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6・父と少女
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赤い短髪の男が現れる。
セレルよりずっと年上に見えるが、若々しく引き締まった身体によく似合う、風通しの良い素材でできた、動きやすそうな格好をしていた。
「成功だ! 女神がいる!」
張りのある大声に驚き、セレルはロラッドの手を振り払って硬直した。
セレルが明らかに動揺していても、赤髪の男は気にしていないのか、満面の笑みを浮かべると、昼寝を邪魔されてぼんやりとしているロラッドに詰めよる。
「こんにちは! 一応確認させてください……あなた、実りの女神様ですよね!」
期待に満ちた男のまなざしに、ロラッドは動じることもなく一瞥する。
「違うだろ」
「えっ! そういえば確かに……ちょっとでかくて血まみれな気もするけど……その神々しい美しさ! 正直に言ってください、女神様!」
「だから違う」
「そ、そんなはずは……」
男は視線をさまよわせると、ロラッドから、セレルに向き直った。
「ん。じゃあちょっと血色悪いけど、あんたが女神なのか?」
「私、女神の血は入ってないはずだけど」
「そんなことはないだろ。あんたらのどっちかが、ミリムの召喚術で呼び出された、おいしい食べ物を授けてくれる実りの女神のはずだ!」
赤髪の男は必死な様子で、手に持っている分厚い絵本を見せてくれる。
表題には、『スライムでもできる! 初心者にもわかりやすい、召喚術絵本!』とある。
のんきにあくびをするロラッドの横で、セレルは言いづらそうに口を開いた。
「申し訳ないんだけど、違うよ」
「そ……そんな! そんなわけが……!」
膝をつき、取り乱している赤髪の男の後ろで、扉が動く。
「父上、落ち着いてください」
静かに諭したのは、少女だった。
男と血縁者なのか、彼女のツインテールの色も鮮やかな赤毛をしている。
少女は子どもらしくない無表情で、父上と呼んだ男の肩に手を置く。
「彼らはどちらかというと、実りをもたらす、というよりは、破壊的です」
少女は頭上に開かれた風通しのいい穴を指さし、その次にロラッドの足元を指さす。
そこには、根菜らしきものが粉々につぶれている。
赤髪の男は、愕然とした様子で、充血した目を力いっぱい見開いた。
「さっ……最後のイモがあああっ!」
床に突っ伏し、男泣きをはじめた赤髪の男を無視して、少女はセレルとロラッドにおじぎをした。
「はじめまして。私はミリムと申します。こちらは私の父上、カーシェスです。彼は少し情緒が豊かすぎるので、今はそっとしておいていただけると助かるのですが」
セレルも彼に関わると疲れそうだと思ったので、ここは意地を張らずに頷く。
「ぜひ、そうしたいです」
「ありがとうございます。実は、先ほど私は召喚術を試してみたのですが、実りの女神ではなく、あなたたちを呼び出してしまったようで、申し訳ありません。しかしおもてなしをするにも、食事は先ほどのつぶれたモモイモだけで……。しかし、もしかすると、まだあるかもしれません。今、探してくるので、しばしお待ちください」
「あの、呼び出したって……ここはどこなの?」
セレルはずっと気になっていたことを聞くと、ミリムと名乗った少女はツインテールを揺らし、振り返った。
「見ればわかります」
セレルよりずっと年上に見えるが、若々しく引き締まった身体によく似合う、風通しの良い素材でできた、動きやすそうな格好をしていた。
「成功だ! 女神がいる!」
張りのある大声に驚き、セレルはロラッドの手を振り払って硬直した。
セレルが明らかに動揺していても、赤髪の男は気にしていないのか、満面の笑みを浮かべると、昼寝を邪魔されてぼんやりとしているロラッドに詰めよる。
「こんにちは! 一応確認させてください……あなた、実りの女神様ですよね!」
期待に満ちた男のまなざしに、ロラッドは動じることもなく一瞥する。
「違うだろ」
「えっ! そういえば確かに……ちょっとでかくて血まみれな気もするけど……その神々しい美しさ! 正直に言ってください、女神様!」
「だから違う」
「そ、そんなはずは……」
男は視線をさまよわせると、ロラッドから、セレルに向き直った。
「ん。じゃあちょっと血色悪いけど、あんたが女神なのか?」
「私、女神の血は入ってないはずだけど」
「そんなことはないだろ。あんたらのどっちかが、ミリムの召喚術で呼び出された、おいしい食べ物を授けてくれる実りの女神のはずだ!」
赤髪の男は必死な様子で、手に持っている分厚い絵本を見せてくれる。
表題には、『スライムでもできる! 初心者にもわかりやすい、召喚術絵本!』とある。
のんきにあくびをするロラッドの横で、セレルは言いづらそうに口を開いた。
「申し訳ないんだけど、違うよ」
「そ……そんな! そんなわけが……!」
膝をつき、取り乱している赤髪の男の後ろで、扉が動く。
「父上、落ち着いてください」
静かに諭したのは、少女だった。
男と血縁者なのか、彼女のツインテールの色も鮮やかな赤毛をしている。
少女は子どもらしくない無表情で、父上と呼んだ男の肩に手を置く。
「彼らはどちらかというと、実りをもたらす、というよりは、破壊的です」
少女は頭上に開かれた風通しのいい穴を指さし、その次にロラッドの足元を指さす。
そこには、根菜らしきものが粉々につぶれている。
赤髪の男は、愕然とした様子で、充血した目を力いっぱい見開いた。
「さっ……最後のイモがあああっ!」
床に突っ伏し、男泣きをはじめた赤髪の男を無視して、少女はセレルとロラッドにおじぎをした。
「はじめまして。私はミリムと申します。こちらは私の父上、カーシェスです。彼は少し情緒が豊かすぎるので、今はそっとしておいていただけると助かるのですが」
セレルも彼に関わると疲れそうだと思ったので、ここは意地を張らずに頷く。
「ぜひ、そうしたいです」
「ありがとうございます。実は、先ほど私は召喚術を試してみたのですが、実りの女神ではなく、あなたたちを呼び出してしまったようで、申し訳ありません。しかしおもてなしをするにも、食事は先ほどのつぶれたモモイモだけで……。しかし、もしかすると、まだあるかもしれません。今、探してくるので、しばしお待ちください」
「あの、呼び出したって……ここはどこなの?」
セレルはずっと気になっていたことを聞くと、ミリムと名乗った少女はツインテールを揺らし、振り返った。
「見ればわかります」
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