恋慕

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ベッドを選ぶ話

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玄関の閉まる音で目が覚めたんだと思う。飛び起きてリビングに向かうと、カーテンの開けられたリビングに夫の書き置きがあった。

今日は早く出社すること、朝食はいらない、昨日はみっともないところを見せて悪かったという旨が、

丁寧に行儀良く並んだ字で記してあった。

その書き置きを丁寧に畳んでキッチンの引き出しにしまった。

昨夜の残りの豚汁で朝食を済ませると、大学時代ほんの数ヶ月だけしたアルバイトでためた貯金の入っている通帳をその引き出しから取り出して、身支度を整えた。

最寄りの家具屋へ一人で向かう。

ベッド売り場は二階。

一人で選ぶ二人のベッド。

大きさも色も形も何も決まっていない。

腰の低い店員が遠巻きに後をついてくる。

中年の男性店員は、可愛らしい細工のされた木製フレームのベッドをしきりに薦めてくる。

貯金でギリギリ買えるくらいのそのベッドに、決めてしまおうかな、と考えて、もう一押ししてほしい、なんて考えて彼を見る。

彼は期待通りに今なら年末の在庫処分でマットレスが半額になると押してくれて、私はなるべく早く家へ届けてくれるように頼んだ。

付かず離れず着いてきていた店員さんに購入を頼む、夫に比べると小柄な、平凡な様子の男性だった。

鼻の横にイボがあって、印象に残ったのはそれくらいだろうか。

下ろしてきた預金で一括でベッドを買い、配送を頼むのに住所と名前を書き込むと、その様子を彼はじっと見ていた。

その異様な様子にぎくりとして、一度手を止めた。

あんまり見ているので、どうかしましたかと尋ねると、彼はばつが悪そうに苗字が珍しくて、と返した。

そうそう多い苗字ではないが、凝視するほど珍しくはないので、曖昧に笑ってその場を流した。


家具店を後にして、家に着く頃だった。

鞄の中で震えるスマートフォンに表示されたのは見慣れない電話番号。

「はい」

「ああ、私先程ベッドをお買い上げいただいた、担当の谷口というものですが。少々お話ししたいことがありまして────」



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