消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

邪な神託を求めて~そして封印へ その6

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 邪な神託を求めて~そして封印へ その6


 アラド技術長は、胴体部と下腹部の繋ぎ目へと移動すると、外皮と内皮の境目に顔を近づけた。
 鼻を鳴らしながら臭いを嗅ぐと、僅かに腐臭が漂い始めていた。白衣の内側から薄い三角形をした金属のこてを取り出すと、外皮と内皮の境目に差し込んだ。
 パリパリとした薄い表面を内側から、粘液のような腐汁が滲み出てきた。濃い紫色をした汁が垂れるのを見て、アラド技術長は護衛兵に見られぬよう、悲嘆の表情を浮かべた。


(我が神の身体が、すでにここまで腐敗していたとは……今回は下調べだけと思っていたが、急いだほうがいいかもしれん。この死骸の内部にいるという、我が神の化身をお助けせねば……)


 そう思いはしても、肝心の化身がいる場所がわからない。今日は調査のみとしてしまったので、身体を分解することはできない。
 かなり硬質な外皮とは異なり、内皮から下はかなり柔らかい。


(外皮さえ除去してしまえば、身体の分解は思っていたより楽そうだ)


 下腹部の内皮に触れると、ドクンと脈打つ、微かな鼓動が指先に伝わって来た。
 手が腐汁まみれになるのも構わず、アラド技術長は興奮気味に外皮と内皮の隙間に指先を押し入れた。


(これは……)


 手の平全体を押し当てると、下腹部からの鼓動がはっきりと分かった。
 それは生命体がいる証。魔神アイホーントの身体は死んでいるが、その内部からは生命の伊吹が伝わって来た。


(間違いがない――ここだ)


 今すぐに外皮を取り除いて内部を調べたい――その衝動に駆られて顔を上げたアラド技術長は、自分に銃口を向けている護衛兵たちの存在を思い出した。

(不審な行動をとれば、すぐさま警告から射殺の流れになるか。わたしが死ねば、化身を救い出すことは二度と叶わぬ……)


 アラド技術長は、身動ぎしないまま思案に暮れた。一分、二分と経つうちに、すぐ後ろで調査の動向を注視していた警護兵が、アラド技術長へと訝しげに声をかけた。


「どうした。調査が終わったのなら、さっさと降りろ」


「いや……まだだ」


 アラド技術長は答えながら、心の中で一心に祈った。


(神よ……どうか、我に化身を救わせたまえ。御身のため、我はなんでもいたしましょう……)


 祈りを捧げるうちに、鼓動が不規則に鳴りだした。その振動はアラド技術長の骨を伝わり、音として耳の奥へと到達した。


「あ、ああ……」


「お、おい、どうした?」


 歓喜とも嗚咽ともいえぬ声をあげたアラド技術長に、護衛兵が近づいた。
 なにかを一心に呟くアラド技術長の顔は、どこか常軌を逸したようだ。瞳孔は完全に開き、口元には喜悦の笑み。鼻血が出ているのをまったく気にする様子もなく、魔神の死骸を両手で撫で回していた。


「クルムググルム、グラン、ギャオルブ、アイホーント、バビディギャブン、ブイア=ブイア! ブイア=ブイア! アイホーント、オビアアグンダルブン、バウイックスブ、ヒシャンド――」


「おい、やめろ!」


 護衛兵に肩を掴まれたアラド技術長は、尋常ではない力で手を振り解くと、言語かどうかも分からぬ言葉を吐き続けた。
 それから十数秒後、内皮の表面が膨れあがってきた。膨らみは外皮を押しのけ、周囲に腐汁を撒き散らしながら、一抱えほどの大きさになると動きを止めた。


「おお……」


 アラド技術長が膨らみに手を触れると、表面が割れて蜘蛛に似た生物が這い出てきた。それは胴体は蜘蛛だが、頭部は肉塊のようだ。目は肉塊が脈打つ度に、位置を変えていた。


「我が神――」


 アラド技術長は蜘蛛の異形の脚や肉塊を、愛おしそうに撫でていた。
 護衛兵はその様子にただならぬものを感じて、周囲へ向けて大声を張り上げた。


「化け物が生まれた! 撃てっ!!」


 アラド技術長とその前にいる異形に向けて、周囲にいる兵士からの銃撃が始まった。
 しかし、死骸のはずだった魔神アイホーントの脚が突如動き出し、魔力弾からアラド技術長と蜘蛛の異形を護った。


〝我が母の意志を継ぎ、よくぞ我を孵化させてくれた〟


「はは――」


 アラド技術長が深々と頭を下げたとき、背後の護衛兵が長剣の魔導器を抜いた。


「この野郎――裏切りやがったなっ!!」


 長剣を振りかぶった直後、護衛兵の胴体を細いものが貫いた。
 魔神アイホーントの左手の指である。そのまま絶命した護衛兵を持ち上げたが、そこで関節から左腕が崩れ落ちた。


〝この身体は、限界のようだ。だが、ここにいる邪魔者くらいは、駆除できるだろう〟


 脚の一本が崩れ落ちるのも構わず、化身の意志によって魔神アイホーントの身体が動き出した。
 脚はふらつきながらも、格納庫の天井近くまで身体を持ち上げ、残った右腕が近くで銃撃をしていた兵士に向けて振り下ろされた。


「退避――っ!!」」


 二階の通路にいた兵士が飛び退いた直後、魔神アイホーントの右腕が廊下の一部を叩き壊した。
 化身に操られた魔神アイホーントの身体が、格納庫の内部を破壊し始めた。逃げ惑う兵士たちを踏みつぶそう振り上げられた前足を、飛来した魔力砲の砲撃が吹き飛ばした。
 化身が動かした目には、迫りつつあるレオナシアという名の魔造動甲冑が映っていた。
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