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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
四章-2
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「……ごめんなさいね」
街道に向けて馬車を急がせる最中、ユタさんは謝罪の言葉を口にした。
味方になってくれると思って、密偵の集まる町へ案内したのに、結果的に追われる立場になってしまった――そのことを、悔いているようだ。
だけど、そんなユタさんとは違い、俺は真逆のことを考えていた。
「謝る必要はないですよ。むしろ、俺たちを捕縛する手配が出回っていることが、首都に着く前にわかりましたから。それだけでも僥倖です」
そんな俺の返答に、ユタさんは少し驚いた顔をしたあと、自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……強いわねぇ、クラネス君は」
「そりゃまあ……そこそこに、波瀾万丈な生活をしてますからね。タフにもなります」
そう答えた直後、俺たちの馬車は街道に入った。ユタさんの説明では、ここからほぼ真南に行けば、首都ウータムのやや西側に出るとのことだ。
馬の体力も気にしないと、潰れてしまう。俺は頭の中でこの周辺の地理を思い浮かべながら、出来うる限り馬車を急がせた。
湧き水のある岩陰で食事を兼ねた小休止すると、またすぐに馬車を走らせた。
街道を進みながら、俺はエリーさんと青年――ウーランといったか――のことを考えていた。
同じ祖国を持つのなら、知り合いだったとしても不思議じゃない。そのことよりも、あの青年のことを騎士と呼んでいたことに、俺は強い衝撃を受けていた。
つまり――チャーンチは騎士階級にまで食い込んでいたという事実、それは危機感を強めるには充分な情報だった。
ミロス公爵には、オーランのほかにエリーさんにも話をして貰う必要がありそうだ。
首都ウータムの王城が見えてきたころ、兵士の検問が見えてきた。《力》で兵士の声を聞けば、俺たちを手配された隊商と断定しているようだ。
俺は舌打ちをすると、馬車の速度をあげた。
兵士の数は、十名ほど。下手に停まれば、囲まれて終わりだ。野盗に追われていると嘘を吐く、説得する――どれも成功できるかは不確かだ。
有無を言わさず、拘束される可能性だって捨てきれない。
――となれば、突破あるのみ。
俺は腰に下げたままの長剣を、鞘から僅かに抜く。そして手綱を片手で操りながら、〈舌打ちソナー〉で周囲の状況を把握する。
検問には十名ほどの兵士、その周囲には人影はない。それに、肉食の獣も感知できなかった。要するに、正面突破さえしてしまえば、ウータムまで一直線だ。
精神を集中させながら、長剣の刀身を思いっきり指で弾いた。
甲高い金属音が響いた直後、兵士たちがバタバタと倒れていくのが見えた。俺の《力》によるものだが、〈固有振動数の指定〉は使ってない。
軽い脳しんとうを起こす程度の轟音を、〈範囲指定〉で撃ち込んだだけだ。数分で目を覚ますだろうし、肉食の獣がいないから、死ぬことはないだろう。
兵士たちのあいだを縫いながら、俺たちは首都へと急いだ。
「クラネスくん、あれは――」
「軽い脳しんとうをさせただけ。すぐに起きるよ」
アリオナさんに答えながら、俺は手綱を操った。しばらく進んでいると、三騎の軍馬が近づいて来るのが分かった。
俺は警戒していたが、先頭を走る騎馬には紋章の描かれた旗を掲げていた。
その紋章がミロス公爵のものだとわかると、俺は手を挙げて馬車の速度を落とし始めた。後続も減速しながら、だく足になったころ、騎士らしい三騎の男たちが近寄って来た。
先頭に居たのは、確かにミロス公爵に仕える騎士の一人だ。
「クラネス殿か!?」
俺の顔を見て、騎士が声を掛けてきた。
俺が「そうです」と返答しながら頷くと、騎士は安堵の表情を浮かべた。
「ご無事で……ああ、ミロス公爵様より、伝言を預かっております」
「伝言ですか? 書面ではなく」
「はい。書面は盗まれる可能性があるということで。現在、首都ウータムではクラネス様討伐の命令が出ているそうです。ただ人相などは知れ渡っておりませんが、馬車の形状は衛兵に伝わっていると」
「……なるほど。厨房馬車だけは首都に入れないほうが良さそうですね。ああ、そうだ。ミロス公爵に秘密裏に会いたいと、お伝え下さい。前に泊まっていた旅籠屋にいますから」
「畏まりました。ですが……ミロス公爵様はここ最近、見張られている気配があると仰有っておられます。お屋敷から出れば、見張っている者にも気取られるやもしれませぬ」
「そうか……」
考えてみれば俺が討伐対象になった時点で、ミロス公爵が監視対象になったとしても不思議じゃない。
そうなると、ミロス公爵にエリーさんやオーランを会わせることも困難になる。
これは正直、困った事態になった。
俺が悩んでいると、騎士が声をかけてきた。
「クラネス殿、羊皮紙とペンがあれば、お貸し下さい」
「それはいいですけど……クレイシーさん、羊皮紙とペンを!」
「ちょい待て」
クレイシーは馬車の中をまさぐったあと、羊皮紙とインク、羽ペンを持ってきた。なんか不安になる音もしたけど、あとで片付け……る余裕があるかなあ。
まあ、とにかく。
クレイシーから羊皮紙などを受け取ると、騎士はなにやら書き込んだ。その羊皮紙を俺に差し出しながら、小さく頭を下げた。
「この場所から、公爵様の屋敷に入ることができます。部下の一人を先行させ、公爵様に鍵を開けておくようお話しておきましょう」
「……それは助かります。でも、部下の一人を先行とは……あなたがたはどうするんですか?」
「わたくしたちは、あなたがたを護衛するよう仰せつかっております。ウータムまで護衛いたします」
「いえ、それは待って下さい。騎士に護られて街に入るのは、悪目立ちしてしまいます。街には、わたくしたちだけで入ろうと思います。騎士様がたは、伝言をミロス公爵様にお伝え下さい」
俺の返答に、騎士は深々と頷いた。
「……必ずお伝え致します」
騎士たちは馬首を巡らすと、そのまま首都へと騎馬を走らせた。
あとに残った俺たちは、だく足で馬車を進めた。
「クラネス君……どうして騎士の申し出を断ったの?」
「彼らが味方だって保証がないからです。それに、あの宿なら構造もよく分かってますから。いざというときに、手が打ちやすいですしね」
ユタさんに答えながら、俺は徐々に馬車の速度を上げていった。
騎馬と馬車では、そもそもの速度が違うけど、それでも到着時間は、ずれていたほうがいい。だけど、あまりずれ過ぎるわけにもいかない。
「クラネスくん。騎士さんたちが先に行ったのなら、そんなに急ぐ必要はないんじゃない?」
「そうもいかないよ。さっき通った検問の衛兵が追ってきてるかもしれないし、さっきの騎士だって、どこまで信じていいのやら――だよ」
「え――騎士さんもチャーンチ?」
驚くアリオナさんに、俺は首を左右に振った。
「確証はないけど、それくらい用心するべきってこと。今の段階で、完全に信用できるのは、ここにいる面子だけだよ」
「そっか。そう、なんだ」
アリオナさんは少し俯くようにしながら、俺に身体を寄せてきた。不安や恐怖、そんな感情が、心の中で渦巻いているんだろう。
この世界に転生して、人並み外れた筋力を宿したとはいえ、根っこは普通の女の子だ。
俺が護ってあげなきゃ――図々しいかもしれないが、そんな気持ちが湧き上がってくる。
俺たちはしばらく、首都の周辺の森を進んで、厨房馬車を隠すにいい、岩場の洞を見つけることができた。
厨房馬車とエリーさんの馬車、それに貴重品の大半を洞に隠すと、ユタさんとメリィさんを留守番に残して、あとの全員で首都ウータムへと入った。
馬車が一台だけ、そして御者台にはクレイシーだけということもあり、予想よりもすんなりと街に入ることができた。
三台以上の隊商は、衛兵たちに呼び止められ、取り調べを受けている。
やはり、俺たちの情報はここまで伝わっているようだ。俺たちは旅籠屋に馬車を預けると、羊皮紙に書かれた場所へと移動した。
運びきれなかった貴重品を持ち運んでいるため、荷物が多いけど……盗人対策だから、仕方がない。
街の外れまで移動する最中、俺は〈舌打ちソナー〉で周囲の警戒を続けていた。監視されているかどうか、尾行者がいるかを確かめたが、少なくとも把握できる範囲では、それらしい人影の反応はなかった。
羊皮紙に書かれた場所は、用水路の脇にある小屋だ。監視小屋として使われているらしいが、ドアには鍵が掛けられておらず、中は木箱や樽が雑多に置かれているだけだ。
それに、外観よりも小屋の中は狭い気がする。
中を見回して、エリーさんが不安な顔をした。
「ここで、本当に合っているのでしょうか? これだけ荷物があったら、出入りは無理でしょう」
「そうですね……壁とあるので、荷物を退けてみましょうか」
俺とアリオナさん、それにクレイシーとで樽や木箱を動かすと、腰の辺りまでの高さしかない、金属製の扉が現れた。
扉を開くと、真下への開口部に、金属製の梯子が見えた。出口用なのか、開口部に身体を潜り込ませるのは、かなりやりにくそうだ。
この先、待っているのは歓待か刺客か――開口部から見える光景と同じく、その解答は闇に包まれている。
フレディを扉の見張りに残し、俺たちは地下へと降りていった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
新年あけましておめでとうございます!
本年も、何卒よろしくお願い申し上げます(ペコリ
都合により、普段よりも早めのアップとなりました。
新年の御挨拶のあとですが、今後の予定を……ですが。次回は恐らく、土曜日になると思われます。仕事が繁忙期ですので、アップできるだけの時間を作るのが、少し困難です。
御理解の程、よろしくお願いします。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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