恋慕

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私と夫の話④

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夫に抱き締められて、キスされて、可愛いと何度も言われて、私は完全に舞い上がっていたんだと思う。

暖かな夫の腕の中はふわふわと心地よくて、完全に受け入れられたと、繋がりあったと感じた。

だから私は、今日の夜は一緒に眠りたくて、今まで一度も一緒に眠ったことのない彼を一緒に眠りたいと誘った。

すると彼は口澱んで、ベッドがないからとか訳のわからないことを言って私を嗜めた。
もちろんそうしたい、と初めに言ってくれた夫の優しさが逆に痛くて、頬に血が集まって、耳から首にかけて、一気に赤くなるのを感じた。

もう顔を見るのも恥ずかしくて、夕飯の買い物を言い訳に外へ飛び出した。


外の空気は冷たくて、ついさっき蒸気した頬と心が急速に冷やされていくのを感じた。

少し優しくしたくらいで、すぐにその気になってベッドに誘うような女だと思われただろうか。

別に、昼過ぎまでは離婚するつもりでいた相手にどう思われたって構わないのに、思いがけず夫の想いを知ってどうしても割り切れず、さっきの熱が残っていたのか、鼻の奥がつんと痛くなって、目尻から涙がじわりと溢れた。

溢れた涙は頬を伝う前に冷たくなって、近所のスーパーにたどり着く頃には頬がかさかさに乾いていた。

ぼうっと店内を歩き回っていると、ろくに考えもしないで買い物を済ませた。

いつもなら思い悩むメニューも、お店に入ったばかりの扉に貼り付けてあった、寒い日は豚汁!のポップに流されて適当に豚汁にしてしまった。

家に帰りたくなくて、遠回りにマンション横の公園をなんとなしにぐるりとまわっていると、ブランコの横のベンチになんとなく見覚えのある後ろ姿が座っていて、
でもどうしてもそれが誰だか思い出せなかった。

近くに行ってその顔を確認すればわかったのかもしれないが、
知り合いかどうかもわからない人に向かってそんなことをするのも気が咎めたので、私はその男がじっとこちらを見ているのにも気がつかずに渋々家へ戻った。


家へ戻ると、夫が出迎えてくれたが、恥ずかしくて恥ずかしくてろくに顔が見られなくて、

すぐにキッチンで夕食作りにとりかかり、夫とは顔を合わせないようにした。
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