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叔父との話

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見慣れた玄関に叔父がいるのが異様で、つい黙り込んでしまって、慌てた妻が弁解するように早口で告げる。

「私が行った家具屋さんにいらしたの。そしたら私の苗字で私の旦那さんが修司さんかもしれないって気がつかれて、それで、一度会いたいってことだったから、ごめんなさい、勝手なことをして。」

「あ、ああ、そうなんだ。叔父さん、久しぶり、どうぞ。」


客用のスリッパを出して叔父を招き入れると、妻は外へ出てベッドを運ぶ誘導へ向かった。


「すまないね、急に。香織さんが君の奥さんなんじゃないかと思ったら、いてもたってもいられなくて、つい電話してしまったんだ。」

「ううん、かまわない、でも、どうして?なつかしかったってだけじゃないんでしょう。」

俺たちの住んでいたアパートから出て行った時は子供だった俺からしたら大きい大人だった叔父を見下ろして問うと、叔父は困ったように笑った。

あのアパートにいる時も、叔母が母を思い出して泣くたびに、こんな風に困った顔をしていた。

「愛子は、元気なのかな・・・・・・もう、その、誰かと・・・・・・。」

「あ、ああ、いや、まだ一人だよ。あのアパートにいる。」

そう答えると、叔父はほっとしたように笑った。
空気がほぐれたところで、ダイニングのテーブルにつくと、すぐに香織が戻ってきて、叔父が黙り込む。

「そうか、連絡なんかしたら、今更かな・・・・・・。」

香織の入れるコーヒーの匂いがリビングに漂い始めたところで、叔父は項垂れたように吐き出した。


「すればいいんじゃない?叔母さんもきっと喜ぶよ。あの人ずっと、叔父さんの荷物も処分できずにいるから。」

「えっ、そ、そうか、捨ててくれてよかったのにな。」

「いやいや、捨てられなかったんでしょう。寂しくて。」

俺が言って叔父がはっと顔を上げるのと、香織がコーヒーとケーキを置くのはほぼ同時だった。

「叔父さま、叔母さまと連絡を取りたくて私にお電話してこられたんでしょう?職場で手に入れた電話番号を使ってしまうくらい。」


「叔父さん、連絡してあげて欲しい。二人が離婚する原因になった俺が言えたことじゃないけど、叔母さんが一人じゃなくなると俺も安心なんだ。」

頼むよ、と俺が頭を下げると、叔父は狼狽えてコーヒーを啜った。

「いや、ちがう、違うよ、修司くんのせいじゃない。君が悪いことなんかひとつもないんだ。

ただ僕が、愛子を支えることができなかったかだけだったんだよ。

君のご両親が亡くなって愛子は心から悲しんで、すっかり人が変わってしまったでしょう。僕たちはあの時まだ結婚したばかりで、これから家庭を作っていこうとしている時で、愛子があんな状態になってしまって、僕はそれまでと同じように明るい将来を思い描けなくなってしまった。だから、一度離れようと話し合って、離れたんだけど、逃げ出した手前連絡するのもアパートに帰るのも躊躇われてね、でも彼女を忘れられなくて、この歳まで一人だ。そしてこのざまだよ。」

「それなら尚更、連絡してあげて。行きにくいなら一緒に行くから。」

いや、それくらいは一人で行かないとな、と叔父はコーヒーを飲み干した。

「修司くんは本当に立派になったね、こんな綺麗な奥さんをもらって、すっかり見違えたよ。いや、今日は本当にありがとう。愛子に連絡するよ。」

「叔父さん、ありがとう。俺も叔母さんが一人でいるのがずっと気がかりだったから、安心した。」

叔父が立ち上がって、香織に頭を下げた。

「またいらして下さいね、今度は叔母さまも一緒に。」

叔父は香織に言われて、そうできたらいいなあ、と目を細めて笑った。

ベッドが寝室に入ったので、場所を決めて欲しいと声がかかって、香織が俺の横に立って腕を絡めた。

「壁につけます?それとも真ん中?」

見上げる香織を心から可愛いと思う。

「真ん中かな、見にいこうか。」

ベッドを設置してもらうと、業者の人間は頭を下げて玄関へ向かった。

香織もお礼を言っている。

「それじゃ、急に悪かったね。ありがとう。」

「叔父さん、またね、気をつけて。」

「またいらしてくださいね!」

香織が畳み掛けるようにそう玄関の扉の外に顔を出して声をあげている。

「こんなこと企んでたの?」

「嫌でした?」

「ううん、安心した、叔母が一人なの、本当に気にかかってたんだ。これで心置きなく自分の家庭に向き合えるかな。」

「はい、おねがいします。」

綻ぶように笑った香織を腕の中に閉じ込めて、ぎゅ、と力を込めると、香織がそろそろと俺の背中に手を回した。

「じゃあ、ベッド使おうか。」

「え、まだ明るいですよ?」

「そうだね、でも10年取り戻さなきゃいけないから、時間は足りないかな。」

俺が笑うと、香織は目尻から頬を染めて俯いた。

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