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2章

13・こんな風に感じたのは初めてです

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 数日も経つと、エレファナは来たころよりずっと体力を取り戻していた。

「奥さま、よくがんばっていましたね。今日の食事はこちらでしてみましょう」

 侍女のポリーはエレファナが元気になろうと健気に努力してきたのを間近で見ていたため、嬉しそうに寝室の隣部屋に食卓の用意をしてくれた。

 そうしてエレファナの目の前に並べられた食事は、二人分ある。

(おそろいの食事です)

 わくわくして席に着く向かいでは、硬質な漆黒の髪と、磨かれたような銀の瞳を持つ美しい青年がエレファナを見つめていた。

(今日はセルディさまと一緒ですから!)

「ずいぶん顔色が良くなってきたな」

「はい。セルディさまに言われた通り、よく飲みました。たくさん食べました。早く寝ました!」

 しかし二百年もの間、結界を張り続けたエレファナの身体はまだ痩せ細っている。

 それでもセルディは、ここまで回復したことにほっとしているようだった。

「俺に遠慮せず、好きなものを食べるといい」

 そう告げて白パンを取ると、エレファナもつられるように自分の白パンに手を伸ばす。

 そして無意識なのか、セルディと同じものを、同じペースで一生懸命頬張っていた。

「……?」

 怪訝な顔をしているセルディに、背後に控えていた家令のバートが小さく耳打ちした。

「ここは親鳥として……いえ、夫としての手本が必要かと」

「なるほど」

 魔獣の襲撃に備えながらの食事に慣れているセルディは、次々と運んでいた次のひと口を止めると、貴人のお手本のような優雅さで咀嚼し始める。

 それにならい、自然と食べる速度や食べ方が変わったエレファナを見て、後ろに控えているポリーが微笑した。

「奥さま、よく味わってくださっているようですね。お口に合いましたか?」

「はい! この白パン、セルディさまが食べていたのでおいしそうに見えたのですが、やっぱりおいしいです。ぽてっと丸い見た目を裏切らず、もっちりとした不思議な食感で、噛むたびだんだん甘くなっていきます」

「ええ。よく噛むことで栄養が吸収しやすく、消化の負担も少なくなるんですよ。セルディさま、色々なものを食べてくださいね」

「わかっている」

 エレファナとセルディは、ゆったりとした美しい所作で食事を楽しんでいった。

 具だくさんのトマトのスープは、様々な野菜の味が複雑なうまみとなって溶けこんでいる。

 一緒に煮込まれた鶏肉は驚くほど柔らかで、噛むたびに口の中で肉汁を溢れさせながら、ほろほろとほどけるようだった。

 なめらかなヨーグルトは、セルディにならって蜜色に輝くはちみつをたっぷりかけて食べると、花のような風味でとても甘い。

 濃厚な味わいながらも、ヨーグルトの酸味が爽やかなため、口当たりはさっぱりとして食べやすかった。

 鮮やかなふわふわのオムレツも、色とりどりの新鮮なフルーツも、セルディが食べると一番おいしそうに見えて、エレファナは少しずつ用意されたそれらを味わっていく。

「嫌いな食べ物はあるのか?」

「わかりませんが、食べ物を残したことはありません。でもここに出されている品々はそれぞれ違うのに、全部おいしいですね」

(ごちそうを食べたこともありますが、こんな風に感じたのは初めてです。なにが違うのでしょうか?)

 エレファナは自分の向かいで、時折早く食べそうになりながらも、意識的に速度を落としている綺麗な顔立ちの青年を見つめた。


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