【完結】白猫聖女は従僕魔帝の腕の中~婚約破棄された前世悪役令嬢が、冷酷魔帝陛下から溺愛されているワケ~

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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38・噂

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「でも私、ただのメイドだよ」

「……ただのメイド?」

「うん」

「あの魔術の機転と実力と洞察力を兼ね備えた師匠が、ただのメイド?」

「ほら見て。私が着ているの、皇城支給のメイド服だよ」

「魔術師ベルタをはじめ、大魔術師は被服にこだわりが強いという定説があります。師匠に似合いすぎているメイド服も、いわゆる自分好みのコスプレの一種かと」

 う、否定できない……。

 確かにディルの許可は取ったけど、別にこのメイド服を着ることは義務付けられていないし。

 私が気に入って、そのまま着ているだけというか。

 皇城を巡っているあいだに、他にも試したい制服をいろいろ見つけたというか……。

 イザベラは両手を軽く上げて、ゆったりサイズだとしても大きすぎる袖を交互に見た。

「私は最小サイズの魔術衣ですらぶかぶかで、自分でも似合っていないのがわかるんです。制服だから諦めて着ますけど……。師匠くらいの大魔術師なら、似合っていればなんでも着るんだろうと思っていました」

 そういえば三百歳越えでも、ベルタさんはセクシーから乙女チックまで、色々な魔術衣をクローゼットにしまっている。

 しかも似合っていた。

 妙に納得していると、イザベラは気落ちしたように目を伏せる。

「それに少し会っただけでもわかるくらい、師匠は私にやさしいので。まさかメイドだとは……」

 おや。

「もしかしてイザベラはメイドが嫌いなの?」

 何気なく聞くと、イザベラのつり目がさらにつり上がった。

「嫌っているのはあっちです。だって……っ!」

 イザベラが私の背後に視線を止める。

 私の後ろを数人が横切った。

 近くにある大きめのテーブルに、休憩に入ったらしいメイドたちが和気あいあいとやってくる。

 それからみんなでメニューを注文して、楽しげに話しはじめた。

「それでね、あまりにも白猫ちゃんの人気がすごすぎたから、陛下がもう人前には出さないんだって」

「えっ! 魔帝陛下って猫好きだったの!?」

「意外だけどそうなのかもね。ヴァレリーちゃんは眼福だったって、あの気の合わない騎士と文官が一緒になって騒いでいたし」

「私も見たかったなぁ、ニャーンって鳴くんでしょ?」

「それが違うらしくて、すっごく不器用な……。たどたどしくて、ぎこちなくて、どうしてそんなへたっぴな鳴き方しかできないの? って思うくらいかわいいらしいよ」

「聞きたかったなぁ」

「聞きたいねー」

 に……っ、危ない。

 そこまで喜んでもらえると、つい猫の鳴き声で返事をしかける自分がいた。

 でも私の鳴き方はオンリーワンのようなので、身バレを防ぐためにも出かけた鳴き声はぐっと飲み込む。

 だけど珍しいな。

 メイドさんの中で一人だけ、スカートではない人がいた。

 年齢は私と同じくらい。

 穏やかそうな顔立ちをした金髪の男の人が、私たちに気づいて視線を向ける。

 その男性メイドはイザベラに目を留めると、ひどく傷つけられたかのように顔を歪めた。

 でもそれは一瞬のことで、イザベラと目が合うと眉間を寄せて険しい表情になる。

 それはイザベラも同じで、ふたりは「ふんっ」とでも聞こえてくるような態度で顔をそらした。

 気が合わないのかな……? 

 でも息はぴったりだから、合っているのかもしれないけど。

 私はイザベラに顔を寄せて、こそこそ聞く。

「あのメイドの男の人と、知り合いなの?」

「べっ、別に! 皇城魔術師になりたてだった私が魔術衣の裾をふんで転んだとき、ヨルクは医務室まで運んでくれただけで……」

「ヨルクさんっていうんだ。親切な人だね」

「はい、すごく! そのあと『また転んだら危ないから』って裁縫道具を持ってきて、私の魔術衣の裾を詰めてくれたんです。他にも図書館の高いところにある魔術書を取ってくれたり、作り過ぎたからってカレーをおすそ分けしてくれたり」

「仲いいんだね」




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