55 / 76
55・私の知っている陛下
しおりを挟む
「……」
「陛下、なにをためらうことがあるのです?」
そうは言っても、私も彼の葛藤には気づいています。
陛下は幼いころから、自分とは別の意志に突き動かされるように、武術も魔術も貪欲に身につけていたそうです。
そしてその才能と努力で得た力を先帝、彼の実の父に目を付けられ、利用されていました。
陛下の美しくも病弱だった母親が、他界していたこともあるのでしょう。
幼いというのに保護されるどころか、父の命で過酷な戦地へ送り込まれては勝利を収めていたようです。
陛下は父と帝国のために尽くしつつ、強さをいっそう増していきます。
彼を利用していたはずの先帝は、息子を恐れるようになりました。
そして拘束魔術で縛られていた陛下は、父親に命を狙われながらも利用されるという、理不尽な身の上を受け入れるしかなかったようです。
しかしそれは侵略で国を疲弊させた先帝に対する民の不満が高まり、私の父によって先帝が暗殺されたことで終わりました。
そして若きディルベルト陛下が帝国を治めるようになると、ラグガレド帝国は今までにない豊かさと平和の共存する国へと生まれ変わっていったのです。
陛下は気づいていないようですが、自分の力を暴力に使うことなど望んでいなかったのでしょう。
私はそんな陛下に仕えていることを誇りに思っていましたが、ずっと気がかりでした。
陛下はひとりでいるときが一番安らいだ顔をしている、そんな孤独な方だったのですから。
しかしレナ嬢が来てから、私はどれほど驚いたか。
陛下もレナ嬢と関わっていくうちに、今まで与えられたことのない、見知らぬ感情に戸惑っているのだと思います。
私はそれを考察した結果、あるひとつの見解に行き着きました。
「陛下、彼女にめろめろですよね?」
「以前から思っていたが、ハーロルトの言葉選びは少々癖が強すぎるのではないか」
「陛下の想いを私に隠すことはありません。レナ嬢との出会いは喜ばしいことなのですから!」
「俺にとってはそうだが。しかしレナにとって、今はそのときではないのだと思う」
ということは……相当アタックしているのに玉砕しているということですか?
レナ嬢は魔帝ですら破れない、精神的魔術防壁を発現させているのでしょうか。
私には、彼女が陛下のことを慕っているとしか思えませんでしたが……。
「陛下、恐れ多くも確認せずにはいられないのですが、現時点ではレナ嬢から、その……嫌われているようなのですか?」
「いや、それはない。レナは迷うことなく本心から、俺のことを想ってくれているのだろう。俺は理由もわからず、ただ力を得ることに憑りつかれている自分に不快感しかないというのに。それすらも受け入れて、偽りのない心でそばにいてくれる」
つい目頭が熱くなり、私はハンカチを取り出しました。
私は陛下をそこまで想ってくださる方が現れて、本当に嬉しいです。
嬉しいのですが……。
「そこまで想い合っているというのに、なぜ『陛下おめでとう大作戦』を承諾してくださらないのですか?」
「陛下、なにをためらうことがあるのです?」
そうは言っても、私も彼の葛藤には気づいています。
陛下は幼いころから、自分とは別の意志に突き動かされるように、武術も魔術も貪欲に身につけていたそうです。
そしてその才能と努力で得た力を先帝、彼の実の父に目を付けられ、利用されていました。
陛下の美しくも病弱だった母親が、他界していたこともあるのでしょう。
幼いというのに保護されるどころか、父の命で過酷な戦地へ送り込まれては勝利を収めていたようです。
陛下は父と帝国のために尽くしつつ、強さをいっそう増していきます。
彼を利用していたはずの先帝は、息子を恐れるようになりました。
そして拘束魔術で縛られていた陛下は、父親に命を狙われながらも利用されるという、理不尽な身の上を受け入れるしかなかったようです。
しかしそれは侵略で国を疲弊させた先帝に対する民の不満が高まり、私の父によって先帝が暗殺されたことで終わりました。
そして若きディルベルト陛下が帝国を治めるようになると、ラグガレド帝国は今までにない豊かさと平和の共存する国へと生まれ変わっていったのです。
陛下は気づいていないようですが、自分の力を暴力に使うことなど望んでいなかったのでしょう。
私はそんな陛下に仕えていることを誇りに思っていましたが、ずっと気がかりでした。
陛下はひとりでいるときが一番安らいだ顔をしている、そんな孤独な方だったのですから。
しかしレナ嬢が来てから、私はどれほど驚いたか。
陛下もレナ嬢と関わっていくうちに、今まで与えられたことのない、見知らぬ感情に戸惑っているのだと思います。
私はそれを考察した結果、あるひとつの見解に行き着きました。
「陛下、彼女にめろめろですよね?」
「以前から思っていたが、ハーロルトの言葉選びは少々癖が強すぎるのではないか」
「陛下の想いを私に隠すことはありません。レナ嬢との出会いは喜ばしいことなのですから!」
「俺にとってはそうだが。しかしレナにとって、今はそのときではないのだと思う」
ということは……相当アタックしているのに玉砕しているということですか?
レナ嬢は魔帝ですら破れない、精神的魔術防壁を発現させているのでしょうか。
私には、彼女が陛下のことを慕っているとしか思えませんでしたが……。
「陛下、恐れ多くも確認せずにはいられないのですが、現時点ではレナ嬢から、その……嫌われているようなのですか?」
「いや、それはない。レナは迷うことなく本心から、俺のことを想ってくれているのだろう。俺は理由もわからず、ただ力を得ることに憑りつかれている自分に不快感しかないというのに。それすらも受け入れて、偽りのない心でそばにいてくれる」
つい目頭が熱くなり、私はハンカチを取り出しました。
私は陛下をそこまで想ってくださる方が現れて、本当に嬉しいです。
嬉しいのですが……。
「そこまで想い合っているというのに、なぜ『陛下おめでとう大作戦』を承諾してくださらないのですか?」
4
あなたにおすすめの小説
【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました
九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
追放された伯爵令嬢は、辺境の竜騎士様に拾われて愛されすぎています ~あの時見下した婚約者たち、今さら後悔してももう遅い~
exdonuts
恋愛
婚約者に裏切られ、王都を追われた伯爵令嬢リリシア。
絶望の旅路で出会ったのは、無口な辺境の竜騎士・カイル――彼は冷たく見えて、誰よりも優しかった。
王都で笑っていた者たちが、彼女の輝きに気づくのはずっと後のこと。
元婚約者よ、あの時の侮辱を今も覚えている? でも、もう私の隣には最強の竜騎士がいるの。
ざまぁと溺愛が交錯する、甘くて痛快な逆転劇。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる