恋慕

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悲しみに必要なものの話

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叔父が帰って行ってリビングに戻ると、俺はソファに腰を下ろして寄ってきたコロを膝に乗せて思う存分撫でまわしていた。この妻の連れてきた甘えたな猫を、今日はあまり構ってやれないと思ったからだ。


香織がゆっくりと隣に腰を下ろして、俺の膝の上のコロに手を伸ばした。

「いいなあ、修司さんにはこんなに懐いてて。」

「え?香織にはそうでもないっけ?」

「全然ですよ。ね~?コロ、コロはパパが好きなのよね。」

香織が不意に口にしたパパ、というワードに胸がどくんと音を立てた。

「か、香織、そのことなんだけど。」

「え?コロですか?」


きょとんと見上げる顔に笑ってしまった。

「違うよ、俺をパパにしてくれる?」

「あ・・・・・・あの、もう?」

コロを撫でていた手のひらがふと宙に浮いた。

「あ、いや、もちろん今すぐでもいいんだけど、
ごめん、避妊した方がいいのかと思って、うん。」

「あ、やだ、そういう、恥ずかしい。」

香織は宙に浮いていた手のひらで自分の顔を覆った。

「えと、私はずっと、子ども欲しかったので、避妊はいいかなと思うんですけど、修司さんはどうですか?」

耳まで赤くして、俯く首筋を眺めていると、羞恥に汗をかいているのか髪が張り付いている。

その様はやけに色っぽくて、さっき訂正した今すぐじゃない、と言うのをもう訂正したくなってくる。

「俺も欲しいよ。可愛いだろうな、香織に似た子ども。想像するだけでにやけてくるよ。色々勉強しないと。」

見首筋の髪を指で避けると、じっとりと汗ばんでいた。

そこに唇をつけて、コロを床に下ろした。

「やっぱりすぐ欲しいな。駄目?」

尋ねると香織は、びくりと体を揺らしてこちらに顔を向けた。

「えっ!?どっちですか?からかってる?」

「まさか、本気だけど。香織がはずかしがってるのが可愛くてつい。ごめんね。いい?」

「すぐはいやです。シャワー浴びたい。」

そんなのいいじゃないか、すぐベッドを使おうよ、と言いたいところを嫌われたくなくて必死で堪えて、立ち上がって行ってしまった香織を見送って、コロを再び抱き上げる。

「コロ、どうしよう、緊張する・・・・・・。」


ふわふわのコロの長い毛に顔を埋めると、幾分気持ちが落ち着いた。
先にベッドに触るのは違う気がして、さっき香織が入れてくれた冷えたコーヒーを飲み干した。

今日これから仲間外れにされるのをさっしているのか、コロはソワソワとテーブルの下を歩き回っている。

バスルームの折れ戸が開く音がして、カップとソーサーががちゃんと音を立てた。

ひたひた、と香織が近づいてくる気配に耳を澄ませる。

待ち構えているのが気恥ずかしくて、リビングを出た。

「俺も浴びてくるから、待っててね。」

すれ違い様に唇を合わせて、白いガウンをまとって清潔な甘い香りになった妻とすれ違う。

バスルームには妻の甘いシャンプーの香りが満ち満ちていて、ひどく落ち着かなかった。もうすっかり準備のできている自身を見下ろしてため息をひとつ。

ずっと、妻になってからも焦がれていた女の子を今から抱くという現実が、まだ受け入れられていない。

ここ最近知ったやわい体の感触や、甘い体臭や、眠くなると瞬きが多くなること、そんなたわいもないことが頭の中に溢れかえって、どこまで体を洗ったかも分からなくなって、もう一度初めから体を洗った。

すっかり遅くなってしまって、下着だけつけて浴室を出た。

 一緒に寝室に入ろうと、香織を呼ぶと、リビングから駆けて来る。

同じように一緒に寝室に入ろうと待っていてくれたことが嬉しくて、手を伸ばした。

絡められた手のひらの冷たさにぎょっとする。

「緊張してる?手冷たい。」

「はい。どうしよう。私、なんか失敗しちゃうかも。」

失敗するとしたら俺の方だろう、温めるようにその冷たく小さい手を握り込んで、寝室の扉を開いた。

真ん中に設置された白いベッドはやけに生々しくて、隣で香織が息を飲んだのがわかった。

「出来るだけ優しくするから。嫌になったら途中でやめちゃってもいいんだよ。」


香織の顔を覗き込むと、
困ったような途方に暮れたような顔をしていて、ぎくりとした。

「あの、私・・・・・」

ぎゅ、とガウンを握りしめている右手が白くなっていて痛々しい。

「嫌とかじゃなくて、修司さんががっかりしたらどうしよう・・・・・・。なにもできないかも・・・・・・。」

隣で俯いている香織の肩に手をかけて、膝裏を掬って横抱きにすると、間近になった香織の顔はひどく動揺していて、そのままベッドに落とした。

「きゃあ!」

「あっはは、可愛い。何かして欲しいなんて思ってないよ。がっかりするなんてあり得ない。」

そのまま香織に覆い被さって、ガウンを開くと、華やかな上下セットの白い下着を着けている。

「買ったばっかりなんです。結婚する前に用意してたのはサイズが合わなくなっちゃったから・・・・・・」

「待って初夜用に用意してたのがあったってこと?」

「はい、ちゃんと脱毛に通ったりして、用意してたんですこれでも。」

香織に被さったまま頭を抱える。

「もったいなすぎる・・・・・・」

今よりずっと若かったあの頃の香織が、色々覚悟して準備していたかと思うと、胸が締め付けられる思いがした。

「いつかそれも見せて。」

背中に手を回して、白のレースやフリルがたくさんあしらわれたブラジャーのホックを外す。

紐で結ばれたショーツのリボンの結び目もとこうとすると、香織に手を重ねて止められた。

「は、早い、待って。」

「待てない。10年待ったから。」

「あ・・・・・・」

全裸になった香織の体は真っ白で、触れると手のひらにしっとりと馴染んだ。

胸の先を口に含んで柔らかさを楽しんでいると、香織が優しく髪を撫でた。

「赤ちゃんみたい。修司さんかわいい。」

「ん、美味しいよ。」

撫でられていると穏やかな気分になってきて、そろそろと手を下に伸ばした。

「ここに入りたいよ。」

指を裂け目に這わせると、ぬるりと濡れていて、ここ数日指を入り込ませていたそこに中指をゆっくりと埋めた。

「あ、あ・・・・・・」

いつもは浅い場所をかき混ぜるだけだったけど、今日は根元まで埋め込んだ。

「あ、深・・・・・・ああ・・・・・・。」

指の先で上側を擦るようにして、外の敏感に膨れているそこに顔を寄せて舌でくすぐると、中もびくびくとうねり始めた。

「は、修司さん、あっ、私、すぐ、あ」

唇を窄めて軽く吸いながら舌を早く動かすと、

香織はすぐに内腿をぶるぶるとふるわせはじめた。

「は、待って、いく、いっちゃう。」

ちゅう、と強く吸うと、ぎゅ、と中が指を締め付けて達して、脱力した。

とろとろに濡れた指を舐めると、香りが驚愕したように俺の顔を見上げている。

「そんなの舐めないで。」

だってもったいないもん、そう返して、香織の足の間に入った。

「入っていい?」

先走りで濡れている自身の先を指でほぐしたそこにあてがうと、俺の方がびくりとふるえた。

「痛い時言ってね、大丈夫、そんなにもたないよ。」

「あ、修司さん、あ、ああ・・・・・・」

ぐ、と腰を押し込んでいくと割とスムーズに先が入った。

「あと少し、・・・・・・我慢して。」

そんな風に言っておいて、我慢するのは自分の方だ。

「すごく熱い、君の中。」

体中あつくて、やけどしそうなの、と香織はうわごとのように言った。

「あ、あ、修司さん・・・・・・」

「香織、すごいよ。すぐ出そうだ。あ、香織、香織。」

一番奥まで入って、しばらく待つつもりだったのに気持ちが良すぎて達してしまいそうになって慌てて腰をゆする。

「は、香織。好きだよ。可愛い。あ、いく。」

一番奥に大量にかけると、腰が抜けるくらい気持ちが良かった。

「10年分くらい出た・・・・・・」

「ふふ、やだ・・・・・・」
ふにゃ、と笑った香織の顔が信じられないくらい可愛くて、またすぐに硬くなってしまう。

「ねえ、修司さん。」

「うん?」

「出てくるのって拭いていいの?」

「あ、あ~。」

正直見たい、と思ったけど、変態だと引かれそうだ。

「見ていい?傷とか、あるかもしれないし。」

「えっ、ええ~?」

香織は寝転がったまま、わずかに頷いた、ので、有り難くさっきまで入り込んでいたそこを見せてもらった。

かすかに血が滲んで、大量に吐き出した俺のそれがたっぷりと垂れ流れてくるそこはやけにいやらしく、また入り込みたいと強く思った。

「香織、もう一回したい。痛い?」


「ううん、平気、して。」

そう返した香織は聖母のようで、俺は素直に再びそこに入り込んだ。

さっきよりほぐれたその場所は、ぬるぬると柔らかく、腰を譲るたびに大きく卑猥な音を立てた。

「修司さん、あの、10年、他の人としないでいてくれて、私、あっ、すごくうれしかったんです。」

家に帰れば大好きな妻がいるのに、外で他の女を抱こうなんて考えたこともなかった。

そんなことより、妻の隣の部屋で妻の気配を感じながら自慰をする方が俺にはよかったのだ。

「他の女なんて、欲しくもなかったよ。10年我慢したご褒美がこれなら、俺はめちゃくちゃしあわせ。」

俺は妻を抱きしめながら再び奥で達して、香織はまた溢れたそれを拭き取っていた。

「修司さん、電話鳴ってませんか?」

「そう?見てくる」

リビングに放置されていたスマホを取りに寝室へ行くと、濃密な昼下がりの空気が一掃された。

まだリビングに残っているコーヒーとケーキの甘い香り。

電話は確かに鳴っていた。叔母からだった。

「叔父さん早すぎない?」

俺のところに来たものの気持ちは決まっていて、あと一押しがほしかっただけだろうな、と思う。

コールバックすると、すぐに叔母が出た。

「修司?元気なの?」

「元気だよ。香織も元気。叔父さんがきたんでしょ?」

「なんで知ってるの・・・・・・」


それはひみつ、と笑うと、叔母も声を立てて笑った。

母が死んでから、10数年ぶりに聞く叔母の笑い声だった。

やはり悲しみに必要なのは同じように悲しむ家族より、恋慕う人間からの愛情なんだな、と安心した。

これからは、お互い穏やかに、幸せな日々を過ごして行けたらと思う。たまに両親の思い出話しをしながら。

これから増えていくんであろう自分の家族と、改めて家庭を作るんであろう叔母のことを考えると、どうしようもなく母に見てもらいたくなった。いつか全員で墓参りに行って、あの山にドライブに行きたい、そんなことを考えながら、寝室でそわそわと待っているだろう妻の元へ戻った。そこにはまだ濃密な空気が満ち満ちていて、春にはまだ遠い外の空気とそれを交換した。


「修司さん、私、修司さんに恋してよかったな。」

シーツに包まってそうこぼした香織は夢のように可愛くて、頭がくらくらした。それはこっちの台詞なんだけどな。




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山も谷もない平坦な話を最後までお読みいただいてありがとうございました!大感謝です!!(よる)
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