38 / 76
38・噂
しおりを挟む
「でも私、ただのメイドだよ」
「……ただのメイド?」
「うん」
「あの魔術の機転と実力と洞察力を兼ね備えた師匠が、ただのメイド?」
「ほら見て。私が着ているの、皇城支給のメイド服だよ」
「魔術師ベルタをはじめ、大魔術師は被服にこだわりが強いという定説があります。師匠に似合いすぎているメイド服も、いわゆる自分好みのコスプレの一種かと」
う、否定できない……。
確かにディルの許可は取ったけど、別にこのメイド服を着ることは義務付けられていないし。
私が気に入って、そのまま着ているだけというか。
皇城を巡っているあいだに、他にも試したい制服をいろいろ見つけたというか……。
イザベラは両手を軽く上げて、ゆったりサイズだとしても大きすぎる袖を交互に見た。
「私は最小サイズの魔術衣ですらぶかぶかで、自分でも似合っていないのがわかるんです。制服だから諦めて着ますけど……。師匠くらいの大魔術師なら、似合っていればなんでも着るんだろうと思っていました」
そういえば三百歳越えでも、ベルタさんはセクシーから乙女チックまで、色々な魔術衣をクローゼットにしまっている。
しかも似合っていた。
妙に納得していると、イザベラは気落ちしたように目を伏せる。
「それに少し会っただけでもわかるくらい、師匠は私にやさしいので。まさかメイドだとは……」
おや。
「もしかしてイザベラはメイドが嫌いなの?」
何気なく聞くと、イザベラのつり目がさらにつり上がった。
「嫌っているのはあっちです。だって……っ!」
イザベラが私の背後に視線を止める。
私の後ろを数人が横切った。
近くにある大きめのテーブルに、休憩に入ったらしいメイドたちが和気あいあいとやってくる。
それからみんなでメニューを注文して、楽しげに話しはじめた。
「それでね、あまりにも白猫ちゃんの人気がすごすぎたから、陛下がもう人前には出さないんだって」
「えっ! 魔帝陛下って猫好きだったの!?」
「意外だけどそうなのかもね。ヴァレリーちゃんは眼福だったって、あの気の合わない騎士と文官が一緒になって騒いでいたし」
「私も見たかったなぁ、ニャーンって鳴くんでしょ?」
「それが違うらしくて、すっごく不器用な……。たどたどしくて、ぎこちなくて、どうしてそんなへたっぴな鳴き方しかできないの? って思うくらいかわいいらしいよ」
「聞きたかったなぁ」
「聞きたいねー」
に……っ、危ない。
そこまで喜んでもらえると、つい猫の鳴き声で返事をしかける自分がいた。
でも私の鳴き方はオンリーワンのようなので、身バレを防ぐためにも出かけた鳴き声はぐっと飲み込む。
だけど珍しいな。
メイドさんの中で一人だけ、スカートではない人がいた。
年齢は私と同じくらい。
穏やかそうな顔立ちをした金髪の男の人が、私たちに気づいて視線を向ける。
その男性メイドはイザベラに目を留めると、ひどく傷つけられたかのように顔を歪めた。
でもそれは一瞬のことで、イザベラと目が合うと眉間を寄せて険しい表情になる。
それはイザベラも同じで、ふたりは「ふんっ」とでも聞こえてくるような態度で顔をそらした。
気が合わないのかな……?
でも息はぴったりだから、合っているのかもしれないけど。
私はイザベラに顔を寄せて、こそこそ聞く。
「あのメイドの男の人と、知り合いなの?」
「べっ、別に! 皇城魔術師になりたてだった私が魔術衣の裾をふんで転んだとき、ヨルクは医務室まで運んでくれただけで……」
「ヨルクさんっていうんだ。親切な人だね」
「はい、すごく! そのあと『また転んだら危ないから』って裁縫道具を持ってきて、私の魔術衣の裾を詰めてくれたんです。他にも図書館の高いところにある魔術書を取ってくれたり、作り過ぎたからってカレーをおすそ分けしてくれたり」
「仲いいんだね」
「……ただのメイド?」
「うん」
「あの魔術の機転と実力と洞察力を兼ね備えた師匠が、ただのメイド?」
「ほら見て。私が着ているの、皇城支給のメイド服だよ」
「魔術師ベルタをはじめ、大魔術師は被服にこだわりが強いという定説があります。師匠に似合いすぎているメイド服も、いわゆる自分好みのコスプレの一種かと」
う、否定できない……。
確かにディルの許可は取ったけど、別にこのメイド服を着ることは義務付けられていないし。
私が気に入って、そのまま着ているだけというか。
皇城を巡っているあいだに、他にも試したい制服をいろいろ見つけたというか……。
イザベラは両手を軽く上げて、ゆったりサイズだとしても大きすぎる袖を交互に見た。
「私は最小サイズの魔術衣ですらぶかぶかで、自分でも似合っていないのがわかるんです。制服だから諦めて着ますけど……。師匠くらいの大魔術師なら、似合っていればなんでも着るんだろうと思っていました」
そういえば三百歳越えでも、ベルタさんはセクシーから乙女チックまで、色々な魔術衣をクローゼットにしまっている。
しかも似合っていた。
妙に納得していると、イザベラは気落ちしたように目を伏せる。
「それに少し会っただけでもわかるくらい、師匠は私にやさしいので。まさかメイドだとは……」
おや。
「もしかしてイザベラはメイドが嫌いなの?」
何気なく聞くと、イザベラのつり目がさらにつり上がった。
「嫌っているのはあっちです。だって……っ!」
イザベラが私の背後に視線を止める。
私の後ろを数人が横切った。
近くにある大きめのテーブルに、休憩に入ったらしいメイドたちが和気あいあいとやってくる。
それからみんなでメニューを注文して、楽しげに話しはじめた。
「それでね、あまりにも白猫ちゃんの人気がすごすぎたから、陛下がもう人前には出さないんだって」
「えっ! 魔帝陛下って猫好きだったの!?」
「意外だけどそうなのかもね。ヴァレリーちゃんは眼福だったって、あの気の合わない騎士と文官が一緒になって騒いでいたし」
「私も見たかったなぁ、ニャーンって鳴くんでしょ?」
「それが違うらしくて、すっごく不器用な……。たどたどしくて、ぎこちなくて、どうしてそんなへたっぴな鳴き方しかできないの? って思うくらいかわいいらしいよ」
「聞きたかったなぁ」
「聞きたいねー」
に……っ、危ない。
そこまで喜んでもらえると、つい猫の鳴き声で返事をしかける自分がいた。
でも私の鳴き方はオンリーワンのようなので、身バレを防ぐためにも出かけた鳴き声はぐっと飲み込む。
だけど珍しいな。
メイドさんの中で一人だけ、スカートではない人がいた。
年齢は私と同じくらい。
穏やかそうな顔立ちをした金髪の男の人が、私たちに気づいて視線を向ける。
その男性メイドはイザベラに目を留めると、ひどく傷つけられたかのように顔を歪めた。
でもそれは一瞬のことで、イザベラと目が合うと眉間を寄せて険しい表情になる。
それはイザベラも同じで、ふたりは「ふんっ」とでも聞こえてくるような態度で顔をそらした。
気が合わないのかな……?
でも息はぴったりだから、合っているのかもしれないけど。
私はイザベラに顔を寄せて、こそこそ聞く。
「あのメイドの男の人と、知り合いなの?」
「べっ、別に! 皇城魔術師になりたてだった私が魔術衣の裾をふんで転んだとき、ヨルクは医務室まで運んでくれただけで……」
「ヨルクさんっていうんだ。親切な人だね」
「はい、すごく! そのあと『また転んだら危ないから』って裁縫道具を持ってきて、私の魔術衣の裾を詰めてくれたんです。他にも図書館の高いところにある魔術書を取ってくれたり、作り過ぎたからってカレーをおすそ分けしてくれたり」
「仲いいんだね」
3
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました
九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる