と涙を拭った。
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