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2章
21・旦那さまの笑顔はほかほかします
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「しかし昨夜は寝る時間が遅すぎた。今はようやくぐっすり寝ているのだから、無理に起こさなくてもいいだろう」
「そんなことをしていれば、寝る時間がどんどん遅くなっていきます。せっかくの早寝早起きの習慣が台無しになってしまうのです。奥さまのためですから、ここは譲れません」
「もちろん俺もエレファナのためだから言っている。無理に起こす方が不自然で身体に悪いだろう。それでもし体調を崩して風邪でも引いたら、エレファナが苦しむことになるんだ」
二人は鋭い眼差しを交わし合うと、健やかな生活についての持論を廊下で白熱させる。
それは通りがかったバートが「今日はみなさんそろって、朝食を抜くんですか?」と声をかけるまで続いた。
セルディとポリーは意外と時間が経過していることに気づき、『朝食が遅くなりすぎるのはエレファナにとって良くない』と、そろそろ起こすことで話はまとまる。
「しかしエレファナが寝付けないことは、放っておいてもいいのだろうか」
セルディが呟くと、ポリーも思い当たることがあるのか、気づかわしげに声をひそめた。
「確かに奥さまは、ここ数日寝つきが良くないようです。見た限りは元気そうに見えますけれど……一体どうしたのでしょうね」
「そうだな……。体ではなく気持ちの問題であれば、気晴らしでもできるといいのかもしれないが」
何気なく呟いたセルディの一言に、ポリーははっとしたように声を上げた。
「なるほど、それです! セルディさま、そのことでしたらご安心ください。ちょうど良いことに、申しつけられていた日取りが取れたと、バートから返事をもらえたところです」
ポリーの言葉に思い当たり、セルディの顔も明るくなる。
「ああ、そうか。エレファナは静養中のため、毎日同じことの繰り返しだったからな。いい気晴らしになるかもしれない」
「ええ、ええ。その通りですとも。奥さまもきっと、お楽しみいただけると思いますよ!」
***
「奥さ……いえ、エレファナさま。とってもお似合いですよ!」
侍女のポリーが珍しく、はしゃぐように声を上げていた。
視線の先には、いつもより華やかなドレスを身につけたエレファナが鏡の前に立っている。
そこは城の敷地にある、離れの別館だった。
普段は使われていないその建物の一室が、今は衣装部屋のようになっていて、クローゼットには色とりどりの試着用のドレス、テーブルには煌びやかな宝飾箱が所狭しと並べられている。
他にも服飾の生地やデザインの見本、社交用や普段着、ナイトドレスや収納袋にしまわれている下着に至るまで、部屋中に様々な品が運び込まれていた。
それはバートから紹介されてやって来た服飾屋の女性、カミラが持参した物だ。
カミラについてバートからは「セルディさまや母とも面識がありますし、この城に住む奥さまの素性について質問や詮索をしない信頼できる人物です。ただ愛想があまり……いえ全然ないので。彼女の態度は気にせず、母と一緒に好きなものを見繕ったほうがいいですよ」と聞かされている。
実際、褐色の髪をした小柄なカミラは、ほぼ無表情で現れた。
迎えたポリーもいつもよりぎこちない様子で最低限の挨拶だけ交わすと、逃げるようにエレファナと向き合う。
「奥さ……いえ、」
セルディからは「例えカミラが信頼できる人物だとしても、無暗に恐れさせたり偶発的に存在が漏れることを避けるため、俺の妻だと明言はしないように」と言い含められているので、ポリーは言い直して続ける。
「エレファナさま、カミラさんはお忙しい中、今日は私たちのためにいらしてくれました。選ぶものはたくさんありますし、早速ですがどんどん見ていきましょう」
「わかりました」
エレファナは朝食のときにセルディから『これからエレファナが自分で使うものだから、ポリーと相談して気に入ったものを見つけておいてくれるか?』と、どこか楽しそうな口ぶりで頼まれていた。
(近ごろのセルディさまはなんだか元気が無さそうです。でも今朝は違いました。『エレファナも少し気晴らしをすれば、ぐっすり眠れるかもしれないな』と、顔つきが明るかったのですから! 私が上手に選べたら、また笑ってくれるでしょうか。ここはぜひ、セルディさまが喜んでくれるものを選びたいと思います!!)
エレファナは時折見ることのできる、セルディのふとした笑顔を思い出すと、なんだか胸の奥がほかほかしてくる。
(セルディさまは私に好きなことをして過ごして欲しいと言ってくれました。上手くできるかわかりませんが、今日は自分の好きなことをして過ごしたいと思います!)
エレファナは決意を新たにして、取りそろえられた上質な品々を見回しているうちに、ふと気づいた。
「そんなことをしていれば、寝る時間がどんどん遅くなっていきます。せっかくの早寝早起きの習慣が台無しになってしまうのです。奥さまのためですから、ここは譲れません」
「もちろん俺もエレファナのためだから言っている。無理に起こす方が不自然で身体に悪いだろう。それでもし体調を崩して風邪でも引いたら、エレファナが苦しむことになるんだ」
二人は鋭い眼差しを交わし合うと、健やかな生活についての持論を廊下で白熱させる。
それは通りがかったバートが「今日はみなさんそろって、朝食を抜くんですか?」と声をかけるまで続いた。
セルディとポリーは意外と時間が経過していることに気づき、『朝食が遅くなりすぎるのはエレファナにとって良くない』と、そろそろ起こすことで話はまとまる。
「しかしエレファナが寝付けないことは、放っておいてもいいのだろうか」
セルディが呟くと、ポリーも思い当たることがあるのか、気づかわしげに声をひそめた。
「確かに奥さまは、ここ数日寝つきが良くないようです。見た限りは元気そうに見えますけれど……一体どうしたのでしょうね」
「そうだな……。体ではなく気持ちの問題であれば、気晴らしでもできるといいのかもしれないが」
何気なく呟いたセルディの一言に、ポリーははっとしたように声を上げた。
「なるほど、それです! セルディさま、そのことでしたらご安心ください。ちょうど良いことに、申しつけられていた日取りが取れたと、バートから返事をもらえたところです」
ポリーの言葉に思い当たり、セルディの顔も明るくなる。
「ああ、そうか。エレファナは静養中のため、毎日同じことの繰り返しだったからな。いい気晴らしになるかもしれない」
「ええ、ええ。その通りですとも。奥さまもきっと、お楽しみいただけると思いますよ!」
***
「奥さ……いえ、エレファナさま。とってもお似合いですよ!」
侍女のポリーが珍しく、はしゃぐように声を上げていた。
視線の先には、いつもより華やかなドレスを身につけたエレファナが鏡の前に立っている。
そこは城の敷地にある、離れの別館だった。
普段は使われていないその建物の一室が、今は衣装部屋のようになっていて、クローゼットには色とりどりの試着用のドレス、テーブルには煌びやかな宝飾箱が所狭しと並べられている。
他にも服飾の生地やデザインの見本、社交用や普段着、ナイトドレスや収納袋にしまわれている下着に至るまで、部屋中に様々な品が運び込まれていた。
それはバートから紹介されてやって来た服飾屋の女性、カミラが持参した物だ。
カミラについてバートからは「セルディさまや母とも面識がありますし、この城に住む奥さまの素性について質問や詮索をしない信頼できる人物です。ただ愛想があまり……いえ全然ないので。彼女の態度は気にせず、母と一緒に好きなものを見繕ったほうがいいですよ」と聞かされている。
実際、褐色の髪をした小柄なカミラは、ほぼ無表情で現れた。
迎えたポリーもいつもよりぎこちない様子で最低限の挨拶だけ交わすと、逃げるようにエレファナと向き合う。
「奥さ……いえ、」
セルディからは「例えカミラが信頼できる人物だとしても、無暗に恐れさせたり偶発的に存在が漏れることを避けるため、俺の妻だと明言はしないように」と言い含められているので、ポリーは言い直して続ける。
「エレファナさま、カミラさんはお忙しい中、今日は私たちのためにいらしてくれました。選ぶものはたくさんありますし、早速ですがどんどん見ていきましょう」
「わかりました」
エレファナは朝食のときにセルディから『これからエレファナが自分で使うものだから、ポリーと相談して気に入ったものを見つけておいてくれるか?』と、どこか楽しそうな口ぶりで頼まれていた。
(近ごろのセルディさまはなんだか元気が無さそうです。でも今朝は違いました。『エレファナも少し気晴らしをすれば、ぐっすり眠れるかもしれないな』と、顔つきが明るかったのですから! 私が上手に選べたら、また笑ってくれるでしょうか。ここはぜひ、セルディさまが喜んでくれるものを選びたいと思います!!)
エレファナは時折見ることのできる、セルディのふとした笑顔を思い出すと、なんだか胸の奥がほかほかしてくる。
(セルディさまは私に好きなことをして過ごして欲しいと言ってくれました。上手くできるかわかりませんが、今日は自分の好きなことをして過ごしたいと思います!)
エレファナは決意を新たにして、取りそろえられた上質な品々を見回しているうちに、ふと気づいた。
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