屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

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第十一部

一章-2

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   2

 テレサからの願いを聞いたレティシアは、執務机の上で手を組むと静かに、しかし長い息を吐いた。
 それっきり、十数秒ほどの沈黙が降りた。食堂からは、話し声が微かに聞こえていた。感情の読めないレティシアの視線に居心地の悪さを覚えたテレサは、身じろぎをした。
 レティシアは固く口を結ぶテレサに、僅かに睨め上げた。


「その問いに答える前に、二つほど質問をしてもいいだろうか。なぜそれを、わたしに問う?」


「兄から、あなたの名前を聞いたことがあるんです。それに監査係に兄の話を伺いに行った際、あなたの名前を聞きました。詳しいことは、あなたが知っていると――」


「なるほど。しかし……君の兄が犯した罪を聞いて、どうするつもりだ?」


 レティシアからの二つ目の問いを聞いて、テレサはハッと息を呑んだ。
 胸の中で、渦巻いている感情。そして兄の罪状のために苦しんできた日々が、脳裏に蘇った。
 それらに強固な蓋をしてから、テレサは感情を抑えた声で告げた。


「一つ一つ、兄のしたことを知り、考え――その中から、兄の尊厳を回復する手掛かりを見つけるためです」


 レティシアは黙ってテレサの返答を聞いていた。
 そして一度だけ目を閉じると、深呼吸をしてから、どこか辛そうに口を開いた。


「君の気持ちは、理解できなくもない。きっと、仲の良い兄妹だったのだろう。だが、君の希望に添う内容になるかは、保証できない。なぜなら、わたしも彼に被害を受けた側の人間だからだ」


 この言葉に、テレサの顔が青くなる。微かな希望を抱いてここまで来たが、なんの成果もあげることができないのでは――そんな絶望感に苛まれたからだ。
 その心情を読み取ったレティシアは、僅かに口元を綻ばせた。


「とはいえ、君に恨みがあるわけではない。付け加えるならば、わたしとて、すべてを知っているわけではない。訓練兵のときの彼と、メイオール村で行われたことであれば、嘘偽りなく話をしよう。それで構わないだろうか?」


「……はい。充分です」


 コクン、とテレサは頷いた。
 レティシアは言葉を選びながら、訓練兵時代のことを伝え始めた。


「わたしの知るゴガルンは――《ダブルスキル》ということで、皆から一目置かれる存在だった。訓練でも気を使われていた感はあったが――彼は、それに気付いてはいなかったと思う。それが原因かは、わからない。だが、いつの頃からか、《ダブルスキル》を鼻にかけ、高慢な言動が増えたように感じられた」


「そんな……兄に限って、そんなこと」


「だが、事実だ。それからのことは、わからないことが多い。ここメイオール村に関わることで、彼が起こしたことを端的に話をしていけば――だ。
 我々が騎士団の認可を貰うための任務で、誤情報を流す。騎士団の設立後に、団員に対する痴漢行為並び、暴力行為。そして、彼らの暴挙に対する抵抗時、我々の意識を逸らすため、村へ対する攻撃を行った」


 レティシアが過去の出来事を順に口にしていくと、テレサの顔が青くなっていった。
 しばらく口を固く結びながら目を伏せていたが、やがて呼吸を整えながら、レティシアへと虚ろな目を向けた。


「あの……失礼ながら、質問をしてもよろしいですか?」


「ああ。構わない」


「レティシア様は……兄を救おうとは、思わなかったのでしょうか。訓練兵として同期で、その……恋人に近い存在だったと」


 テレサからの質問に、レティシアは怒鳴る寸前まで声が出かかった。
 執務机に手を突きながら呼吸を整えたあと、レティシアは盛大な溜息を吐いた。


「……そんなこと、どこの誰が言っていた?」


「え? その……兄が」


 テレサの返答に、レティシアは呼吸を睨み付けた。


(あの男ときたら……そういえば、この村で暴れたとき、ヤツはそんなことを言っていた気がするが……)


 そのときのことを思いだし、レティシアは嫌悪感で身震いをした。レティシアにとっては好意を抱いていないどころか、あまり近づきたくない存在だった。
 心の中で思う存分に罵詈雑言を喚き散らしてから、レティシアは努めて冷静な顔を、テレサへと向けた。


「君には悪いが、そのような事実はない。わたしは彼や彼の取り巻きとは、あまり親しくはなかったし、ほとんど接していなかった。彼がわたしに対し、どんな感情を抱いていたのか、それを知るところではない」


「……そう、なんですか?」


「そうだ。決して間違えないようにして頂きたい」


 レティシアは有無を言わせぬ口調で、だめ押しをした。それから少しだけ、表情を和らげると、逆に質問を投げかけた。


「あなたは、ゴガルン――兄上とは、仲が良かったのか?」


「はい! 兄は、両親やわたしの生活を良くするために、訓練兵として志願したんです。《ダブルスキル》は貴重な存在ですから、きっと出世できるって……それで監査係に抜擢されたと聞いて、両親やわたしは、大喜びをしたんです。それが、どうして……」


 言葉を詰まらせたテレサが、指で目を拭った。そして少し赤くなった目を上げ、真剣な顔をレティシアへと向けた。


「兄を捕らえたとき、騎士団ではない男の人が関わっていたと聞いています。それが誰なのか、知っていますか?」


「それは――」


 レティシアは素直に答えかけて、思いとどまった。
 あのとき、ゴガルンを叩きのめしたのは、ランドだ。それを伝えれば、テレサは駐屯地を出た足で、ランドにレティシアへしたのと同様の質問をしに行くだろう。
 あの嘘を嫌うランドが、上手にテレサの問いに答えられるとは思えない。レティシアは少し考えて、少し事実を曲げることにした。


「君の兄――ゴガルンを捕らえたのは、わたしの兄だ。ハイント領の領主、ベリット・ハイント男爵」


「男爵様が――な、なるほど。そうなんですね」


 答えを聞いたテレサは、僅かに緊張が解けたようだ。それが「今すぐに話を聞きに行かなくても良い」からなのか、それとも「男爵なら仕方が無い」なのか。レティシアには、その感情の変化の原因が判断できなかった。
 会話が途切れると、レティシアは立ち上がった。


「さて――もう昼だ。折角だから、駐屯地で昼食を食べていくといい」


「え? でも……よろしいんですか?」


「ああ、構わない。ついてきたまえ」


 執務机を迂回したレティシアは、テレサを食堂へと促した。
 廊下を通って食堂に入ると、テーブルで食事をしていた騎士団員たちが一斉に立ち上がり、レティシアに敬礼を送った。


「食事中であるから、気楽にしてくれ。それより、客人にも食事を」


「はい」


 最初に反応したユーキが、厨房に声をかけに行く。
 茶髪で大人しそうな少女――ユーキと従者の手で料理が運ばれると、テレサは団員たちと食事を共にすることになった。


「なんか、すいません……」


「いやいや、団長がいいって言ったんだから、気にしなくてもいいですよ」


 笑顔のクロースに、テレサは少しだけ緊張が解けた。
 長テーブルの端で我関せずと、黙々と食事をしている金髪の少女に目を向けた。勝ち気な顔立ちには見覚えがあるのか、控え目に声をかけた。


「あの……エリザベート様。鉱山では、お世話になりました」


「ああ――誰かと思ったら、テレサだっけ? あなただったね。別に、任務で行っただけだし、気にしなくていいわ」


「あ、そういえば……鉱山ってことはリリンの件で会ったんだっけ」


「そう。鉱山の案内をしてくれたんだけど、あたしをリリンと間違えたり、ほかにも色々とやったわよ」


 このエリザベートの言葉はユーキへの返答だったが、含まれていた棘だけはテレサへと放たれていた。
 罪悪感と恥ずかしさから、顔を真っ赤にしたテレサは深々と頭を避けた。


「その節は……誠に申し訳ありませんでした」


「ああ、別に怒ってないわよ。気にしないで頂戴」


「あ、ありがとうございます。それで、あの……リリアーンナ様の姿は見えませんが、任務で出かけられているのでしょうか?」


「あれ? さっきまで――ああ、あそこ」


 クロースが視線を向ける先に、銀髪で眼鏡をかけた少女とレティシアがいた。
 銀髪の少女――リリンに、レティシアは控え目な声で話しかけた。


「――というわけだ。テレサのことを、瑠胡殿かセラへ伝えてくれ」


「……わかりました。ですが、ランドお兄様に伝えないのは何故ですか?」


「あれは……誤魔化すのは下手だろう。その手のことは知らない方が、接しやすいだろう。変に揉め事にして、厄介な事態になるのは、騎士団としても避けたい。とはいえ、これは念のためというだけだ。テレサが神殿に行く可能性は低いだろうしな」


「いえ、レティシア団長。先ほどクロースさんから聞いたのですが、テレサさんはもう、ランドお兄様と会っています。そこで、瑠胡お姉様たちに挨拶に行くという話になったようです」


「……なんと間の悪い」


 内緒話でもなく、そして近くにテレサが居なければ、レティシアはこめかみを手で押さえていただろう。
 レティシアは溜息を吐きながら、腰の辺りを指で叩いた。


「こうなった以上は、仕方が無いな。食事を終えてからで構わないから、頼んでもいいか?」


「いえ。すぐに向かいます。レティシア団長たちは、少しでも構いませんから、時間稼ぎを」


「わかった」


 レティシアが頷くと、リリン一礼をしてから長テーブルに戻った。


「皆さん、わたしは所用で神殿へ戻ります」


「あ、そうなんだ。食事は――?」


「すぐに戻りますから、ここに残して置いて下さい」


「あ、あの!」


 クロースとリリンの会話に、テレサは慌てて割り込んだ。


「あの、リリアーンナ様。鉱山では、お世話になりました」


「いえ。結果、迷惑をかけたのは、わたしのほうですから」


「あとから、少しですが事情を知りました。だから、お気持ちは理解できます。それで、あの……リリアーンナ様は、神殿に属されているのですか?」


「いえ。ランドお兄様たちと住んでいるだけです」


 リリンの返答に、テレサは目を瞬かせた。
 ラーニンス家にランドという名の者はいなかったはずだし、瑠胡というのはどう見ても異国の女性だ。
 テレサが状況を理解できていないと察したリリンは、小さく手を挙げた。


「このたびラーニンス家を離れ、ランドお兄様や瑠胡お姉様の妹となりました。これで、わたしたちは最強です。なにも恐れるものはありません」


「え? ええっと……」


「ああ、気にしないで頂戴。その子は今、幸せの絶頂期なのよ。それで、ちょっと感情の調子テンションが変になってるから」


 丁度、食事を終えたばかりの赤毛の美女、キャットが短髪を撫でながら肩を竦めて見せた。
 テレサが躊躇いながら頷いた直後、横から声が飛んできた。

「そうよ。最強なのは、あたしとユーキのペアに決まっているんだから」


 いきなり話に割り込んだエリザベートに、キャットは半目で振り返った。


「あんたねぇ。状況をややこしくするんじゃないわよ」


「エリザベートさん……その最強は、わたしたち兄弟姉妹に移りました」


「はあ? 冗談を言わないでよ。そんなわけがないでしょ! なら一度、勝負してみれば判明するわ」


「そうですね。なら、なんとか暗殺の手を考えないと……」


「はあ? なんで勝負で、暗殺なんて話が出てくるのよ」


「勝利を確実なものとするためです。ランドお兄様や瑠胡お姉様のためなら、わたしは己の手を汚すことも厭いません」


 力強く拳を握るリリンに、その場にいた全員が唖然とした。
 その後ろで、まだ食堂に残っていたレティシアは「伝言を早めに伝えて欲しいんだがな」と、目頭を押さえていた。

   *

「ふむ――テレサが村に来ておるとな」


「はい。レティシア団長は、お二人にはお伝えしたほうがよいと判断なされました」


 神殿の一階で、瑠胡とセラは騎士団から来た従者から、レティシアからの伝言を受けていた。最初に伝言の依頼人の名を聞いた瑠胡が、「こういうのはリリンの役目と思うたが」と疑問を口にした。
 それに対する従者の返答は、


「リリン殿はその……話が長くなりそうだったということで」


 というものだった。
 お下げの女性従者は、少し息を吸いながら、伝言の内容を思い出すように、虚空へと目の焦点を合わせていた。


「彼女は、ゴガルンの妹ということです。ゴガルンのことを聞かれるかもしれないので、そこは上手に誤魔化した方が良いとのことです。彼女がその……厄介な鼓動を起こす可能性がありますので」


「……なるほど。ゴガルンの妹、か。レティシア団長には、了知した旨を伝えてくれ。ランドには伝えない方がいいのだろう? それとなく対処してみよう」


「お願いします」


 女性従者が立ち去ったあと、瑠胡はセラへと小首を傾げた。


「セラ。ゴガルンとは、何者ですか?」


「瑠胡様は……そうですか。ヤツの名を知らなかったのですね」


 ゴガルンの攻撃から村を護った立役者だった瑠胡も、姿は見ているが名を知らなかった、もしくは覚えていないようだと、セラは初めて気がついた。


(レティシアの判断のおかげで、助かった……)


 セラは安堵しながら、ゴガルンについて瑠胡に説明を始めた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

正直、瑠胡たちの描写は次回に回そうか……と悩みました。なんで、まだ書き終わらないんだろうって、不思議になった土曜日。

ただ前の話が終わって、リリンが漸く、なんの遠慮もなくトロールキャラというか、ちょっとアレな描写ができて、ちょっと楽になりました。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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