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第四章 円卓の影
プロローグ
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転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました
第四章 円卓の影
プロローグ
木々の落ち葉が増えてきて、石畳の敷かれた通りの縁に積もり始めていた。
俺――トラストン・ドーベルは久しぶりに出したコートのポケットに両手を突っ込みながら、少し火照った身体を冷ましていた。
ここは、オントルーマという街だ。俺の済むドラグルヘッドから、汽車で半日足らずの距離だ。カラガンドよりは近いから、日帰りには丁度良い距離である。
すぐ後ろにある小さな工場は、蜂蜜酒の造酒所だ。この晩秋の時期になると、オントルーマの街では蜂蜜酒を振る舞う小さな祭りがある。
俺はガランとの契約を守るため、造酒所の見学をしていた――というわけだ。晩秋ともあって外の空気はかなり涼しくなっているけど、工場の中は真夏より蒸し暑い。
じんわりの浮いた額の汗を袖で拭っていると、横にいたクリス嬢が、少し赤くなった顔で微笑んできた。
「中は暑かったですね。こんなに温度差があるなんて」
ハンカチで汗を拭くクリス嬢は、昨日から妙に上機嫌だ。
以前――カラガンドへ仕入れに行ったとき、クリス嬢を誘わなかったんだけど。そのときの小言を言われたので、その反省を込めて誘った、というわけだ。
休日の旅行というより、単なる日帰り旅行といった感じになったが、それでも喜んでくれているようだ。
「そうですね。もっと、脱ぎ着のしやすい服にすれば良かったですよ」
「本当に。でも、日帰りなのが悔やまれますね。今度は、泊まりで来たいですわ」
「そこは……まあ、収支次第ということで。ガランはどうだった? 酒を造ってるところを見て」
〝あそこまで温度を操れるというのは、驚きだ〟
「ああ、そういう感想になるんだね。人間は魔術とかの代わりに、ああいう技術を使ってるってわけ」
俺が答えたあと、ガランは〝技術――か。興味深いな〟と唸るような声を出した。
興味が沸いたみたいなので、時間があれば構造の説明をしてみようかな。といっても、解る範囲になるけどさ。
街を歩き始めたけど汽車の出発まで、まだ時間はある。どうしようかな――と思っていると、少し大きな屋敷の前を通りかかった俺たちに、老女が話しかけてきた。
「あなたたち、旅行者なの?」
「ええ、まあ……」
「今、庭でお茶を飲んでいてね。良かったら、少しお話をしていかないかい?」
「あら……汽車まで、まだ時間がありますの。トト、ご厚意に甘えましょうか」
笑顔で老女とお喋りを始めるクリス嬢に、俺は素直に従うことにした。
整えられた庭園には、白いテーブルの上にティーセットと茶菓子が置かれていた。屋敷の窓からは、小さな男の子が被る帽子が見えていた。
「お孫さんと一緒に暮らしてるんですか?」
「ええ。息子夫婦も一緒に暮らしてるの。今は仕事で、孫も一緒に外出しているのよ」
俺の問いに答えながら、ティレス・ロジャーと名乗った老女は、ティーカップに紅茶を注ぎ始めた。
俺たちは改めて自己紹介をしてから、テーブルに着席した。
このお茶会のおかげで、汽車の出発時間まで有意義な時間を過ごすことができた。
*
石造りの堅牢な壁に囲まれた小さな部屋には、黒塗りの円卓が置かれていた。
室内にあるのは、円卓の上にある燭台に灯った、蝋燭が一本だけ。壁には外光を取り入れる窓すらなかった。
蝋燭のか細い光に、三つの人影が照らされていた。
「……採掘した奴らは、どうなった?」
北側に座った人影が、野太い男の声で他の二つの影に問いかけた。その声には高圧的な気配はなく、淡々とした口調だ。
西側に座った影が顎で指示をすると、東側の影が面倒くさそうに答えた。
「例の計画で使用するつもりだ。今、その準備をさせているが……アレがそれほど役に立つとは思えん」
「案ずるな。あの計画は、試験的なものだ。奴らで本番なんぞ、やるものか。それで、計画はどこでやるつもりだ?」
「オントルーマだ。ここから近いが、それだけに細工もしやすい」
「わかった。油断はするなよ。すでに、気配の消えた幻獣もいるようだ」
「ほお……破壊されたか。これは、なかなかに面白い」
西側の影が、喉の奥で嗤う。
それを冷たい視線で一瞥した北側の影は、「長居は出来ぬ。次は満月の夜に」と皆に告げながら、燭台の火を消した。
------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました第四章、とりあえずアップ開始です。
いえ、プロットの細部を少し追加したいなーとは思ってます。
あとは時間との勝負になるわけですが。
……ガンバリマス。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
次回もよろしくお願いします!
第四章 円卓の影
プロローグ
木々の落ち葉が増えてきて、石畳の敷かれた通りの縁に積もり始めていた。
俺――トラストン・ドーベルは久しぶりに出したコートのポケットに両手を突っ込みながら、少し火照った身体を冷ましていた。
ここは、オントルーマという街だ。俺の済むドラグルヘッドから、汽車で半日足らずの距離だ。カラガンドよりは近いから、日帰りには丁度良い距離である。
すぐ後ろにある小さな工場は、蜂蜜酒の造酒所だ。この晩秋の時期になると、オントルーマの街では蜂蜜酒を振る舞う小さな祭りがある。
俺はガランとの契約を守るため、造酒所の見学をしていた――というわけだ。晩秋ともあって外の空気はかなり涼しくなっているけど、工場の中は真夏より蒸し暑い。
じんわりの浮いた額の汗を袖で拭っていると、横にいたクリス嬢が、少し赤くなった顔で微笑んできた。
「中は暑かったですね。こんなに温度差があるなんて」
ハンカチで汗を拭くクリス嬢は、昨日から妙に上機嫌だ。
以前――カラガンドへ仕入れに行ったとき、クリス嬢を誘わなかったんだけど。そのときの小言を言われたので、その反省を込めて誘った、というわけだ。
休日の旅行というより、単なる日帰り旅行といった感じになったが、それでも喜んでくれているようだ。
「そうですね。もっと、脱ぎ着のしやすい服にすれば良かったですよ」
「本当に。でも、日帰りなのが悔やまれますね。今度は、泊まりで来たいですわ」
「そこは……まあ、収支次第ということで。ガランはどうだった? 酒を造ってるところを見て」
〝あそこまで温度を操れるというのは、驚きだ〟
「ああ、そういう感想になるんだね。人間は魔術とかの代わりに、ああいう技術を使ってるってわけ」
俺が答えたあと、ガランは〝技術――か。興味深いな〟と唸るような声を出した。
興味が沸いたみたいなので、時間があれば構造の説明をしてみようかな。といっても、解る範囲になるけどさ。
街を歩き始めたけど汽車の出発まで、まだ時間はある。どうしようかな――と思っていると、少し大きな屋敷の前を通りかかった俺たちに、老女が話しかけてきた。
「あなたたち、旅行者なの?」
「ええ、まあ……」
「今、庭でお茶を飲んでいてね。良かったら、少しお話をしていかないかい?」
「あら……汽車まで、まだ時間がありますの。トト、ご厚意に甘えましょうか」
笑顔で老女とお喋りを始めるクリス嬢に、俺は素直に従うことにした。
整えられた庭園には、白いテーブルの上にティーセットと茶菓子が置かれていた。屋敷の窓からは、小さな男の子が被る帽子が見えていた。
「お孫さんと一緒に暮らしてるんですか?」
「ええ。息子夫婦も一緒に暮らしてるの。今は仕事で、孫も一緒に外出しているのよ」
俺の問いに答えながら、ティレス・ロジャーと名乗った老女は、ティーカップに紅茶を注ぎ始めた。
俺たちは改めて自己紹介をしてから、テーブルに着席した。
このお茶会のおかげで、汽車の出発時間まで有意義な時間を過ごすことができた。
*
石造りの堅牢な壁に囲まれた小さな部屋には、黒塗りの円卓が置かれていた。
室内にあるのは、円卓の上にある燭台に灯った、蝋燭が一本だけ。壁には外光を取り入れる窓すらなかった。
蝋燭のか細い光に、三つの人影が照らされていた。
「……採掘した奴らは、どうなった?」
北側に座った人影が、野太い男の声で他の二つの影に問いかけた。その声には高圧的な気配はなく、淡々とした口調だ。
西側に座った影が顎で指示をすると、東側の影が面倒くさそうに答えた。
「例の計画で使用するつもりだ。今、その準備をさせているが……アレがそれほど役に立つとは思えん」
「案ずるな。あの計画は、試験的なものだ。奴らで本番なんぞ、やるものか。それで、計画はどこでやるつもりだ?」
「オントルーマだ。ここから近いが、それだけに細工もしやすい」
「わかった。油断はするなよ。すでに、気配の消えた幻獣もいるようだ」
「ほお……破壊されたか。これは、なかなかに面白い」
西側の影が、喉の奥で嗤う。
それを冷たい視線で一瞥した北側の影は、「長居は出来ぬ。次は満月の夜に」と皆に告げながら、燭台の火を消した。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました第四章、とりあえずアップ開始です。
いえ、プロットの細部を少し追加したいなーとは思ってます。
あとは時間との勝負になるわけですが。
……ガンバリマス。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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