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僕と妻の話②
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結局そのまま結婚式で一度だけ唇を合わせて、
触れ合いはたったそれだけ。
入居の時に、彼女は今まで自分で使ってだんだろうベッドを持ち込んだ。
彼女の部屋へ飲み込まれていく白いベッドを眺めながら、浮かれていた気持ちが急速に萎んでいくのを感じた。
結婚式でかすかに触れた唇はやわく、伏せられたまつ毛は白い頬に長く影を落として、触れるのが躊躇われるほど美しかった。
香織さんの横に並んで、自分も自室で寝た方がいいかと尋ねたのは、
そんな必要はないと、一室空いている部屋にダブルベッドを置こうと、そう言ってくれるのを期待したからだ。
そんな浅ましい考えは、こちらを見上げた弱々しい笑顔に打ちのめされて、
俺は今まで使っていたベッドはもう処分してしまったため、布団を新調して硬いフローリングに布団を敷いて寝る羽目になった。
新婚の夜、電気を消した自室で、布団に入ると、思い描いていた新婚家庭とのギャップに耐えきれなくて涙が出そうになった。
あの華奢な体を抱いて、柔らかなベッドで寝られると思っていた昨日の夜の方が、まだ幸せだったのかもしれない。
でも、とても彼女の部屋へ訪ねていくような真似は出来なかった。愛おしくて、憎らしくて、悔しくて、
好きで好きでたまらなくて、何でこんなに彼女のことが愛おしいのか、自分でもわからなかった。彼女の立てる生活音にひたすら耳をそば立てた。
翌朝目を覚ますと、体のあちこちが痛くて、リビングからはいい香りが漂っていた。転がるように自室から出てリビングへ向かうと、彼女が朝食を準備してくれていて、長い髪を、そう、彼女は高校生の頃は黒く真っ黒だった髪を明るく染めて、軽くカールさせていた。なんだそれ、天使みたいじゃないか?と何度も思った。長い髪を緩くまとめて、白いエプロンをつけて、俺の方を向いてかすかに笑い、
「おはようございます。朝食、パンがいいかご飯がいいかわからなかったので、パンにしちゃいました。」
と軽く首を傾げた。
陽の当たるリビングで、俺はさっきまで感じていた体の痛みの消し飛ぶのを感じた。
「ああ、頂きます。ありがとう。」
我ながら何で面白みのない返事だろうと思ったけれど、彼女が取ってきてくれたんだろう朝刊がリビングテーブルの上に置いてあるのを見つけて、それを広げてにやける顔を隠した。
その食事はとても美味しくて、彼女はこんなに可愛らしいのに料理も上手なのかと彼女の家族、つまりあのおしゃべりな上司と自慢の奥様なわけだけれど、に感謝した。
「とても美味しいです。お料理、お上手なんですね。」
「お口に合って良かったです。夕飯もおうちで召し上がりますか?」
「負担でなければ。」
食べたいです!とは言えなくて、精一杯落ち着いた人間のふりをした。
それからは、朝食と夕飯の時間が日々の糧となり、それだけを楽しみに日々を暮らしていた。
美しい彼女が自分と生活しているのが、たまに信じられないような気持ちになる。
一人寝の夜は相変わらず寂しかったが、たまに彼女が入浴した後に風呂を勧められたりする幸運をありがたく享受して、その湯に浸かって自慰をした。
触れ合いはたったそれだけ。
入居の時に、彼女は今まで自分で使ってだんだろうベッドを持ち込んだ。
彼女の部屋へ飲み込まれていく白いベッドを眺めながら、浮かれていた気持ちが急速に萎んでいくのを感じた。
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香織さんの横に並んで、自分も自室で寝た方がいいかと尋ねたのは、
そんな必要はないと、一室空いている部屋にダブルベッドを置こうと、そう言ってくれるのを期待したからだ。
そんな浅ましい考えは、こちらを見上げた弱々しい笑顔に打ちのめされて、
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あの華奢な体を抱いて、柔らかなベッドで寝られると思っていた昨日の夜の方が、まだ幸せだったのかもしれない。
でも、とても彼女の部屋へ訪ねていくような真似は出来なかった。愛おしくて、憎らしくて、悔しくて、
好きで好きでたまらなくて、何でこんなに彼女のことが愛おしいのか、自分でもわからなかった。彼女の立てる生活音にひたすら耳をそば立てた。
翌朝目を覚ますと、体のあちこちが痛くて、リビングからはいい香りが漂っていた。転がるように自室から出てリビングへ向かうと、彼女が朝食を準備してくれていて、長い髪を、そう、彼女は高校生の頃は黒く真っ黒だった髪を明るく染めて、軽くカールさせていた。なんだそれ、天使みたいじゃないか?と何度も思った。長い髪を緩くまとめて、白いエプロンをつけて、俺の方を向いてかすかに笑い、
「おはようございます。朝食、パンがいいかご飯がいいかわからなかったので、パンにしちゃいました。」
と軽く首を傾げた。
陽の当たるリビングで、俺はさっきまで感じていた体の痛みの消し飛ぶのを感じた。
「ああ、頂きます。ありがとう。」
我ながら何で面白みのない返事だろうと思ったけれど、彼女が取ってきてくれたんだろう朝刊がリビングテーブルの上に置いてあるのを見つけて、それを広げてにやける顔を隠した。
その食事はとても美味しくて、彼女はこんなに可愛らしいのに料理も上手なのかと彼女の家族、つまりあのおしゃべりな上司と自慢の奥様なわけだけれど、に感謝した。
「とても美味しいです。お料理、お上手なんですね。」
「お口に合って良かったです。夕飯もおうちで召し上がりますか?」
「負担でなければ。」
食べたいです!とは言えなくて、精一杯落ち着いた人間のふりをした。
それからは、朝食と夕飯の時間が日々の糧となり、それだけを楽しみに日々を暮らしていた。
美しい彼女が自分と生活しているのが、たまに信じられないような気持ちになる。
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