消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

技術長の高慢と欺瞞の渦 その5 前編

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 技術長の高慢と欺瞞の渦 その5 前編


 深夜零時。アーハムの街にある家々や施設のほとんどは、明かりが消えている。夜の闇に閉ざされた街中を、月明かりがぼんやりと照らしていた。
 そんな暗がりの中、完全武装した一〇名の兵士が、アウィンの家を取り囲んでいた。こぢんまりとした二階建ての家は、無防備に見える。


(一〇分もあれば、片が付くな)


 魔導器を携えたアラド技術長は一歩前に出てから、空を見上げた。
 半月や星々が浮かんだ夜空に、厚い雲がかかろうとしていた。
 待機の指示を出してから数十秒後、雲が月明かりを消した。途端に、周囲の闇が一層深まる。
 アラド技術長は静かに、手を前方――アウィンの家のほうへと振った。
 ほとんど足音を立てずに、兵士たちはアウィンの家に駆け寄った。二人は玄関、五人は三方向にある窓、そして残りの二人は裏の勝手口だ。
 すべての出入り口から一斉に突入することで、相手の逃げ道を無くす。アラド技術長が最も好む戦術だ。

 玄関のある西側の窓に駆け寄った兵士の一人が、突然に消えた。九名の兵士が、ほぼ同時に家の外周に到着したあとの出来事だ。
 逆さまに引っ張り上げられた兵士の右足首には、輪っかになったワイヤーや括られていた。


「くそ――」


 兵士は足首を縛るワイヤーを、長剣の魔導器で切断しようとした。しかし長剣で斬りつける直前、まだなにもしていないのに、ワイヤーが独りでに切れた。


「え――?」


 身体を固定させたり、そういった身を護ることは、なにもできていない。兵士は表情を強ばらせたまま、落下を始めた。
 数秒とかからず、兵士は地面に激突した。この衝撃で魔力が尽きたのか、鎧の結界は消滅した。衝撃を結界で殺しきれなかったらしく、兵士が気を失った直後、北側の窓に行った一人が、塀まで吹っ飛んだ。
 ゆっくりと玄関へ向かっていたアラド技術長は、立ち止まって家の周囲を見回した。


「なにごとだ! 襲撃か!?」


「いえ……罠のようです」


 玄関の兵士の返答に、アラド技術長は顔をひくつかせた。


「……罠、だと?」


「そのようです。突入は如何されますか?」


「続行に決まっているだろう。各自、細心の注意を払えと伝えろ」


「はっ」


 兵士が玄関に戻っていくのを見送りながら、アラド技術長はアウィンの家を見上げた。


(罠だと……なんでそんなもの)


 アラド技術長は、どこかで作戦が漏れたのかと、そんなことを考えていた。

   *

 西側の仕掛けが動いた音を聞いて、僕は溜息を吐いた。
 レオナが「初日の襲撃されるかも」って言ってたんだけど……まさか、本当に襲撃されるなんて。
 折角、寝かけていたのに……まったく面倒で迷惑な。
 続けて、北側の兵士が吹っ飛ぶ音を聞くと、僕は工作室を出て、居間にいたレオナと合流した。
 打ち合わせ通りに台所へと移動した僕らは、勝手口の脇に身を潜めた。
 ガチャガチャと音がしてるドアが、勢いよく開かれた。二人の兵士が台所に入って来た――その途端、先頭の一人が床下に消えた。落とし穴なんだけど、人一人がギリギリ入る隙間しかないから、腕を上げたりできないんだ。
 一人で這い上がるのは、無理だ。
 もう一人は、レオナがほぼ秒殺といえる連撃で気絶させた。前にセントさんの頭蓋を砕けると言ったのは、きっと比喩でもなんでもない。
 現に兵士の結界をあっという間に剥いで、腹部と延髄への打撃を決めてしまった。

 僕はといえば、右手に小さな壺を持ちながら、廊下からの出入り口を警戒していた。
 少しすると、レオナの打撃でのびてしまった兵士の悲鳴を聞きつけたのか、細剣を手にした兵士が台所に現れた。
 レオナに対して細剣を構えた兵士に、僕は斜めから二つの壺を投げつけた。
 壺の衝撃は、鎧の結界によって防がれてしまった。だけど、壺の中を満たしていた液体は、鎧や隙間から露出した衣類に付着した。
 鎧の結界は、衝撃に対して発動する。しかし、直接害のないものについては、発動しないんだ。空気とか、水とか……そして、兵士にかかった油なんかも、それ自体では発動しない。


「なんだこれは――」


 兵士が狼狽えたながら一歩動くと、鍋の蓋くらいの金属板を踏んだ。
 少し遅れて、金属板の表面が燃えだした。板の下に仕込んだ仕掛けが、金属板に零れた油に火を点けたんだ。
 火はあっというまに、鎧に垂れた油へと燃え移った。兵士自体は、結界によって無傷だろう。だけど、燃えている油までは除去できない。結界といっても万能じゃないし、熱までは阻害できない。
 なにより、全身が火だるまという精神的ショックは、ちょっとやそっとじゃ抗えない……はず。
 ちなみにこの金属板は、台所の至る所に置いてある。油はなくても、踏むと足の裏に熱を感じる程度には熱くなる。

 兵士は僕の期待通り、錯乱したように僕らを横切って、勝手口から外に出て行った。
 これで、三人を行動不能にしたんだけど……彼らとの戦いは、これからが本番だ。アラド技術長がどれだけの戦力を投入したのかは知らないけど、僕も負けるつもりはない。
 僕とレオナは頷き合うと、台所を出て居間へと向かった。
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