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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
四章-3
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通路の下に置いてあった松明に、クレイシーが持っていた火口箱で火を点けた。
石造りの通路をしばらく進むと、登り階段があらわれた。階段を上がっていると、金属の扉に突き当たった。
両開きのようだが、こちら側からは開けられないのか、押してもだめだし、引くにしても取っ手がない。
俺は長剣の柄で、扉を叩いた。
それから十数秒ほど経つと、扉が開かれた。室内側に開かれた扉は、倉庫らしい一室に設けられていたらしい。
扉のすぐ外には、目隠しと重しを兼ねていたらしい木箱が、無造作に置かれていた。
まずは〈舌打ちソナー〉で周囲を調べてみるが、周囲に潜んでいる者はいなさそうだ。俺は正面にいるミロス公爵と、数名の騎士たちに目礼をした。
「突然の訪問に対し、ここまでの御対応を頂きましたこと、心から感謝しております」
「仰々しい挨拶は不要だぞ、クラネス。それより、チャーンチに関しての用件なのだろう? 急ぎ本題に入るとしよう」
「わかりました」
ミロス公爵が俺たちを密談用の一室へと案内する途中で、俺はオーラン、そしてエリーさんの紹介をした。
今回は、その二人からの話が主題となる。
窓の無い、厚い石材で囲まれた部屋――仮に密談室と呼称することにする――に通されると、俺はエリーさんとオーランを、ミロス公爵の前に座らせた。
まずは、オーランからだ。
前に話をした、チャーンチについての話をミロス公爵に伝えてもらった。その次は、エリーさんだ。
ファレメア国が乗っ取られた経緯、そして王族や貴族たちの末路――それらの話を聞いたミロス公爵は、眉を寄せた。
「なるほど……な。ラオン国の中枢にも、チャーンチが入り込んでいる……か」
「可能性は高いでしょう。なにせ、わたしの隊商を狙っていたチャーンチは、ラオン国の紋章のある装備を身につけておりましたから」
「なるほど……な。これで、エルサ姫の言動も理解できる。チャーンチの間者によって、妙な思想を刷り込まれたのだな」
「いえ、もしかしたら操られているのかもしれません。密偵たちが隠れ里……として使っている町で、似たような経験をしました。どうやら魔術で操られた密偵たちが、わたくしどもをチャーンチへ引き渡そうとしてきたのです」
俺の話を聞いて、ミロス公爵が驚愕の表情を浮かべた。
それはそうだろう。一国の姫が外国の工作員に操られているとなれば、それこそ国政の危機だ。国政だけではなくエルサ姫を介して、工作員が入り放題となる。
そうなればファレメア国のような、内部からの侵略が始まるだろう。
とはいえ、証拠はない。俺の推測でしかない段階だが、これまでの経験から、当たっている可能性は低くない。
ミロス公爵はいつになく真剣な顔で、虚空を睨み付けた。なにかを思案しているようで、話しかけられる雰囲気ではない。
数分ほどして顔を上げると、険しい目をオーランへと向けた。
「操られている者を見分ける方法はあるか?」
「いえ……わかりません。わたしは魔術には明るくありませんので、詳しいことはご説明できません」
「……なら、チャーンチを見分ける手段は?」
「ファレメア国から来た者が多いでしょうから、よく見れば……肌の色などは異なるでしょう。ですが、チャーンチは混血が多いですから。取り戻す――これはチャーンチ側から見ての意見になりますが、取り戻そうとする国の人種に似た者を送る傾向があります。簡単には、見分けることは難しいでしょう」
「そうか……厄介だな」
また沈黙に落ちようとしたミロス公爵に、エリーさんが声をかけた。
「あの、公爵様。なにか……心当たりなことがおありですか?」
「うむ……実は最近もエルサ姫の推挙で、下働きの女が王城に入ったのだ。それ以前にも、前に衛兵や下男なども推挙なされている」
これは……かなやヤバイ状況だろう。下働きだけでなく、衛兵までも入り込んでいるとしたら、チャーンチの計画はかなり終盤に差し掛かっていると思う。
俺は恐る恐る、訊いてみることにした。
「あの、例えばなんですが……ほかの貴族殿や役人殿からの推挙で、王城に働きに入った者はいるのでしょうか?」
「そんなものは、昔から多くいるからな。どれがチャーンチかなど、判別は難しい。例えば副議長のガーンズ伯などは、近年になって十名以上も衛兵などを推挙している」
……さい、あくだ。
もしその副議長がチャーンチと繋がっていたら、王城の守備など無きに等しい。
こうなると、もう俺たち個人の力ではチャーンチに抵抗できない。あとはミロス公爵に任せるしかないだろう。
そう思い始めたとき、ミロス公爵が俺を見た。
「クラネス――頼みがある」
「何なりと――ですが、わたくしでは大したことはできないでしょう」
「いや、おまえに……おまえたちにしか、頼めぬことだ。つまり……王城に潜入して、エルサ姫を操るチャーンチ、並びに潜入したチャーンチの密偵を炙り出し、奴らの計画を止めて欲しい」
「無茶です、そんなの!」
俺は声を荒げたが、ミロス公爵は静かに手を挙げて、続く言葉を制した。
感情を打ち消した表情で俺たちを見回しながら、俺たちに落ちつくよう、静かに平手を上下に動かした。
「……まあ、話を聞け。わたしの配下を動かそうにも、見張りがある以上は迂闊なことはできん。ともすれば動く前に、反逆の疑いがかかってしまうだろう。この現状で、動けるのはクラネス――おまえたちだけだ。少し待て」
ミロス公爵は、そう言い残して部屋を出て行った。
とてもじゃないが喋るような気分ではないし、そういう雰囲気でもなかった。ミロス公爵が戻ってきたのは、一〇分ほど経ったときだ。
封蝋が施された羊皮紙を俺たちの前で広げ、そこに描かれた地図の一点に人差し指を置いた。
「これは、王城周辺の地図だ。この屋敷と同様に、王城にも緊急時用の秘密通路が存在する。これを見よ」
広げた羊皮紙の地図には、丸い印が描かれていた。王城から北にある、街中の建物――らしい。
ここが出口かと思ったら、ミロス公爵の指が王城の南側へと移った。
「ここに、王家が管理する衛兵の兵舎がある。その倉庫に、地下通路が隠されている」
「あの――この丸印は一体?」
「偽装だ。地図が盗まれても良いようにな。正確な位置は、法則を知っておらねば解読できん。まあ、とにかくだ。ここから王城に入り、内部の調査をしてくれ」
「いえ、待って下さい。わたしたちは密偵ではありません。そんな技術や経験もありませんので、調査なんて無理ですよ」
「衛兵の装備や侍女の服装は貸してやれる。それで潜入して、チャーンチを炙り出してくれ」
「ですが、オーランもチャーンチですし……」
「彼については、我が屋敷で預かろう。おまえたちなら、できると信じておる」
「待って下さい。わたくしは……その、エルサ姫に顔を知られております。潜入には不向きかと……」
胸に手を添えながら訴えるエリーさんを、俺は心の中で応援した。今回の潜入、魔術師であるエリーさんは必要不可欠だ。魔術の技量だけでなく、その知識がなければ、エルサ姫を操っているという証拠を握るのは難しい。
だが、ミロス公爵はエリーさんの意見を聞いても表情を崩さなかった。
「それについても、心配は無用だ。侍女たちに、変装の準備をさせよう。その綺麗な顔を汚すことになるが、そこは我慢をしておくれ。もちろん、クラネスたちもだ。念のために変装をしてもらうぞ」
口調は軽いが、顔は真剣そのものだ。
伊達に公爵の地位にいるわけではない……んだろう。身体から発せられる威圧感が、潜入を拒否するという意志を削いでいく。
俺はまず、用水路にある小屋で見張りをしていたフレディを呼びに行くことにした。荒事になった場合、フレディの戦力は必要になる。
気が乗らないけど……やるしかないんだろう。
俺は侍女から付けぼくろを付けられたり化粧をされながら、心の中で溜息をついていた。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
次回から王城での活動となります。化粧といっても肌を汚すのが主な作業になる感じでしょうが、化粧慣れしてない人には辛いかもですね。いや、人の手で化粧されるのが焦れったいというか、くすぐったいというか。
付けぼくろは、粘土やらで作ってる感じかも。このあたり、ちょっと話優先です。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします
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