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転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました
間話 二人の舞台裏
しおりを挟む間話 二人の舞台裏
トラストンたちが部屋から出て行ったあと、ローウェル伯爵は部屋に残っていたマーカスに、意味ありげな目を向けた。
「……白々しくはないか?」
「そうですか? いや、否定はしませんけど」
マーカスは苦笑してから、少し真顔になった。
「人を操り、幻影のような爪で傷を負わせる。人知を超えたものが敵になっているのですから。こちらも人知を超えた力で対抗するしかありません」
「……トラストン・ドーベルを推したのは、あの――警備隊を無力化した、ドラゴンの頭のことを知っていたのか?」
「いえいえ。それは偶然ですよ、偶然。元々は幽霊騒ぎの解決でしたからね。幽霊騒ぎを解決してるって噂を耳にしましたので、酒場の店主を使って彼に依頼が行くようにしただけです」
「それにしては地下へ逃がせとか、色々と言ってきたな」
「地下水路への入り口があるのは、以前に伺ってましたから。逃がすなら、そこからって思っただけですよ。クレストンから聞いた話では、そこで色々あったようですが……まあ、運が良かったんでしょう」
そう言って微笑むマーカスに、ローウェル伯爵は顔を顰めながら首を振った。
「……まあ、そういうことにしておいてやろう。それより、その指輪はなんとかならんのか。まるで女物だ」
「ああ……これですか」
マーカスが左指にしている、大きなサファイアが填め込まれた指輪。それをローウェル伯爵に見せながら、マーカスは微笑んだ。
「デザインはともかく、良い物ですよ」
鼻を鳴らしたローウェル伯爵がベッドに横たわると、マーカスは胸に手を置きながら、軽く頭を下げた。
「それでは、わたしもそろそろお暇します。仕事もありますし、ね」
「ああ……無茶はせんようにな」
「できれば、そうしたいんですけどね。それでは」
苦笑いを浮かべたマーカスは伯爵の部屋から出ると、小さく背伸びをした。
「行儀悪いわねぇ」
不意に聞こえてきた女の声に、マーカスは口元に笑みを浮かべた。
「まったく……君はいつも唐突だなぁ。今はどこに?」
「内緒。それより、想定より上手くいったって顔をしてるわね。首尾は上々?」
「そうかい? おかしいな。ポーカーフェイスは得意だと思ってるんだけど」
姿を見せない声の主に向けて、マーカスは肩を竦めた。
「でもさ。実際、その通り――想定以上だ。えっと……トト、だっけ。よほど彼と相性がいいんだろうね」
「あたしの言ったとおりでしょ? とりあえず、今回はね」
女の言葉に、マーカスは肩を竦めながら首を振った。
「今回だけじゃない。君を信用して正解だと、今でも思ってるよ。君が色々と情報をくれなければ、今頃はどうなっていたことやら」
マーカスが左手を僅かに挙げると、女の声がクスクスと笑った。
「懐かしいわねぇ。あのときの顔、まだ覚えてるわよ?」
「意地が悪いなぁ。現実離れした現状に、にわかには信じがたい話じゃないか。仕方ないと思っておくれよ」
マーカスは歩き始めたが、声はあとから着いてきた。
「ところでさぁ……あいつを見た?」
「あいつって……ああ、見た者はいるらしいけどね。ドラゴンの幻影だってさ。警備隊相手に大活躍だったみたいだよ」
「そ、そう……」
声に安堵の響きが混じったことに気づいたマーカスは、悪戯を思いついたような笑みを浮かべた。
「気になる?」
「べ……別にそんなんじゃないわよ。それで……あなたは、これからどうするわけ?」
「仕事だよ。こればかりは仕方ない。出来れば、トトたちと一緒にやりたいんだけどねぇ」
そう言って溜息を吐いたマーカスに、声の主は「あら」と意外そうな声をあげた。
「あなたって、運動とか格闘って得意だったかしら?」
「……苦手だね。ああ、わかってるよ。足手まといって言いたいんだろ?」
「そこまでは言わないけど……邪魔なんじゃない?」
「余計に酷くなった気がするけど――まあいいや。今回は大人しく、まな板の上の食材にでもなってるさ」
話している間に階段の側まで来ていたマーカスは、肩を竦めながら階段を降り始めた。
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