塔の魔導師と騎士団長の恋が実るまで

温井 床

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 護衛騎士五十人程に囲まれた品のあるレリーフの大きな馬車が門をくぐって入ってきた。

 城の賓客入口は塔から見えないので、降り立つ姿は見えない。

 あれから十日何事もなく、今日フレア国の王女が到着した。

 リンガルは出迎えに並ばなくてはいけないとあちらに行っている。

 その間の護衛は何度か来てくれている第二騎士隊のイグニスだ。
 
 エリート集団の隊所属とあって魔力量もそれなりに多く、鍛えられた体に剣も強そうだ。

 ちなみに顔もかなり整っている。この第二騎士隊は狭き門らしく今は五人しかいないらしい。かなり厳しい条件で護衛の人選をしたそうだが、そんな貴重な人材を回してもらってもよかったのだろうか。

「本当なら王女の出迎えに並ぶはずだっただろう。こんなむさ苦しいところですまない」

 そう言うと、イグニスはとんでもないと首を振り。

「麗しい魔導師長殿の護衛ができて光栄ですよ、お近づきになりたくて私は自分で手を上げました。それにここがむさ苦しいのであれば、騎士団などゴミ溜めのようですよ」

 なるほど、出来る男は口も上手いな。

 ふふっと笑うとイグニスも微笑む。

「花も霞む美貌の君の笑顔が見れただけでも役得です、帰ったら自慢させてください」

 何だ、その変な異名は。

「イグニスはお世辞が上手だな」

「まさか、私の本心ですよ」

 出来る男はたらしでもあるんだな。きっとモテることだろう。

「それにしても団長は王女との縁談どうするおつもりなんでしょうね、魔導師長殿も心休まりませんでしょう」

「もう婚姻は決まりだろう?何も困ることはない」

「なんと、そこまで話は決まっていたとは。残念です、私の入る隙は無さそうですね。おめでとうございます」

 若干わざとらしく右手を腹部に添え笑顔で頭を軽く下げた。

 友人の俺に言うのは変じゃないか?

「何故私に祝いの言葉を言うんだ?」

「え?」

「え」

 イグニスはとても驚いて目を見開いて、口を手で覆い心なしか顔色も悪い。

 どうしたんだ、体調が悪いのを我慢していたのか。

「イグニス、体調が悪いなら無理することはない」

「いえっ、体調は問題ありませんよ。それより魔導師長殿、先程婚姻が決まったと言ったのは……」

「王女とリンガルの婚姻だろう?」

 今度は頭を抱えて前屈みで震え出したぞ。やはり具合が悪いのではないか。

 ソファに座るよう言おうとしたところで来訪者のベルが鳴った。

「団長が戻ったようですね」

 一瞬で顔と姿勢を正し、何もなかったように振る舞っている、さすが第二騎士隊のエリートだな。

 イグニスを連れリンガルを迎えに出る。

「異常ありませんでした」

「後は通常勤務に戻ってくれ」

「は」

 敬礼をして背中を向けたイグニスが、一度だけ振り返って肩を揺らしながら去って行った。

 大丈夫だろうか、どこかで休んでくれればいいが。

「ソニアス、宰相から伝言だ」

 ガニュード家の動きが心配だから今から城に来るようにとのことだ。

 必要な物は揃っているからと手ぶらで用意された客間にやって来た。

 通された客間は舞踏会の会場から一番離れていて、やはり囮にされたのではと疑いたくなる。

 とはいえ、部屋は賓客クラスだ、広い応接にはテーブルを囲むように大きなソファーが並び、隣の寝室には天蓋付きの寝台、塔とは大違いの大きな風呂場。調度品も高級な物ばかりだ。

 こんな部屋に泊まれるのなんて二度とないだろう、満喫してやる。

 目を輝かせながらキョロキョロとするソニアスを温かな目で見る男が何故か今日は遠くに立っていた。

 何でそんなに離れてるんだ、と言いかけて恥ずかしくなった。あいつはいつも通り扉の定位置にいる、部屋が広いせいで遠くに感じるだけだ。

「で、俺はどうすればいいんだ」

「今日はこの部屋から出ないでくれ、必要な物があれば手配する。食事もここに運んで貰う、食べたいものがあるなら言ってくれ」

 少し考えて、食事は何でもいいと返事した。

 皿に盛られた菓子はテーブルに置いてあるし、ティーセットもチェストの中にあった。

「せっかくだから広い風呂でも楽しもう、その後ティータイムだ」

 とりあえず今は楽しもうと決めたソニアスだった。


 
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