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甘い食事の話(R18-)

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名前を呼ぶ低い声が、じんと胸の底を焼いた気がしたけど、

それが胸の底なのか腹の奥なのかは分からなかった。


私には経験がないから。


今日の夜とベッドの届く夜に何が起きて自分がどうなってしまうのか、途端に心細くなって、急に実家に帰りたいような、気持ちになった。でも決して嫌じゃない。

オーブンの焼き上がりを告げる電子音が、救いのように聞こえた。


底の見えない暗闇が広がる穴の淵に立っている様な、身の置き場のない心細さがあった。

この身をすべて曝け出して彼に抱かれると言うことが、いまいちどう言うことなのか分からない。

もちろん知識はあるし、夫は初めてではないことも知っている。

彼に触れられるのは心地いい。

セックスがその延長にあるのなら、きっと大丈夫なんだろうと思う。

トレイに鍋敷きを敷いて耐熱皿をオーブンから取り出して重ねると、夫がそれをひょいと取り上げた。

とりわけ用の大きいスプーンを持って、とりわけの皿を二つ用意して彼を追うと、夫は足を開いて座り、私を膝の上に促して、私を抱えるように座らせた。

「食べにくくないですか。」

「香織を抱いて食べられるなら食べやすさなんてどうだっていいんだよ。」

「修司さんて・・・・・・」

「なに?嫌になったかな。」

向かい合って夫の上に跨って夫の顔を両手で包み、そっと唇を合わせた。

「10年放っておかれても嫌いになれなかったのに?意外といちゃいちゃするのが好きなんですねっていいたかったの。」

夫が背中に手を回して、後頭部を押さえ、舌をにゅるりと侵入させて私の歯を飴玉みたいに舐めた。

私はそんなところまで舐めると知らなかったので、自分もそれに倣った。
はるか遠くに煙草の味を感じた。

夫にゆっくりと体を離されて抱えられ、取り分けたグラタンを口に運ばれる。

それを咀嚼して飲み込んでしまうと、次はあなたの番。

こんなに甘い食事があるだなんて知らなくて、

大皿分のグラタンを食べ切ってしまうと、私はすっかり疲れてしまった。

「私、お風呂に入ってきます。」

「うん。君の部屋で待っててもいい?」

「はい·····あの。」

夫は少し屈んで私の顔を覗き、着替えを取りに行く私の手を引いて私の部屋へ向かった。

「なに?どうしたの?」

「あの。私、なにを着て出てきたらいいんですか?」

「んっふふ。可愛い。やっぱり嫌だとか言われると思ったらなんだそれ。」

夫は私を先に部屋へ入れて、口を大きな手で覆って笑った。

「だって・・・・・・分からなくて。」

「うん、ごめんね。なに着ててもいいよ。好きな格好で出ておいで。」

夫は私の頭を撫でながらそう言った。

私はとりあえずいつものゆったりしたワンピース型のパジャマを取り出して部屋を出た。

いつもの5倍は念入りに体を洗って、髪も丁寧にオイルを染み渡らせて髪乾かして、ブラジャーはつけずに部屋へ戻った。

夫はベッドに横になっていて、いつもの自室に夫がいることに胸が少しだけ大きめの音を立てた。

だけど夫がすぐに起き上がって私の指の先を掬うように繋いで手を引いたので、そのかすかな胸の音はすぐに早鐘のように私の身体中でけたたましく鳴り始めた。胸の奥や、頭の中や、喉の奥や、お腹の底で。


「香織。ずっと勇気がでなくてごめんね。俺に下さい。」

「はい。」


手を引かれてベッドに抱えるように座らされて、優しく寝かされると、すぐに夫の手が胸を覆った。

私のそこは信じられないくらいやかましい音を立てていたので、恥ずかしくてぎゅっと目を閉じた。

「香織、緊張してる?すごい音だね。」

「はい。緊張してます。恥ずかしい・・・・・・。」

「嫌だったら、いいんだよ。どっちみち今日は最後まではしないつもりだし、抱き合って寝ようか?」

「あ、そうか・・・・・・ベッド・・・・・・。」

「うん。今日は気持ちいいことだけして寝よう。そもそも俺は、君に離婚を切り出された男だし。」

夫は拗ねたようにそう言って、私を抱き込んでベッドに倒れた。

「あ、ごめんなさい。私・・・・・・。」


実家から帰ってひとりリビングで泣いてたのが、ひどく昔に感じた。


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